日曜日、昼下がりの午後。わが子を連れていくのは、キャラクターショーだ。
「みんなー、ゲンキー!?」
”お姉さん”の声かけに、歓声をあげる子どもたち。
怪獣がやってくる。
黒ずくめの悪役たちが、子どもたちの間を駆けまわる。
大きな声でヒーローの名を呼び、怪獣の姿に大泣きする息子の姿を見て、ふと思った。 子どもたちは、ヒーローに熱い視線を送る。
ヒーローは、そして悪役たちは、子どもたちをどう見ているのだろうか?
今回お話を伺ったのは、着ぐるみパフォーマーとして活躍していた成田俊郎さん。 着ぐるみパフォーマー歴20年の、大ベテランだ。
長きにわたり、ステージの上から子どもたちを見てきた成田さんに、着ぐるみの向こう側から見える世界を伺ってみた。
ヒーローを応援する、男の子と女の子
―成田さんは、正義のヒーローとして多くのステージに立ってきましたよね。ヒーローが出てきた時に、子どもたちがわぁっとなりますが、あれはステージ側からはどのように感じられるものなんですか?
慕われてる感じはすごくあるね。
『あなたのことが大好きです』っていう気持ち。これって、ふつうの日常生活では、ダイレクトにもらえることってなかなかないんだけど、それをバーンとぶつけられてるような感覚かな。
特に男の子の声援からもらえるパワーっていうのは、すごく強くて大きいよ。
―男の子たちは、引き込まれるようにショーを観てますもんね。1本見わったあとは、叫びすぎて声がカラカラになってたり。
そうそう。ヒーローって、ショーの中盤にいちどピンチになって倒されちゃうの。
で、MCのお姉さんが
『みんなの声援がエネルギーになるよ! 大きな声で、名前を呼んであげよう!』
ってよびかける。
男の子たちはね、そういうとき、腹の底からの大声で呼んでくれるんだよね。あれは何年ステージに立っていても、嬉しかったよ。
真夏、炎天下の舞台だと、もう暑くて動けない……なんてヘバりそうなときも正直あるんだけど、あの声援を受けると『負けてられないぞ、よっしゃ!』って気持ちで立ち上がれるんだよね。
―男の子たちの声援には、本当のエネルギーが込められているんですね。
そうだね。僕は何度も勇気づけてもらったよ。
―そういえば、戦隊物のヒーローショーって、小さな男の子たちがメインのお客さんなんですか?
そんなことないよ。小学生もたくさんいるし、女の子もけっこういるんだよね。
―先ほどは男の子たちの声援のお話でしたが、女の子の『ヒーロー応援スタイル』って、男の子とは違ったりします?
小さいうちは、女の子も男の子もおんなじ。前のめりになって応援してくれるよね。
でも、もうヒーローショーを卒業しかけの、小学生くらいの女の子のリアクションはすごく面白い。
たとえば…ショーの後には、ヒーローと一緒に写真を撮れる撮影会があるんだけど、10歳くらいの女の子って、そういう撮影したがると思う?
―う~ん、どうでしょう。女の子だったら、『そんなの子どもっぽい』ってイヤがるんじゃないですか?
そう思うでしょ? ところがね、来てくれるんだよ」
―へえ、意外ですね!
うん。『え~、やだ~』とか言いながらも、テレた感じで隣に並んでくれるの。
で、写真もちゃんと撮っていく。
彼女たちはもう、夢中になってショーを観たり、ヒーローに声援を送ったりはしないんだ。
でも、心の中では『ちょっと憧れのひと』みたいに思ってる部分がまだあるんだろうね。
女の子ならではの微妙な距離感は、見ていてとてもカワイイよ。
―あ~、なんかちょっと分かります。なんとなく気になってた素敵なセンパイと、記念写真を撮ってる……みたいな感じなんでしょうね、きっと。
淡い恋ゴコロ、みたいなね(笑)
悪役にとって、泣かれることは、嬉しいこと
―成田さんは悪役としても活躍されてきたんですよね。
ウルトラ怪獣の着ぐるみには、よく入ったね
―じつはうちの子、ショーで悪役が出てくるとギャンギャン泣くんですよ。一番後ろの列で見ていても、ものすごく怖いみたいで。あんまり泣くから、何だか申し訳なくなっちゃうときもあるくらいなんです。
そりゃ怖いでしょう。
怪獣の着ぐるみって、子どもにとっては見上げる大きさだからね。
しかも、色や形もブキミ。そんなやつが、ガーっと近づいてくるんだもの。
そのうえ、『さらわれちゃうかも』『食べられちゃうかも』『そしたら、もうママに会えない』って思うわけだから、一大事ですよ。ギャンギャン泣いて当たり前です。
―でも、めちゃくちゃ泣く子とかいると『え~、そんなに泣くなよ~』って思ったりしませんか?
あはは。怖がられるってことはね、僕らにとっては嬉しいことなんですよ。
―そうなんですか?
だって、それだけ目の前の世界に本気になってくれているってことだもの。
子どもたちが怖がってくれなければ、僕たちがいくら暴れたって、ニセの世界のままなんだよ。
彼らの泣き声と声援があって、初めてリアリティが生まれる。
あの声のおかげで、僕らは本当の『恐ろしい怪獣』や『強くてカッコいいヒーロー』になれるんだよね。
―なるほど、確かにそうですね。
それに、悪役が怖ければ怖いほど、子どもたちはショーの世界にグッと引き込まれるの。
ヒーローを応援する気持ちだって、悪役への恐怖や憎しみがあってこそなんだよ。
だから、怖がってもらえるって、すごく嬉しくて、ありがたいことなんだ。
―そう伺って、なんだか安心しました(笑)。
うん、めいっぱい泣いて、怖がってくださいね(笑)
どんなに手の込んだつくりの恐ろしい怪獣も、ピカピカしたコスチュームを身にまとった正義のヒーローも、ただそこにいるだけでは『着ぐるみ』にすぎない。
熱く応援し、そっと慕い、恐れて泣く子どもたちがいるからこそ、着ぐるみはヒーローと怪獣になれるのだと気づいた。
そう思えば、ヒーローショーの本当の主役は、観客である子どもたちなのかもしれない。
幼い声を糧にして、着ぐるみパフォーマーたちは今日もどこかで、ステージに立っている。
(インタビュー:田村もぐま)