企業経営は利潤追求だけではない
企業経営を考える時、頭に浮かぶのは「どうやって利潤を出すか」「何をすれば儲かるか」「利益を出すには何をして何を削ればいいのか」というのが真っ先に出てくると思いますし、実際に毎日数字を前にして悩んでいる方も多いでしょう。
しかしマネジメントの父、ドラッガーは「組織が存続し活動するための利益は確保しなければならない。しかし利益は目的ではなく、企業を運営する条件でしかない」という言葉を残しています。
極端な例を挙げるならば、中国の廃棄油を原料とした地溝油の問題でしょう。
利潤追求のみを重視するのであれば、地溝油の存在を認めなければなりません。
人件費はコストなのか
利益を求めた時の手段として、多くの企業は人件費のカットに着手します。
例えば、大手コンビニ「セブン-イレブン」を傘下に持つ「イトーヨーカ堂」は、正社員8000人を半数の4000人に減らす方針を決定しました。
そんな中で『社員をコスト扱いするな』という考えの元、成功している経営者がいます。
日本一幸せな会社としてメディアに何度も取り上げられている、岐阜にある未来工業の創業者、山田昭男さんです。
時代の流れに逆行するかのように、全員が正社員、年末年始には20日間以上の休暇、定年70歳と、とことん社員が働きやすい環境を作っているだけでなく、クイズに正解すると元々とれる半年間の有給とは別にさらに半年間。合計1年もの有給を認める等、利潤追求の会社では考えられないアイデアでメディアを驚かせてくれました。
この社員重視の考えの根底には、「社長の仕事は社員を幸せにする事」という考えがあるといいます。
実際に働いて利益を上げているのが社員だということを念頭に置いて、いかにして社員のやる気を引き出すかという事に重点を置いた結果、今の体制が出来上がったという事でしょう。
また「社員を幸せにすればこの会社の為に頑張ろうという気力がわいてくる。その結果として会社が儲ければ、その分をまた社員が幸せになる事に使う」と語っています。
この取り組みは、冒頭のドラッガーの「会社の維持に利益は必要だが、目的ではない」という考えにあてはまるものではないでしょうか。
実際に大手メーカーが赤字の削減に苦しむのを横目に、毎年着実に利益を上げ、平成23年の売上高は219億円という成果を出しています。
多くの経営者はこの決断に踏み切れません。「あなただからできるのです」という言葉を口にします。
しかし山田社長は「儲かってない会社が、儲かってない会社の真似をしてどうする。差別化すれば大企業に勝てる」と続けています。
社員は子供と同じ
未来工業と同じく、ユニークな方法で社員を育てている企業があります。
それは大阪の「吉寿屋」。
この企業は年に1回、1キロ(約430万円)の金の延べ棒を、あみだで当たった社員に贈るという事を行っています。
さらに、海外旅行、温水洗浄便座と社員への利益還元策はとどまるところを知りません。
これに対し吉寿屋の神吉会長は「社員は子供と同じ。子供のためなら当然行うべきだ」と答えています。
また「会社経営で最も大切なことは社員を育てる事。社員が育てば取引先は信頼してくれるし、企業の成長につながる」とも指摘しています。
企業成長のカギは人材育成
この2つの企業は共通して人材の育成と定着に力を注いでいる事。
未来工業が定年を70才としているのは、むしろ若い世代を会社に根付かせようという意図があります。
自分より年上の社員が元気に働いているのを見れば、働き盛りの世代は安心して仕事に集中できるし、この会社で働き続けようという気にもなるでしょう。
吉寿屋にしても、会社がこれだけ社員の方を向いているのであれば、ここを辞めてまで他で働こうなどとは考えないでしょう。
企業は株価を上げる道具ではない
「会社は株主の物」という考えが経営者の間では一般的に言われています。
それが間違っているとは言えません。しかし常に株主だけを見ているのはどうなのでしょうか。
企業はただ株価を上げる為だけに存在している訳ではありません。
社員の働きに対して、顧客が満足すれば、業績上昇という結果がついてくる。
株価の上昇はそれに付随する結果の一つに過ぎません。
企業の成長は、どれだけ社員を幸せにできるかが重要なのかもしれません。