本来得るはずだった利益「逸失利益」とは
交通事故で死傷者が出た場合、車を運転していたドライバーに違法性や過失が認められると被害者やその遺族は加害者に対して損害賠償請求を行うことができます。
損害賠償とは被害者が被った損害を加害者が金銭によって補償するという制度です。
この補償には治療費や物的損害、休業補償、慰謝料だけでなく「事故がなければ本来得られるはずだった利益」も補償しなければなりません。
この、本来得られた利益のことを逸失利益や得べかりし利益(うべかりしりえき)と言います。
一般的に逸失利益は「本来得られるはずだった給与や収入」を基に計算されます。
逸失利益の計算で難しいところは、あくまでも事故時の収入状況をもとに将来何十年分もの逸失利益を予測するという点です。計算結果によっては「もっと逸失利益は大きいはず」とか「逸失利益がこれでは多すぎる」と答えの出るはずもない争いが被害者と加害者の間で起こることになります。
そうした争いを避けるために逸失利益計算の明確な計算方法が設けられています。
逸失利益の計算方法
逸失利益の計算方法は被害者が亡くなった場合と、被害者に後遺障害が残った場合で大きく変わります。
死亡した場合
被害者が亡くなった場合の逸失利益は
死亡事故逸失利益 = 年収 × (1-生活費控除率) × 就労可能年数 × 中間利息控除
で計算されます。
死亡した方の年収が就労可能年数分、計算されているのがわかりますね。
ここで、「生活費控除率」というのは死亡した方の生活費がかからないため「その分を減額する」という意味です。
「中間利息控除」というのは本来少しずつもらう収入をまとめてもらうことで資産運用することができ、それは不公平だという観点から運用で得られる利子分(法定利率で計算)をあらかじめ引いておくというものです。
そして「就労可能年数」は死亡時から67歳までの年数が一般的に用いられます。
後遺障害が残った場合
被害者に後遺障害が残ってしまった場合の逸失利益は
後遺障害逸失利益 = 年収 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間 × 中間利息控除
で計算します。
死亡時と異なっている点は「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」になります。
後遺障害の場合は「本来その障害がなければ得られるはずだった利益」を計算することになりますので、障害の内容によって逸失利益が大きく変わります。
障害が重度な1級の人は喪失率100%、7級で56%、最も軽度な14級で5%というように等級ごとに喪失率が決められています。また、障害によっては症状の改善などによって「労働能力喪失期間 = 就労可能年数」とならないこともあるため、障害ごとの喪失期間が用いられているのです。
「損害賠償が巨額だから安全運転」ではない
逸失利益によって巨額な損害賠償となる交通事故ですが、この制度の狙いは「被害者の救済」と「交通事故の抑制」の二つの側面があります。
巨額の賠償請求は、許されない違法行為によって損害を被った被害者を救うということはもちろんですが、危険な運転をすることで人に危害を加えてしまうことを軽視するドライバーへの抑止力ともなるのです。
社会のルールを全員が守り、みんなが安心して暮らせる社会を作っていくためには「法律」と「倫理」の両方が必要です。「法律で禁止されているからやってはいけない」ということだけでなく「自分が人にされて嫌なことは人にしない」といった基本的なルールを守らなければなりません。
逸失利益の制度は単純な補償制度ではなく、そういった倫理的な面も考えさせるものです。
車を運転する方は、「逸失利益で巨額な損害賠償がくるから気をつけよう」ではなく、やはり「人を傷つけるとその人の将来を一瞬で奪ってしまうから気をつけよう」と考えるべきでしょう。
車を運転するときには自分と自分以外の人の将来に影響を与えうる行為をしているんだ、と自覚して安全運転を心がけたいですね!