食べ歩きもよいけど郊外でリフレッシュも
台湾旅行の魅力、それはおいしいローカルフードに親切な国民性、そして美しい自然景観にある。日本同様に周囲を海で囲まれた島国で、面積は日本の九州ほどの広さながら、中央部を走る五つの山脈には標高3000m以上の山々が160座以上もあるというのだから驚く。
まさに変化に富んだ自然美の宝庫。だが大手旅行会社に勤める友人によると、日本から台湾に訪れる観光客の約8割が首都の台北に集中しているとのこと。それでは非常にもったいない!
そこで、台湾島の北東部に位置し、台北から気軽に行けるリゾート県としてローカルの人々に人気の宜蘭県を訪れてみた。
写真提供:中華民国交通部観光局 撮影:游福連
アクセスが不便だったため手つかずの自然が残る
「今から台湾で一番長い高速道路トンネルに入ります。雪山(シュエシャン)トンネルといいます」流暢な日本語で台湾人ガイドの陳さんが説明する。
「トンネルの長さは12.9km、高速道路のトンネルでは世界で5番目に長いです。このトンネルができる前は宜蘭に車で行くのはとても大変でした」
http://www.roc-taiwan.org/JP/ct.asp?xItem=45329&ctNode=3593&mp=202&nowPage=94&pagesize=15
宜蘭県は台北から直線距離だと50kmにも満たないが、そのあいだを雪山山脈が横たわっている。なにせ雪山山脈は標高3000m級の山が54座もある険しい山脈だ。2006年に雪山トンネルが開通するまでは、車で行くには4時間近くかかったらしい。
そうしたアクセスの悪さから、かつては開発も遅れ、そのぶん豊かな自然が多く残されているという。
ちなみに現在は台北から車で所用約40〜50分、高速バスも数多く運行されている。
鉄道だと台北駅から宜蘭駅までは特急で約1時30分。都心から日帰りも可能になり、週末には都会っ子たちが訪れるようになった。
一番手軽なリフレッシュ法、日本人の大好きな温泉!
忙しい都会人がもっとも手軽に癒される方法、それは温泉ではないだろうか。そう、台湾もまた温泉大国で100カ所以上の温泉街が点在している。なかでも「美人湯」として人気なのが宜蘭県の礁渓(ジャオシー)温泉だ。
源泉が流れる小川を中心に約1キロ四方にわたって形成された小さな温泉街だが、100軒以上もの宿泊施設が集まっている。温泉街に着くと、さっそく足湯を発見。
「ここには無料で楽しめる足湯がたくさんありますよ。台北からの日帰りのお客さんもいろいろな足湯を楽しんで帰ります」とガイドの陳さん。
試しに足湯に入ってみた。透明で匂いもなく、一見、普通のお湯と変わらない。だが、上がってみるとカカトまでスベスベになった。礁渓温泉の泉質は炭酸水素ナトリウム泉で肌の角質を取りのぞき、美肌効果があるという。「美人湯」といわれるゆえんだ。
「礁渓の温泉水はサラっとしているので飲用もできるのです。飲むと胃腸病や通風に効くと言われています」
写真提供:冠翔世紀温泉會館
森の中の和風の露天風呂でまったり
足湯でほんわかしたので、温泉街を散策しようと歩き始めた。だが目に飛び込んでくるのは原色の看板ばかり。「普通の繁華街みたいで情緒ないわー」などとつぶやいていたら、陳さんがイチオシだというスポットに連れて行ってくれた。
中心部から北へ徒歩15分、ビジターセンターに隣接した礁渓温泉公園だ。そこは和風な造りの温泉パークで、設計には日本人も携わったという。
「ここでは足湯に入る前に足を洗います」と促されて、大小の足湯のそばにある洗い場へ。比較的新しい施設で、とても清潔な雰囲気だ。足湯はもちろん無料で、この日の湯温は41.8度と表示されていた。
「本当のオススメは公園の奥にある森林風呂ですよ。日本風の露天風呂もあります」そう聞いては入らずにいられない。よく整備された公園内を5分ほど歩き、木造の湯屋へ。入湯料150元(約600円)を払って中へ。
台湾では水着を着用する温泉が多いが、ここは男湯と女湯に分かれているため裸で入れる。草木に囲まれた露天風呂と、木造の半露天風呂など数種類の趣きのある湯船があった。全身を湯船に浸かった瞬間、なんともいえぬ心地よさに包まれたのは、まるで日本にいるかのような安堵感からかもしれない。
http://www.escape2taiwan.com/blog/礁溪温泉公園/?lang=ja
大自然でのアクティビティで心が洗われる体験ができるかも
台北から宜蘭県へ向かうと、雪山トンネルをくぐり抜けた途端にアイランドブルーの海と緑の丘陵が車窓の外に広がる。そう、宜蘭県は都会の人達にとってマリンリゾートであり、のどかな田園リゾートでもあるのだ。
宜蘭2日目はその両方を体験してみることにした。
約80%の確率で見られる?! 人気のホエールウォッチング
宜蘭県の東側は太平洋に面した海岸線が延々と続く。最近では穴場の波乗りスポットとして世界中のサーファーたちが一目置いているらしい。一方、一般のツーリストにとってはクジラやイルカをまじかに見られるホエールウォッチングの名所だ。
朝8時30分に礁渓温泉から車で10分ほどの場所にある北東部の鳥石港(ニャオシーグァン)に到着。鳥石港は、なだらかな内湾で宜蘭屈指の漁港だ。ホエールウォッチングツアーはここから発着する。
洋上には変わった形の島影が見えていた。「あれは亀山島(グイシャンダオ)といって、文字通り亀の形をしています。宜蘭県のシンボルなんです」と陳さん。
「かつては軍用に使われましたが今は無人島です。これから乗る船は島の周囲をまわりますよ。2時間半くらい船に乗りますから、念のため酔い止めの薬を飲んでください」
撮影:林明仁
9時前、乗客にライフジャケットが配られ、身につけたらいざ乗船。この日はあいにくの曇り空だったが、何としてもクジラを見ようとデッキに陣取った。
30分ほどで船は亀山島の沖合へ到着。「あそこに海底火山がありますよ」と陳さんが指差す方向を見ると、そのあたりの海面だけ淡いターコイズブルーの色合いをしている。ほのかに硫黄の匂いがたちこめ、海面がぼこぼこ泡立っていた。
イルカそれともクジラ?どっちなの?!
しばらくして、急に乗客がざわつき出した。「イルカがいます、あっ、そこ!」と、陳さんが今度は別の方向を指差す。
目をこらすと黒い背びれのようなものが海面から出ている。次の瞬間、何頭かが飛び跳ねた。「ハシナガイルカです。彼らは群れをなして泳いでいるんです」
その後も何度もイルカの群れに遭遇した。時に彼らは船に向かって泳いできて、乗客の目の前でジャンプを披露することも。イルカたちは人間が自分たちを見にきているのを十分に自覚しているのだ。
そろそろお目当てのクジラも見たいな、と思っていると船が突然、停止した。船長から何かアナウンスがある。「クジラの群れがいるそうです」と陳さんがやや興奮気味に話す。
前のめりで沖合を見つめる乗客たちの視線の先には、尾ヒレのようなものが海面から突き出ていた。
と、いきなり2〜3頭が連れだってジャンプ! 大きさは先ほどのイルカと変わらないように見える・・・「オキゴンドウです!イルカより大きいです」と陳さん。
あとで調べてわかったのだが、オキゴンドウは小型のクジラで水族館などのイルカショーでも使われているらしい。そして学術上はクジラもイルカも同じクジラ目だ。
「このあたりは約80%の確率でクジラやイルカが見られます」クジラをもっと見たかった気もしたが、愛嬌のあるイルカくんたちをたくさん見られたから満足だ。
余談だが、この日は波も荒く嘔吐する乗客もいた。それを見たとき、陳さんの提言に心から感謝した。酔い止め薬は必携だ。
撮影:黄鼎軒
採れたてのオーガニック食材と自家製ワインで乾杯
昼は、地元の新鮮な食材を使った料理が食べられるという観光農園に向かった。鳥石港から北東へ車で約10分、深い緑と清らかな小川が流れる自然豊かな場所にある頭城(トゥチェン)レジャーファームだ。
ここは東京ドーム約85個分に匹敵する110ヘクタールもの敷地を持つ体験農園で、水田やオーガニック農場、果樹園、畜舎などのほか、カフェレストラン、ワイナリー、食堂、宿泊施設などが点在している。
空腹だったため、さっそくワイナリーの2階にあるレストラン「蔵酒酒荘」へ。
店内は三方が大きなガラス窓になっていて開放的な雰囲気。ここでは農園で採れたオーガニック野菜や肉などの食材と近くの漁港で水揚げされた魚介を使った創作フレンチを出している。
あらかじめ予約していたフルコースのランチは刺身の舟盛りから始まり、デザート&食後酒まであわせて10品。外はカリッ、中はしっとりのカニの素揚げや伊勢エビとスプリングオニオンの炒め物、自家製酵母パンで蒸し焼きした鴨肉など、どれもボリューム満点で、素材の旨みが味わえる絶品料理ばかりだった。
もちろん、ここで造られたワインやもち米酒との相性もバツグンだ。
食後は階下のショップへ。ブドウのワインのほか、キンカン酒や梅酒が人気だという。大きな甕のオブジェがある隣の建物はかつての貯蔵庫で、内部が見学ができるようになっていた。都会人が憧れるロハスな農園でDIY体験
食後は農園の人に案内してもらって散策。広い敷地内には、釣りのできる池やホタルが生息する小川、50年前の古民家などのほか、生ゴミを集めたコンポスト場のような場所も。
「うちは生ゴミや家畜のフン、落ち葉などを堆肥にした循環型農業を実践しています」なるほど。
「ここでは自然栽培の野菜の収穫や田植えのほか、ヤギや牛に餌をあげるといった農業体験ができます。DIYも人気ですよ」と言われ、とっさに「DIYって?」と聞き返してしまった。
「台湾では手作り教室をDIYと言うんです」と陳さんがこっそり耳打ちする。「DIY教室ではTシャツ染めやキンカン酢作り、ランタン作りなど季節ごとにさまざまなプログラムがあります」。いずれもファミリーや女子旅に人気があるという。
しばらく歩いていると「こんにちは」と、名物農園主の「卓ママ」こと卓陳明さんが日本語で声をかけてきた。
現在75歳だという卓ママは絵に描いたような肝っ玉母さんだ。台北での教師の仕事を40歳の時に突然辞めてこの土地を買い、ゼロから開拓して大規模な農園を築きあげた。
毎日農作業をしているという彼女は背筋も伸び、年齢よりもだいぶ若く見える。大きな石臼を引いて米粉を作る作業を自らやってみせてくれた。
宜蘭県には卓ママのように都会から移り住んで、あふれる情熱とアイデアで成功している観光農園がいくつもあるそうだ。
帰りに車で30分ほど南下した中山レジャー農場地区を訪れた。そこには20軒以上の農園があり、茶畑や果樹園、養鶏場などを営んでいる。
もちろん、ほとんどがDIYプログラムを行っていて、茶摘みやフルーツ狩り、茶蒸し玉子作りなどを体験できる。
「宜蘭県は都会の人にとって、いつかは住んでみたい理想郷なんです」と、台北生まれだという陳さんは言った。
宜蘭を知らずして台湾好きと言うなかれ?!
宜蘭県にはほかにも、先住民の村や樹齢千年のヒノキの森、珍しい低温温泉の冷泉など、美しい見どころやアクティビティが豊富だ。そんな魅力あふれるこの地方を外国人観光客にもっと知ってもらおうと、お得なキャンペーンをやっているという。
台湾のフラッグキャリアであるチャイナエアラインで台湾に行くと、宜蘭県内の宿泊施設やアクティビティ、レストランや夜市など80以上のスポットで割引になる(2015年11月30日迄。詳細http://www.china-airlines.co.jp/campaign/yilan/index.html)
なかには利用料金が半額になる施設もあるので、かなりお得だ。台北に行ったら、ぜひ宜蘭県まで足を伸ばしてみてはいかがだろう。
注目の宜蘭県のグルメやカルチャーは、続編にあたる次回の記事でたっぷり紹介しよう。