日本マクドナルドの失敗
2006年から社員が競争意識の中で実力を高めていく事を目的とし定年制を廃止。社内に実力主義の意識を高めようとしました。
しかし若手を育てるはずのベテラン社員が、若手の育成よりも自分の成果を上げる事を優先。
結果として人材が導入以前よりも育たないという、全く逆の現象が起きてしまい、定年制を再導入しました。
はたして、若手を競争の中で育てようとした日本マクドナルドの何がいけなかったのでしょうか?
成果主義の問題点
大きな問題点は『成果が分かりにくい』という事にあります。
成果主義は企業経営とっては不利益ばかりではないかもしれません。
しかし人材育成の方法としては、そもそも機能しない構造があります。
不当な評価で働く気がしない
『成果』とは売り上げのように目に見えるものばかりではなく、また『結果』を判断するのも同じ人間の為、常に正当な評価が下されるわけではありません。
不当な評価は社員の不満を招くことになり、「いくら頑張っても無駄」と労働意欲の低下を招きやすくなります。
極端な例を挙げると、よく飲みに行き話を聞いてくれる部下と、あいさつ程度しか交わさない部下が同じ売り上げという『結果』を出したとき、はたしてどちらが高く『評価』されるのか、という事になります。
付け加えると、社交性は本人の資質やスキルであって、成果ではありません。
目に見えるものしか認められない
さらに、売り上げの低下は即座に『成果』の低下とみられ、その間にある努力や経緯は一切評価されることはありません。
その為に、すぐに安定した売り上げを期待でき、失敗のリスクの少ない定番にしか手を出さなくなり、技術開発や長期プランでの仕事に着手しようとする社員はいなくなるでしょう。
定番。言い換えればマニュアルが確立している物にいくら取り組んだとしても、スキルの向上は望めません。
技術の囲い込みと個人主義
自分だけが持っている技術や知識は、組織の中で一歩抜きんでるための大切な武器です。
そのアドバンテージを守る為、技術を囲い込み、他に流れるのを防ごうとするでしょう。
技術を盗まれないようする為、誰かと連携して仕事をするのが難しくなり、部署間はおろか個人の間でも交流が無くなっていきます。
なぜ日本マクドナルドは失敗したのか
直接の原因は、「本来、教育する立場にある者がそれを怠った為」なのですが、それは予想できたはずです。
根本的な原因を探るなら、「人材育成を掲げながら、人材の育成をすることに『成果』を与えなかった事」にあると考えられます。
誰が好き好んで自分の成果を落としてまで、自分のライバルを増やし、自分がクビになる確率を増やすというのでしょうか。
人材育成の評価を誰の目にも分かりやすく、さらに売り上げなどよりも高く評価されていればこのような事態は避けられてかもしれません。
日本の成果主義の失敗例
マクドナルド以前にも成果主義を導入した企業として「富士通」と「三井物産」がありますが、どちらの企業も失敗し、10年と経たずに軌道修正を余儀なくされています。
このように、成果主義をもって人材育成を行うのは難しい試みと言えましょう。
一方で実力主義と言われる外資系は、成功しているように見えますが、なぜなのでしょう。
なぜ外資系は成功しているのか
外資系は経営方針の結果として成果主義になっただけで、人材育成の方法として成果主義を取り入れている訳ではないように感じます。
外資系と日本。いったい何が違うのでしょうか?
そもそも意識が違う
外資系で働く人の多くは、実力主義の中で勝負する事を決めて就職しているため、心理的な抵抗がありません。
さらに海外のビジネスでは男女問わす年齢の話はタブーとされるように、意識的に年齢を排除して実力のみを見てくれます。
「前進するか、辞めるか」という現実
日々自分を高めていないと、すぐに取り残されるという現実が、実力主義の意識を作り上げるのでしょう。
よく言われる言葉の中で、「Up or Out(前進するか、辞めるか)」というのがあります。
この言葉通り、出来る社員はどんどんと出世して多額の給料を得ることが出来ます。
同じ30代の年収では、国内の企業と外資系企業の間に平均で80万円近い差が生じているとの発表もありました。
一方で、出社したらそのまま上司に会議室に連れていかれ、クビを宣告されることも少なくないようです。
これは社長も例外ではなく、業績の不振が続けば株主により退陣へと追い込まれることもあります。
また部下が上司を匿名で評価できるシステムがあり、どのようなポストに合っても油断はできません。
技術は会社が教える
日本マクドナルドは、現場で成果を出さなければいけない社員に、さらに人材育成という重石を背負わせたために失敗しました。
しかし外資系では、スキルやマネージメントなどの学習には会社主導の社内トレーニングがあり、社員は自由に参加できます。
トレーニングに費やす期間に個人差はありますが、1年のうち1か月をトレーニングに費やす人もいるほどです。
ヘッドハンティングが横行する社会に合って、企業も「終身雇用はしないが、企業にいる間のスキルアップはサポートする」という考えがあるようです。
そうする事により、社員が自分の成果を削ってまで部下の育成をおこなうという事が無くなり、なおかつ一定以上のスキルを全員が共有する事となりました。
成果主義の中では他人の失敗を被せられても、それは自分の評価とされます。
何かの問題が起きた時には、盗まれて困るようなものは無いため、事前に交流をはかり複数で問題解決にあたる事が出来るようになっています。
成果主義で人は育たない
企業成長を握る人材の育成はさけて通れない問題ですが、定年制や終身雇用の全てを認める訳ではありません。
しかし成果主義を人材育成の方法とするのが間違っているのは明白です。
年金の引き上げや、40歳定年制など日本の雇用制度は変わりつつあります。
今の時代に合わせた企業のあり方をもう一度考える時期に来たのかもしれません。