マウスが示したのは新しい発毛治療の可能性
東京医科大のチームがイギリスのネイチャー・コミュニケーションズ電子版で発表したのは、『毛包再生技術』という、発毛に関する再生医療の一つです。
毛包再生技術とは
毛を作る大本の部分である『毛包』を移植し、髪を再生させる技術の事。
そもそも髪が生える仕組みとは
髪は皮膚が変化したもので、主成分は18種類のアミノ酸。
毛根は『毛球』とその中に詰まっている『毛母細胞』、そして毛母細胞に指示を出す『毛乳頭』の3つでできています。
毛乳頭は毛細血管から栄養を取り込み、その栄養を使って毛母細胞の細胞分裂を促進。
その細胞分裂した結果、固くなり表皮に出てきたものを『髪』と呼んでいます。
毛包とは、これら髪を作る一連の細胞の事を指します。
今までの発毛治療との違いとは
毛包を作る幹細胞は大人にもあり利用できるという事でしょう。
幹細胞とは臓器などを形作る元となった細胞の事で、その多くは胎児にしか見つかっていません。
その為、利用するには倫理面など多くの問題をクリアーする必要があり、幹細胞を使用した再生医療の障害となっていました。
しかし、毛包の幹細胞は大人にもある為、自分の毛包から必要な幹細胞を取り出し利用する事が出来ます。当然、自分の細胞から作られた物を使うので拒否反応は起こらないというメリットがあります。
発毛治療の方法
現在、実験が進められているのは以下の2パターン。
1.再生毛包原基移植
再生毛包原基という『毛包の元となる組織』を移植する方法。
移植された再生毛包原基は頭皮の中で毛包になり、そこから髪が生えてくることが期待できます。
2.再生毛包移植
再生毛包原基をあらかじめ毛包の状態まで育て、毛包そのものを頭皮に移植する方法。 こちらの方法では、髪が生える状態まで毛包を育てているので、より効率的な移植ができると言われています。
なぜ今回の実験が大きく注目されるようになったのか
最も大きな理由は、発毛確率の高さ。
今回の実験では、マウスの髭から作った再生毛包原基を移植する方法で行いました。
その結果、発毛の確率は73%。
この数値は、これまでの毛髪再生に比べ、きわめて高い精度で毛を生やすことができた証明です。
さらに毛の生え変わる毛周期が繰り返し行われることも確認できました。
毛周期とは、成長、退行、休止を経て髪が繰り返し生え変わっていく一連のプロセスを指します。
つまり毛包が元気な限りは、髪が抜けてもまた生えてくるという事に他なりません。
しかも、移植した箇所で鳥肌が立つことも確認できました。
鳥肌とは寒い時に毛を立たせて保温する反射作用の事です。
私たちは普通に無意識で行っていますが、鳥肌が立つには、毛包と皮膚にある筋肉や神経がうまく接続されている必要があり、この接続が問題なく行われている事が証明されたという事です。
つまり、この移植を行えば、完全に髪がなくなった所に、元々あった髪と全く見分けがつかない物が拒否反応なしで再生させる事が可能になったという訳です。
実用化への一番の問題は『時間』
人の髪が生え変わるサイクル(毛周期)は最長7年かかります。つまり1回の実験結果が出るのは7年後。
さらに新しい細胞を埋め込むため、移植した細胞や、その周辺の組織がガン化しないかも慎重に調べる必要があります。
新しい技術の為、これらの実験を行い安全性を確認できなければ、人体に移植する事はできません。
毛包再生技術が未来に見せるもの
この技術が普及した未来では、気軽に髪を着替えられるようになるかもしれません。
毛包は元の髪をそのまま生やすことが可能です。
それは薄毛対策というだけでなく、ストレートの髪をはやす毛包を移植すれば天然パーマの人でもストレートに。ブロンドの髪を作る毛包を移植すれば、豊かなブロンドの髪を手に入れる事が出来るという道を示してくれました。
いつの日か、「自分の多い通りの髪を手に入れる」そんな未来が待っているのかもしれません。