ゆうちょ銀行が住宅ローン事業に本格参入する!?
小泉内閣が掲げた「聖域なき構造改革」の代名詞として進められた郵政民営化。総資産300兆円といわれる郵便・郵便貯金・簡易保険事業、いわゆる郵政三事業の民営化が行なわれたことによって金融業界や保険業界にも大きな影響を及ぼしたことは記憶に新しいところです。
政権与党が民主党に移譲した今も郵政民営化の波はうねりを続けており、2012年4月に成立した改正郵政民営化法によって、郵政事業に更なる変化が起ころうとしています。
ゆうちょ銀行が自前で住宅ローンを始める
改正郵政民営化法によって、新しい事業への参入がやりやすくなったゆうちょ銀行で進められているのが「住宅ローンへの参入」です。
法改正前もゆうちょ銀行は住宅ローンを扱っていたのですが、これは静岡県に本拠をもつスルガ銀行の住宅ローン商品の販売を仲介する形で扱われていたものです。つまり、スルガ銀行と直接取引できるのであればゆうちょ銀行を介してローン契約する必要はないのです。
しかし、法改正によってゆうちゅ銀行は遂に念願ともいえる自前の住宅ローンを販売できるようになったわけです。
ゆうちょ銀行はどのような住宅ローンを提供する計画を立てているのでしょうか?
親・子・孫の三世代で返済!? 超長期ローン
現在の住宅ローンは最長35年の長期ローンが主流となっています。住宅ローンの利用者の全てが35年ローンを利用するというわけではないのですが、折からの不況もあってか「返済期間が長引いても収入減にも対応できる返済額で利用したい」という人が多くなっているのです。
しかし、ゆうちょ銀行が計画している住宅ローンはもっと大胆です。なんと、最長50年に及ぶ超長期ローンの導入が計画されているのです。
通常の35年ローンだと、一年目に生まれた赤ちゃんが返済完了する頃には結婚して自分のマイホームを考えだすくらいの長さですが、50年ローンとなると返済一年目に生まれた子供のさらに子供が結婚するという様に、その返済は下手をすれば三世代に及ぶことになります。
年収400万円以下の人でも安心?
住宅ローンに限らず、ローンとはつまるところ借金なので返し続けられる見込みの無い人間は審査の段階で跳ねられることになります。
そうしたローンの審査落ちの理由の一つが、「収入が充分でない」ということなのです。審査に通りやすい収入は、年収400万円以上といわれています。
具体的には収入が安定しない職業であること、一定水準以下の年収であることなどがいえますが、多くの場合申し込んだ人の年収不足が問題になります。
数千万円単位の借金である住宅ローンを組む以上、銀行や住宅公庫は担保や保証人といった「返済への確約」が欲しいし、なおかつ担保に手を出さなくても良いように借主がしっかり返済を続けて欲しいので、申込者の収入には気を尖らせているというわけです。
しかし、ゆうちょ銀行が計画している住宅ローンは、他の銀行や住宅公庫が跳ね除けてきた年収400万円以下の人でも問題なく審査を通り、契約できる方向で調整されているようです。
ゆうちょ銀行の住宅ローン参入の影響は?
ゆうちょ銀行の住宅ローンへの参入は、おそらく日本経済に大きな影響を及ぼすことになります。
想定される影響の一つが不動産価格の高騰です。
かつて日本に未曾有の好景気をもたらしたバブル経済は、土地価格の高騰によって引き起こされたものです。
土地価格の高騰は不動産需要の増大によって起こるものなので、ゆうちょの住宅ローンで土地付き一戸建てを手に入れるハードルが低くなればその分だけ不動産の需要も増大することになります。
不動産需要の増大による土地価格の高騰が起これば、市場に流れ込むお金の量も増大しインフレが引き起こされ、デフレスパイラルに陥っていた日本経済の再浮揚が起こる…というのは少々穿ちすぎですが、ゆうちょの住宅ローンが住宅・土地の需要増大に繋がる可能性は大きいものと考えられます。
ゆうちょ銀行の住宅ローンの問題点とは…?
超長期ローンと低収入でも契約できる審査基準という二大特色を持つと噂されるゆうちょ銀行自前の住宅ローン。
しかし、識者の間からはアメリカ経済を揺るがした「サブプライムローン問題の再発」を懸念する声が高まっています。
サブプライムローンは、返済の見込みが極めて薄い低収入層を対象にした住宅ローンで、不動産バブルの崩壊と共に破綻しています。世界を襲った未曾有の不景気のであるリーマンショックも、サブプライムローンが原因になったといわれているほどです。
しかし、アメリカの住宅ローンは返済不能になったら家を手放せば債務から開放される「ノンリコースローン」という方式を採用しているため、サブプライムローンが大問題になったという前提があります。
ゆうちょ銀行の住宅ローンが、日本では馴染みの無いノンリコースローンを導入しない限りはサブプライムローンの二の轍を踏む可能性はそう大きくないのではないでしょうか。