野菜で知られる朝採りレタス農家はターゲットを絞った農業で高収益|トピックスファロー

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2015年3月16日
野菜で知られる朝採りレタス農家はターゲットを絞った農業で高収益

TPPで日本の農業が危ない、などと叫ばれる中、独特のやり方でリッチな農業を営む地域がある。「朝採りレタス」は、深夜3時から収穫して、朝8時には収穫したばかりのレタスを首都圏に運ぶ。朝10時過ぎには首都圏スーパーの店先にレタスが並ぶやり方が確立している。

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後継者不足は無縁のレタス農家

後継者はフェラーリ??

群馬県赤城高原は、赤城山山麓に広がる丘陵地帯だ。
この赤城高原に位置する昭和村、赤城町一帯にはレタス畑が広がり、レタスの一大産地となっている。
赤城高原のレタスは、実に全国第3位の生産量を誇る(2011年の群馬県の野菜生産による)。
【全国第1位:キャベツ/2位:きゅうり、ふき/3位:ほうれんそう、なす、レタス、しゅんぎく、ちんげんさい】
出典:http://www.pref.gunma.jp/06/f2210167.html

今、日本の農業は後継者不足と共に高齢化が深刻な問題となっている。しかし、赤城高原のレタス農家に、その心配はないようだ。
レタス農家の70代のAさんは「子供が家業の農業を継いだら、まぁ、ご褒美にベンツやBMWあたりを買い与えるんだろうけど、ここらじゃ、もっと高いフェラーリだからね」と笑う。実際に昭和村にはフェラーリが走り回っているという。

1台1000万円以上の大型トラクター

耕作面積が1農家当たり10ヘクタール以上もある。そのため、作業効率をあげるために大型トラクターを所有している。
その大型トラクターの価格は1台1000万円以上。ただのトラクターではない。内部にはエアコン、ハイファイオーディオ、GPSが完備しているのだ。
「トラクターのベンツ」と呼ばれるドイツ・フェント社製は、最低でも2000万円はする。収穫用のオプション器具をつけると、3000万円を軽く超える。オプションには「自動運転」などもあり、何もしなくてもトラクターがプログラム通りに作業を行うようにすることもできる。このフェントのトラクターが何台も赤城高原のレタス畑で活躍している。フェントが気に入り、フェント一筋の農家もあるそうだ。

トラクターは外国製、日本製とあるが、こと大型になると馬力面から外国製に軍配があがるという。一般に日本の農家の規模は耕地面積が狭く、大型トラクターは持て余すが、ここは違う。
大型トラクターが活躍するのは、この赤城高原や、やはり高原レタス産地である長野の一部や、北海道ぐらいだ。

大型トラクターは公道を時速40kmから50kmで走ることができる。先ほどのAさんは速度を少し早くするため、サスペンションなどの足回りを強化した。その費用だけで200万円。小型乗用車1台分にもなる。それで早くなったスピードは10km程度だけ。それでもAさんは得意気だ。確かに大型トラックの運転席ぐらいの大型トラクターが走る姿は迫力満点だ。

ちなみに大型トラクターのタイヤは1年間びっしり使うと磨り減ってしまうのだという。タイヤの大きさは人間の背丈をはるかに超える。トラクター1台分のタイヤ交換費用は100万円にもなる。
トラクターのタイヤが磨り減るのは、農作業で減るのではなく、アスファルトの公道を走らせるのが原因だ。そのタイヤ代がもったいないから、と、畑から畑へ移動する際にトラクターを走らせないようにするため、トラクターを載せるトラックをわざわざ買った農家もいる。トラックの代金を考えると、タイヤ代が節約になるのか疑問だが、とにかく、お金の使い方が豪快なのだ。

深夜、ライトをつけての作業

朝採れレタスが人気

赤城高原のレタス農家は「朝採れレタス」を出荷する。夜明け前の薄暗い早朝に収穫するため、レタスに含まれているデンプンが糖に変わり、レタスの味に甘さがあると言われる。

収穫は午前3時前後から始まる。畑で投光器を点灯し、畑全体を照らす。収穫者はヘッドライトをつけて一玉ずつ切り取る。レタスの切り口は丁寧に洗浄され、ケースに収める。多い農家で、1日の収穫量は5000玉になることもある。
朝の6時過ぎまで収穫が行われ、レタスは地域にあるJAやスーパーなどの集荷場へ運ばれる。
集荷場で集められたレタスはトラックに積まれ、主に首都圏のスーパーなどに運ばれていく。そして、遅くともその日の午後には「朝採れレタス」として首都圏の店頭に並ぶ。
通常、青果市場などを通すと、収穫したその日に首都圏の市場に到着するものの、市場の倉庫で一晩保管され、翌朝セリにかけられ、卸業者から小売業者と渡る。だから小売業者が店頭に並べるのは、レタスが収穫されてから早くて2日後、大抵3日立ってからとなる。
それに比べると、「朝採れレタス」は、鮮度が抜群にいい。

収穫期は休みなし

ただし、農作業は楽ではない。レタス収穫期の毎年6月から10月中旬ころまでは、毎朝収穫があり、原則休みはない。収穫量が契約で決まっていることもあり、雨が降っても収穫する。台風でも直撃されないかぎり、畑に出る。

午前2時には起きて畑で収穫。午前9時までに家に戻り仮眠。午後2時過ぎには起き出して、農機具の準備や整備、畑作業。帰宅し夕食。そして明日に備えて早めに就寝する。この生活が半年間、毎日続く。つまり、高収入が得られる代わりに、この厳しい生活が強いられるのだ。
年間でレタス栽培から離れることができるのは、真冬の2~3ヵ月だけ。高齢の農家は温泉旅行で羽を伸ばす。若い層は遊んで過ごすか、趣味と実益を兼ねてスキー場でアルバイトをするという。
赤城高原のレタス農家は現在30代、40代の後継者が中心だ。Aさんも40代の息子さんと一緒に働いている。
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恵まれた環境を最大に生かす

地域色を生かす農業

赤城高原の場合、冷涼な高原の気候がレタス栽培に向いている。さらに関越自動車道があり、収穫したレタスをいち早く大消費地である首都圏に届けることができるメリットがある。
同様に「朝採れレタス」で有名な長野県川上村も、レタス栽培に向いている。
川上村も高原にあって涼しい気候に恵まれ、高速道路の中央道があり、首都圏までのインフラに恵まれている。川上村も「年収2500万円の村」として話題になった。

だが、全国のレタス農家がすべて裕福になれるわけではない。
レタス栽培に向く条件と、首都圏という大市場へのアクセスが便利なことに加え、長年に渡って、市場に大量の新鮮なレタスを供給してきたことが一番の要因だ。

川上村は日航機123便墜落事故の現場、御巣鷹山の麓、上野村のちょうど反対側に位置する。当時、日航機を捜索するため深夜に飛んでいた自衛隊のヘリコプターが、地上の明かりを墜落現場と思って着陸しようとした。
ところが、その場所は川上村のレタス収穫畑だった、とのエピソードがある。

墜落事故は1985年、すでに30年以上に渡って、ブランド化を進めてきたからこその成功なのだ。それこそ、休みなしで早朝から働き、地域ぐるみで確実に新鮮で大量のレタスを毎年生産してきた努力でもってブランドが確立しているといっていい。

赤城高原や川上村のレタス農家に憧れても、すぐにレタス農家になれるわけではない。農業者としての認定、農地の取得など、すべて現地の農業委員会などの許可、認定が必要となる。第三者がすぐなれるものではない。

今後「朝採れレタス」のブランド戦略は、農作物の差別化など、今後の農業が進むべき方法の一つであることは間違いない。
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著者:メイフライ

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スポーツ関連や、バイオマス、太陽光などのエネルギー関連で取材、ベンチャー企業の企画室での職務経験があります。