大卒者の就職率93.6%って本当?
厚生労働省と文部科学省の調査によると、平成23年度の大卒者の就職率は93.6%で前年より2.6ポイントも改善したそうです。 これを聞くと
- 大学に行けば93.6%の人が就職できるんだな
- 不況、不況と言うけれど、意外に日本経済も好調なんだな
と就職活動や日本の経済状況を楽観的にとらえてしまう人も多いことでしょう。
しかしこの数字には「大卒者の就職率」というだけでは表現しきれていない重要な条件が隠されているのです。
昨年度の就職率が93.6%なのは間違いないのですが、その計算方法を知っているのと知らないのとでは、就職活動への必死さが変わってきてしまうので、まずはこの就職率計算のからくりを理解しましょう。
93.6%は「就職希望者の就職率」
厚生労働省と文部科学省が毎年算出している大卒の就職率は「大学等卒業予定者の就職状況調査」というものです。
この調査では下表112校の学校6250人に対して電話・面接での就職状況聞き取りを行います。
調査対象校と人数
調査校 | 学校数 | 調査対象者数 |
---|---|---|
国立大学 | 21 | 5690 |
公立大学 | 3 | |
私立大学 | 38 | |
短期大学 | 20 | |
高等専門学校 | 10 | |
専修学校 | 20 | 560 |
合計 | 112 校 | 6250 人 |
ここで大事なのが就職率の計算方法ですが、この調査における就職率とは次式で表される「就職希望者のうち就職が決定した人の割合」になっています。
就職率 = 就職決定者 ÷ 就職希望者
これはつまり大学卒業者のうち就職した人の割合でなく、就職希望者の中で就職が決まった人の割合であるということで、重要なポイントです。
そして大学卒業者のうち「就職希望者でない人」というのは以下の人たちです。
- 進学・留学希望者
- 公務員浪人者
- ニート・フリーター希望
そしてこの調査で示されている就職率はあくまでも「就職希望です。」と答えた人が対象になっている数字だということを知っておかなければなりません。
すなわち、ニート・フリーター希望と言う人はこの調査の対象外となり、就職率の数字には全く表れてこないのです。
これは就職希望で就職活動をしていた人の就職が決まらなかった場合にも「就職希望じゃありませんでした」と答えれば就職率の計算には入らないということも意味します。
就職率の中にこうした就職していない人たちの情報が全く含まれないというのは良くないと思いませんか?
「就職率が上がった」という場合に、本当に就職者が増えたのか、就職希望者の数が減ったのか区別がつきません。
知るべきは「卒業生全体の就職率」
「就職希望者の就職率」の場合、大学卒業者の中でどのくらいの人が就職希望者なのかによって数字の意味が大きく変わってきます。
例えば、ある大学で卒業生が1000人いて、そのうち就職希望者の就職率が90%だったとします。
もしも就職希望者が1000人だったとすると900人が就職したことになり、「この学校は就職に強い学校だ」と評価されてもおかしくない数字です。
しかし、就職希望者が10人だったとすると就職した人は9人となり、「この学校は就職に有利です」と言われても、それが正しいかどうかは難しいところですね。
ただ、就職率で言うと両方とも90%ですので、「うちの学校は就職率が90%で高いんです!」という宣伝は正しいことになります。
しかし、卒業生の数と就職者数を考えると前者は1000人中900人、後者は1000人中9人と大きな差があります。
したがって、就職率として考えなければならない数字は「就職希望者の就職率」だけでなく、「卒業生全体の就職率」も重要と考えられます。
卒業生全体の就職率を知るには?
その学校の卒業生のうち何人が就職し、何人が進学し、何人が進路未決定なのかといった情報を調査しているのが文部科学省の「学校基本調査」です。
この調査は毎年行われ、学校教育法で規定されている全ての学校を調査するため信頼できる統計データを得ることができます。
このデータは「就職希望」などの意思に関係なく事実のみに注目するため、客観的なデータが得られます。
この学校基本調査で平成23年度のデータを見てみると下表のようになっています。
平成23年度 卒業後の状況調査(高等教育機関)
学校区分 | 卒業者数 | 就職者数 | 就職率 |
---|---|---|---|
大学 |
552,358 | 340,143 | 61.6 |
大学院 |
99,384 | 67,434 | 67.9 |
短期大学 |
66,871 | 45,580 | 68.2 |
高等専門学校 |
10,155 | 5,518 | 54.3 |
合計 |
728,768人 | 458,675人 | 62.9 % |
表から、高等教育機関における卒業者の就職率は63%程度であることがわかります。
これはもちろん就職を希望した人のうち60%の人が就職できたという意味ではなく、日本の高等教育に進んだ人のうち卒業時に就職が決まる人はこれくらいだということがわかる数字なのです。
こちらの卒業後状況調査ではこれら就職者数だけでなく、進学者や留学者、一時的な仕事に就いた者、などの数もわかるため、就職率を深く知るための良い情報が得られます。
平成23年度の大卒等就職率は93.6%だったと言われるのと63%でしたと言われるのとでは受ける印象が大きく違いますね。
両方とも統計の手法として正しい調査を行っていますが、同じ「就職率」でもその意味が大きく違うのです。
現状を知った上で就職活動を
就職活動の難易度や方法はその時代によって大きく変わっていきます。
就職氷河期の現代とバブル時代の就職活動は全く違い、私たちは今の日本社会の状況に基づく適切な就職活動を行わなければいけません。
就活の現状を知る上で参考になる「就職率」ですが、その意味を履き違えて理解していると大きな失敗につながってしまうかもしれません。
「就職率が○○%です」とニュースで言っていたら「その就職率の分母は何だ?」と気をつけるようにしてみましょう。
成功する就職活動の始まりは「今の就職率を正しく理解すること」から始まるのです。