死亡例も!?インプラント治療で起こりうる事故
「健康な歯を抜歯しなくても治療できる」「固定力が入れ歯やブリッジよりも強いので硬いものも安心して噛める」「見栄えが良い」…など、インプラントには多くの利点があります。
治療に健康保険が効かず、入れ歯やブリッジよりも高くつくのが玉にキズですが、入れ歯やブリッジでは無理だったせんべいやアワビの刺身といった歯ごたえを楽しむものがバリバリ食べられるようになるのが最高の利点といえます。
しかし、治療費が高い以外は良いとこ尽くめのように見えるインプラントは歯茎にメスを入れ骨にドリルを掛けるため、時に命取りになってしまうことがあるのをご存知でしたか?
日本でも起こったインプラント死亡事故
2007年5月、東京都下のインプラント治療で有名な歯科医院で70代の女性を対象とする下あご右奥歯へのインプラント移植を行う手術中、あごの骨に穴をあけるドリルがあご骨を貫通し動脈を切断してしまい大量出血による窒息で心肺停止状態になり、翌日死亡するという事故が起こりました。
これが日本におけるインプラント治療での初の死亡事故となってしましました。
この事故は、事故発生から4年後の2011年に手術の執刀医であった医院長が業務上過失致死の容疑で書類送検・在宅起訴されるという事態にまで発展しています。
インプラント手術で神経損傷・切断するケースも
死亡事故とまではいかなくても、インプラントの治療では大なり小なりの医療事故が発生しています。
インプラントの事故で多いと言われているのが知覚神経を損傷・切断してしまうケースです。
虫歯の治療で神経を抜いた経験のある人も多いかもしれませんが、「治療としての神経切断」と「偶発的な神経切断」は全然内容が違います。
口の知覚神経を損傷・切断すると、麻酔が掛かっている時のような痺れに似た麻痺がおこります。
神経の損傷ならば自然治癒する可能性がありますが、切断してしまうと自然につながることはなく麻痺が残った状態になってしまいます。
インプラント治療で事故が発生する理由とは?
インプラント治療において、医療事故が起こるのは口周辺に多数の血管や神経が集中していることが原因の一つであるといえます。
インプラントの移植手術では、歯茎にメスを入れて切開し上下のあごの骨にドリルを掛けて、フィクスチャーを挿入する穴を開けます。
刃を動かした分だけが切れる範囲になるメスと違って、電気や空気圧を動力として動く歯科医用ドリルは押し込んだ分だけ深く掘れるだけでなく、空いた穴周辺の組織まで巻き込んでしまうのです。
そして下顎骨の真下には「下顎管」という血管や神経が通っている管があり、下顎骨に穴をあけていたドリルが貫通してしまうと、下顎管を巻き込み切断してしまうことになります。
また、下あごから舌側には「舌下動脈」という血管があります。ドリルの刃が斜めになっていると舌下動脈を損傷してしまうことになります。舌下動脈は止血の難しい血管とされていて、前述したような死亡事故に発展する恐れがあるのです。
このような手術器具の操作ミスによって事故が引き起こされる原因の一つは執刀医の実力不足であると言わざるを得ません。
どうすれば事故を防げるのか
もちろん、インプラント治療を扱っている歯科医院でも事故防止に尽力しています。
血管・神経の位置は人それぞれによって異なるため、手術前に正確に血管・神経の位置を把握するため血管・神経が映るCTスキャンを行うことは事故防止策の基本といえます。
通常のレントゲンは骨しか映らないため、血管や神経の位置を測定・把握することが出来ません。つまり、CTスキャナーを備えている歯科医は事故防止を考えているとみて間違いないでしょう。
また、メスやドリルを使わないタイプの新しい手術法を取り入れている歯科医も事故防止を考えていると見做しても問題ないでしょう。
インプラント治療で事故に合わないためには、腕前だけではなく設備の状況についても下調べしておく慎重さが大事なのです。