『恐れられる喜び』?着ぐるみパフォーマが語る、ヒーローショーの裏バナシ|トピックスファロー

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2017年10月30日
『恐れられる喜び』?着ぐるみパフォーマが語る、ヒーローショーの裏バナシ
  

日曜日、昼下がりの午後。わが子を連れていくのは、キャラクターショーだ。

「みんなー、ゲンキー!?」

”お姉さん”の声かけに、歓声をあげる子どもたち。

怪獣がやってくる。

黒ずくめの悪役たちが、子どもたちの間を駆けまわる。

大きな声でヒーローの名を呼び、怪獣の姿に大泣きする息子の姿を見て、ふと思った。 子どもたちは、ヒーローに熱い視線を送る。

ヒーローは、そして悪役たちは、子どもたちをどう見ているのだろうか?

今回お話を伺ったのは、着ぐるみパフォーマーとして活躍していた成田俊郎さん。 着ぐるみパフォーマー歴20年の、大ベテランだ。

長きにわたり、ステージの上から子どもたちを見てきた成田さんに、着ぐるみの向こう側から見える世界を伺ってみた。

ヒーローを応援する、男の子と女の子

―成田さんは、正義のヒーローとして多くのステージに立ってきましたよね。ヒーローが出てきた時に、子どもたちがわぁっとなりますが、あれはステージ側からはどのように感じられるものなんですか?

慕われてる感じはすごくあるね。

『あなたのことが大好きです』っていう気持ち。これって、ふつうの日常生活では、ダイレクトにもらえることってなかなかないんだけど、それをバーンとぶつけられてるような感覚かな。 特に男の子の声援からもらえるパワーっていうのは、すごく強くて大きいよ。

―男の子たちは、引き込まれるようにショーを観てますもんね。1本見わったあとは、叫びすぎて声がカラカラになってたり。

そうそう。ヒーローって、ショーの中盤にいちどピンチになって倒されちゃうの。

で、MCのお姉さんが 『みんなの声援がエネルギーになるよ! 大きな声で、名前を呼んであげよう!』 ってよびかける。 男の子たちはね、そういうとき、腹の底からの大声で呼んでくれるんだよね。あれは何年ステージに立っていても、嬉しかったよ。

真夏、炎天下の舞台だと、もう暑くて動けない……なんてヘバりそうなときも正直あるんだけど、あの声援を受けると『負けてられないぞ、よっしゃ!』って気持ちで立ち上がれるんだよね。

―男の子たちの声援には、本当のエネルギーが込められているんですね。

そうだね。僕は何度も勇気づけてもらったよ。

―そういえば、戦隊物のヒーローショーって、小さな男の子たちがメインのお客さんなんですか?

そんなことないよ。小学生もたくさんいるし、女の子もけっこういるんだよね。

―先ほどは男の子たちの声援のお話でしたが、女の子の『ヒーロー応援スタイル』って、男の子とは違ったりします?

小さいうちは、女の子も男の子もおんなじ。前のめりになって応援してくれるよね。

でも、もうヒーローショーを卒業しかけの、小学生くらいの女の子のリアクションはすごく面白い。 たとえば…ショーの後には、ヒーローと一緒に写真を撮れる撮影会があるんだけど、10歳くらいの女の子って、そういう撮影したがると思う?

―う~ん、どうでしょう。女の子だったら、『そんなの子どもっぽい』ってイヤがるんじゃないですか?

そう思うでしょ? ところがね、来てくれるんだよ」

―へえ、意外ですね!

うん。『え~、やだ~』とか言いながらも、テレた感じで隣に並んでくれるの。

で、写真もちゃんと撮っていく。 彼女たちはもう、夢中になってショーを観たり、ヒーローに声援を送ったりはしないんだ。 でも、心の中では『ちょっと憧れのひと』みたいに思ってる部分がまだあるんだろうね。 女の子ならではの微妙な距離感は、見ていてとてもカワイイよ。

―あ~、なんかちょっと分かります。なんとなく気になってた素敵なセンパイと、記念写真を撮ってる……みたいな感じなんでしょうね、きっと。

淡い恋ゴコロ、みたいなね(笑)

悪役にとって、泣かれることは、嬉しいこと

―成田さんは悪役としても活躍されてきたんですよね。

ウルトラ怪獣の着ぐるみには、よく入ったね

―じつはうちの子、ショーで悪役が出てくるとギャンギャン泣くんですよ。一番後ろの列で見ていても、ものすごく怖いみたいで。あんまり泣くから、何だか申し訳なくなっちゃうときもあるくらいなんです。

そりゃ怖いでしょう。

怪獣の着ぐるみって、子どもにとっては見上げる大きさだからね。 しかも、色や形もブキミ。そんなやつが、ガーっと近づいてくるんだもの。 そのうえ、『さらわれちゃうかも』『食べられちゃうかも』『そしたら、もうママに会えない』って思うわけだから、一大事ですよ。ギャンギャン泣いて当たり前です。

―でも、めちゃくちゃ泣く子とかいると『え~、そんなに泣くなよ~』って思ったりしませんか?

あはは。怖がられるってことはね、僕らにとっては嬉しいことなんですよ。

―そうなんですか?

だって、それだけ目の前の世界に本気になってくれているってことだもの。 子どもたちが怖がってくれなければ、僕たちがいくら暴れたって、ニセの世界のままなんだよ。

彼らの泣き声と声援があって、初めてリアリティが生まれる。 あの声のおかげで、僕らは本当の『恐ろしい怪獣』や『強くてカッコいいヒーロー』になれるんだよね。

―なるほど、確かにそうですね。

それに、悪役が怖ければ怖いほど、子どもたちはショーの世界にグッと引き込まれるの。

ヒーローを応援する気持ちだって、悪役への恐怖や憎しみがあってこそなんだよ。 だから、怖がってもらえるって、すごく嬉しくて、ありがたいことなんだ。

―そう伺って、なんだか安心しました(笑)。

うん、めいっぱい泣いて、怖がってくださいね(笑)

どんなに手の込んだつくりの恐ろしい怪獣も、ピカピカしたコスチュームを身にまとった正義のヒーローも、ただそこにいるだけでは『着ぐるみ』にすぎない。

熱く応援し、そっと慕い、恐れて泣く子どもたちがいるからこそ、着ぐるみはヒーローと怪獣になれるのだと気づいた。

そう思えば、ヒーローショーの本当の主役は、観客である子どもたちなのかもしれない。

幼い声を糧にして、着ぐるみパフォーマーたちは今日もどこかで、ステージに立っている。
(インタビュー:田村もぐま)

著者:fourclass編集部

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