関越道バス事故以降の高速バスを取り巻く状況はどうなる?|トピックスファロー

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2012年8月29日
関越道バス事故以降の高速バスを取り巻く状況はどうなる?

ローコストで長距離旅行を楽しめる手段であった高速バス。しかし、事故の多発と乗務員の就労超過など問題点が次々と浮き彫りになっています。高速バスへの規制は日帰りバスツアーなどにどのような影響を与えることになるのでしょうか?

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事故・違反が続く高速バスはこの先どうなる?

2012年4月に起こった関越道高速バス事故は、ある意味では起こるべくして起こった事故といえます。
高速道路を利用して長距離移動する高速バスは鉄道・飛行機よりも時間が掛かるものの、費用が安くちょっとした旅行には便利な物です。

しかし、規制緩和によって新規参入の増加と価格競争の激化によって安全性や質の低下などが目立つようになってきたところに関越道バス事故が発生し、問題がクローズアップされたというわけです。
高速バス、そして高速道路を利用するバスツアーは今どのような問題を抱えているのでしょうか?

乗車料金の引き下げによる人件費圧迫

規制緩和は、既存の業者による独占体制を崩し新規参入者を増やして競争を活発化させることを目的に行われるものです。
しかし新規参入者が、既に客からの信用と十分な設備を備えている既存業者の牙城を崩すには既存業者に真似できないような低価格路線で勝負するしかありません。

となると、ガソリン代は下げるわけにはいかない、バス内部の設備もそれなりでなければリピーターがつかない、まさか高速道路を走らないというわけにはいかない…という消去法によって、真っ先に削減対象になるのが人件費です。

低価格高速バスは運転手1人で運転からスケジュール調整、乗降車手続きなどを行わせることで人件費の削減を行うと同時に、過酷な労働状況を強いているのです。

脱法的ツアーバスの横行

注意しておかなければならないのは「高速道路を利用する高速バスのすべてが、運転手に多大な負担を強いている」というわけではありません。バスターミナルと高速道路を利用している路線バス以外の、いわゆる「高速ツアーバス」が問題なのです。

これはどういうことかというと、本来高速路線バスとしての運行には様々な条件や手続きが必要になるのですが、条件適合や手続きを受けないように「バスツアー」としての運行を行うという名目を立てることで、実質的には高速路線バスとして運行されているということなのです。
高速路線バスは「道路運送法」に基づく手続きと認可が必要になるのですが、高速ツアーバスは「旅行業法」の下で運営されるため、道路運送法から脱する形になっているのです。

しかし、乗客側で通常の高速路線バスと脱法的な高速ツアーバスの区別がつく人はそう多くないものです。そのため、低価格なツアーバスに乗客を取られた高速路線バスが廃線になるというケースも多発しています。

それ以外にも、高速路線バスのターミナルの無断利用や周辺道路への違法駐車など、高速ツアーバスの運行にはいくつもの問題が指摘されています。

今後は高速乗り合いバスに一本化

関越道バス事故の影響と度重なる高速ツアーバスによる脱法行為に痺れを切らした国土交通省は、2012年8月に「今後1年以内に高速ツアーバスを通常の高速路線バスに一本化する、応じない業者には法的措置も」という方針を発表しています。

この方針に従えば、ツアーバスで食いつないでいた中小の観光バス業者が一斉にドミノのように倒れることは間違いないでしょう。
また中小の観光バス業者を下請けにしていた観光会社の多くも大きな打撃を受けることになります。

善悪はともかく、「正直に法律に従って損失を出していた業者」が保護され「脱法行為で利益を出していた業者」が駆逐されることは、社会正義の発露であり仕方のないことなのです。

通常の高速バスツアーへの影響は?

高速ツアーバスの隠れ蓑として利用されてきたバスツアーは、今後の高速路線バス一本化によってどのような影響を受けることになるのでしょうか。

通常の団体旅行としてのバスツアーの運行については、高速路線バス一本化の影響を受けることはないと断言できます。ただし、交代人員の準備など人的資源をやりくりする負担の増加は確実にありうるものと考えられます。
また、バスへの搭乗口となる集合場所に規制が掛かる可能性も十分にありうるでしょう。

「安ければいい」を見直すべき時代

高速ツアーバスの隆盛と脱法行為の横行の背景には、規制緩和とデフレスパイラルがあります。

バブル崩壊以降、インフレの反動として「安ければ安いほどいい」という空気が醸成され急激なデフレスパイラルが進行していったことは言うまでもありませんが、デフレスパイラルが進行すると必要経費や安全マージンまでもが「経費削減対象」として扱われてしまうものです。
消費者にしてみれば安い方がお得なように感じられる物ですが、安さを維持するためには相応のリスクを負わなければならないものです。

著者:佐久間和夫

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WEBライターです。型にはまらず様々な情報を発信していきます。好きなものは酒、おつまみ、自転車。