安定した農業運営には収支記録は必要不可欠
農業は高価な大型農耕機や倉庫付きの住居、高級車がつきものなので「高給を稼げる職業」であると考えられがちです。おそらく多くの就農希望者もそうした考えを抱いている事でしょう。
しかし実際には農業は多額のお金が入ってくるものの、運営していく上では同じくらいの額のお金が出ていくものです。お金の出入りを曖昧にしたまま、入ってきただけ使っていてはあっという間に経営破たんに追い込まれてしまうのです。
農業にも簿記は必要不可欠
自営業である以上、農業も収支の計算と帳簿への記録を行う簿記が必要不可欠になります。
トラクターやコンバインなどの農耕機や住居などはローンなしで買うことは難しいし、毎年植え付ける苗や種も買わなければなりません。作物を育てるには肥料も農薬もいるし、収穫ともなればアルバイトを雇うなりして人手を増やさなければならないことだってあるのです。
無事作物を収穫して市場に出しても、買取価格が例年平均価格を下回る可能性だってあります。場合によっては収穫待ちの作物をトラクターでつぶして生産調整しなければならないことさえあります。それに冷夏や水不足などの天候不順が原因で出来高が去年よりも少なければその分だけ収入は低下します。
このように、不安定な収入と重なる支出を簿記で正確に把握することは天気頼りになりがちな農業を安定して運営していくために欠かすことはできないのです。
農業の簿記には原価計算も必要
農業のための簿記で、大事なことの一つに「原価の概念」が挙げられます。農業は「作物が出来た、売れた」ではなく「種・苗を買った、肥料と農薬を買ってどれだけ使った、作物が出来た、売れた」というステップを踏みます。つまり、作物を売って出た収入だけを見るのではなく「作物が出来るまでどれだけの支出があったか」を重視しなければならないということなのです。
原価計算をおろそかにしていると、目先の収入に気を取られて支出が嵩んでいることに気が付かず赤字が膨らんでしまう結果に繋がってしまいます。
1個500円で売れる作物があったとしても、1個育てるのに500円以上かかるのでは赤字を育てているようなものです。
原価を把握して、1円でも利益が出るかどうかを考えた上で作付けを行わなければ農業はたちまち破綻してしまうことになるのです。
事業改善にも効果を発揮する
簿記で収支の記録を取ること、原価計算を行うことは事業の見直しと改善にも効果を発揮します。
事業の改善とはすなわち「無駄を削って利益を増やす」ことで、もしも原価が高い作物があれば育て方に何か不備があって原価が高くなっている可能性があります。
作物だけでなく必要だと思って購入した資材の使用状況や在庫、農耕機の整備維持費、車や住居のローン、生活費なども帳簿を突き合わせていけば、無駄遣いや返済を見直す必要があることに気が付くのです。
農業は自然の中で暮らす牧歌的なイメージばかりが喧伝されていますが、このように綿密かつ具体的な帳簿を付けていないと続けていくことが難しいという側面も持っているのです。