増える耕作放棄地…再利用の手立てはあるか?
新規就農者が増加傾向にある一方で、既存の農家が廃業、または後継者不足によって発生する「耕作放棄地」の増加が大きな問題になっています。
耕作放棄地とは読んで字の如く、「耕されることが放棄された農地」のことで減反政策などによって手付かずになっている休耕地も含まれています。農林水産省のまとめた「農林業センサス」によれば、2005年の時点での耕作放棄地面積は約38万6000ヘクタールに及ぶとされています。これは東京ドーム82558個分の面積に相当します。
耕作放棄地がもたらすデメリットとは?
耕作放棄地が増加することは、既存農家にとっても新規就農者にとっても非常に大きなデメリットをもたらします。
雑草の温床
作物の育成において、最大の邪魔者になるのが雑草です。雑草を放って置くと作物に行き届かせるべき土の栄養を横取りしてしまい、作物の生育を頭打ちにしてしまうのです。 耕作放棄地では雑草が繁茂していて、周辺にある農地に雑草を飛ばしてしまう原因になるのです。
病害虫の温床
農業で農薬を使用するのは、いもち病に代表される作物の病気やアブラムシなどの害虫から作物を守る為です。しかし、人の手が入らない耕作放棄地では病気や害虫が農薬に脅かされること無く活発に活動しているのです。そして雑草と同じように周辺の農地で育っている作物に病気や害虫の被害が及ぶ原因となるのです。
動物が棲み付く
時間が経過した耕作放棄地は天然の藪と区別できないほど草木が生い茂っていきます。天然の藪は、シカやイノシシなどにとっては絶好の棲み家でもあります。シカやイノシシは、耕作放棄地周辺の農地で栽培されている野菜を狙ってくるため、食害が多発します。
しかもイノシシは食害だけでなく人間にも危害を及ぼすことがあります。イノシシの牙は天然のナイフのように研ぎ澄まされている上に、原付バイクに匹敵する速度で体当たりを仕掛けてくるため、死傷者が出ることさえあるのです。
ゴミの不法投棄が多発
耕作放棄地は草木が繁茂することによって藪のようになってしまうわけですが、藪の中に分け入れば外からの人目に付かないスペースが広がっているということです。
そのため耕作放棄地に発生した藪の中に、粗大ゴミなどが不法投棄されるケースも後を絶ちません。ゴミの中には土壌汚染の原因になるものが含まれているケースもあり、周辺の農地に悪影響を及ぼす危険性があるのです。
すぐに農地として使えるわけではない
多くの実績を残してきた農地でも、一度耕作放棄地になっていると農地として再活用するのが難しくなってしまいます。例えば繁茂した雑草を全て刈りつくしても地下茎が残っているケース、土壌に含まれる栄養素の割合が栽培向けでなくなっているケース、不法投棄されたゴミで土壌が汚染されているケースなど様々な原因が絡んできます。
それこそ土を総入れ替えするくらいの投資と手間を掛けなければ、農地として再活用することができないことさえあるのです。
各地で広がる耕作放棄地再生プロジェクト
耕作放棄地が増える一方で新規就農者が増加しているということは、逆に言えば農地の需要と供給が釣り合っている状態に近づいているということでもあります。
そのためか、日本各地では行政が音頭を取って耕作放棄地の再生・再利用を図る各種プロジェクトが進行しています。
例えば、ソフトバンクが進めている大規模太陽光発電所計画は、耕作放棄地を建設用地として再利用するプロジェクトとしての側面を持っています。
九州などでは牛の放牧地として耕作放棄地を再利用する試みが広まっています。
それ以外にも新規就農者が使えるよう開墾したり、企業の参入による農地再生など、耕作放棄地の減少に向けてのプロジェクトが幾つも進行しているのです。