「心のままに決める」――ある派遣女子がたどったアーティストへの道|トピックスファロー

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2017年9月6日
「心のままに決める」――ある派遣女子がたどったアーティストへの道
  

いつもと同じ時間に起きる。ぎゅうぎゅうの満員電車に揺られて出勤する。仕事は昨日の続き。いつものメンバーでランチ。ぐったりと疲れて家に帰り、倒れこんで眠ると間もなく明日がやってくる。

私たちが生きる、決まりきった毎日。それは安定しているようで、どこか息苦しい。

何ものにもとらわれず、自由に生きていくにはどうしたらいいのか。

そこで、「とらわれない生き方」をしている人たちから、そのコツやエッセンスを聞いてみることにした。

今回お話を伺ったのは、軽井沢でイラスト&レザーアーティストとして活躍しているエリさん(38歳)。

唯一無二の世界観を革小物で作り上げる彼女は、美しい街並みの中を飄々と生きている。森にあそぶ風のような佇まいの女性だが、どのような人生を歩んできたのだろうか。

ふつうの派遣女子から、アーティストの道へ

誰もが憧れる美しい景色。緑深い軽井沢に、エリさんの自宅兼アトリエはある。

彼女が作り出すのは、楽しく美しい革小物の世界だ。個性的に彩られた、カラフルでピースフルな世界観。

作品一つひとつには「eri’s Art love & peace Factory 」という刻印が施されている。

彼女を取り巻くすべてがハッピーに満ち溢れているように見えるが、ここに至るまでの道のりは決して平坦なものではなかった。

10年前、何者かになりたいと強く願いながら、派遣社員として過ごしていた。当時を振り返って語る。

「私ね、とにかく有名になりたかった。何かを成し遂げて世に出たいし、自分が生きた痕跡を世に残したい。そう強く思ってたんです」

小さなころから、歌手として日の目を見ることを夢見ていたエリさん。成人してからはバンドを組み、音楽活動に明け暮れた。生活費は、派遣社員の仕事で賄った。

しかしある時期を境に、歌うことが心の負担となってしまう。30歳を目前にして、音楽活動から離れた。

しかしその後も、世に出たいという衝動はくすぶり続け、彼女を急き立てる。

「音楽がダメなら何にしよう?と考えて……モノを作って売る人になろうと決めました」

「決めた」。彼女は確かに、そう言った。

何を作るか、どう展開するかはわからない。そこにはただ、強い意志と決断だけがあったのだ。

手始めに、オリジナルのイラストを描い、ポストカードを作って売ってみた。

歌っていたときには得られなかった充実感がそこにはあった。

そんな毎日の中、エリさんの心に変化が訪れる。

淡々と続けれこられた派遣社員の仕事が、どうしても耐えられなくなってきたのだ。

「この世界で食べていく」――初めに決めた意志と誓い

やりたいことを見つけた時に、会社勤めを辞めたくなるのはよくある話だ。

しかし、誰もがそう簡単に退職を決断できるものではない。

エリさんも、理想と現実の間で揺れた。

「理想を言えば、すぐにでも退職したかった。でも、当時の私は派遣社員。退職は、契約の更新月まで待つのが暗黙の了解になっている世界でした。

迷っている私の背中を押してくれたのは、姉です。

当時28歳だった私に、『会社を辞めて新しいことを始めるなら、今すぐのほうがいい。残っている20代を、1日でも多く新しいことに費やすべきだ』と言ってくれたんです。その言葉が、ストンと腹に落ちたんですよね」

姉の助言に後押しされて、翌日には派遣会社へ退職の意思を告げた。

「『私はモノ作りで食べていくのだ』と、そのとき明確に決めました。お小遣い稼ぎやアルバイト、生活費を稼ぐためだけのお仕事は今後一切しない、ってね」

こうして、彼女はモノづくりの道へと本格的に入っていく。

さまざまな素材を使い、思いつくものを手あたり次第作ってみた。

しかし、どれもあまりしっくりこず、長続きしない。

紆余曲折の果てに、たどり着いたのが革小物づくりだった。

幼いころから好きだった皮革という素材。なじみが深く、作りがいがあった。「これをやりたい」、彼女の胸は決まった。

技術も知識もなければ、工具一つない状態からのスタート。

ただ、作る楽しさに押されるがまま、作品を作り続けた。

「策がなくても、先に決めちゃう」「失敗したって、別にいい」

初めて作った革作品だったが、周囲の反応は上々。それを受け、すぐにネット販売を立ち上げた。ほどなくして、友人からオーダーが入るようにもなる。皮革ブランドの滑り出しは好調だった。

そのころ特に手ごたえを感じたのが、デザインフェスタへの出店だ。

独自のピースフルな世界観を全面に打ち出したのが功を奏し、驚くほどの売り上げを叩き出す。

「実は、デザインフェスタへの出店を決めたとき、私はまだ革小物を作っていなかったんです。

何を作りたいのか、自分の中で全然定まってない状態だったんですよね。

それなのに、とりあえず『そのイベント、出る!』って決めちゃった。今考えたら無謀なことですよね。だって売り物がそろってないのに、お店を出そうっていうんだから(笑)。

でも、結果的にはその決断が、大正解だったってわけ」

岐路に立った時、彼女は必ず「心のままに、先に決めてしまう」のだ。

思索と行動、そして結果は、決断のあとからついてくる。

思い切りのいいやり方だが、失敗は怖くないのだろうか?

「失敗は、当たり前にします。失敗したら嫌だなって、ドキドキしながら決断することもある。

でも、失敗だな、これは気持ちよくないなって感じたら、その段階でスパッと辞めればいい。そう思ってもいるんです」

実際にエリさんは、デザインフェスタへの出店を初回でやめてしまった。大成功を収めたのに、たった1回しか出ていないのだ。

「だって疲れたんだもの(笑)。本当は疲れてもう嫌になってるのに、ムリヤリ我慢して出店するのは、美徳でもなんでもないでしょ?

出店はやめたけれど、そのかわり、イベントに出なくても作品が売れる方法を真剣に考えました。そして、私にしか作れない、唯一無二の作品を作ればいいのだという結論に達したんです。

いちど決めた道がやっぱり違うなって思っても、そうやってどんどん自分を切り替えていけばいい。だから、失敗することを過度に恐れる必要はないと思っています。失敗したっていいし、ひとつのことを続けなくたって全然構わない。

それよりも、その瞬間の心の感覚――楽しいか、楽しくないか、心地いいか否か、幸せか否か――に従うことが、何よりも大事。

もし私の生き方が自由に見えているなら、そういうスタンスのせいなのかも」

風のような笑顔の中に、強い芯を垣間見た。

岐路に立った時には、まず決断をしてしまう。

エリさんの言葉からは、そんな生きざまを感じることができた。

もしもあなたが今、見えない糸にがんじがらめになってしまって苦しいなら、小さなものをひとつ手放す決断をしてみてはどうだろうか。

毎日やらなければいけないと思い込んでいたこと。

我慢しなければならないと思い込んでいたこと。

そのうちひとつを、怖がりながら、ドキドキしながら、手放してみよう。自由は、まずそこから始まるのかもしれない。(インタビュー・文:田村もぐま)

著者:fourclass編集部

株式会社フォークラスの編集部
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