介護ストレスがうつ病を呼ぶ
警察庁が平成23年に発表した自殺の概要資料によりますと、看病・介護疲れが原因で自殺した人は1 年間に317 人います。50~70代が最も多く、年々増えている傾向にあります。 https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H22/H22_jisatunogaiyou.pdf#search=’%E8%AD%A6%E5%AF%9F%E5%BA%81+%E4%BB%8B%E8%AD%B7+%E8%87%AA%E6%AE%BA’
近年、介護ストレスが原因で、うつ病を発症し自殺を図ったというようなことが増えてきています。現在、自分の親がその上の親を介護しなくてはいけない状態になっている、またはすでに介護をしているという家庭がたくさんあると思います。そんな親が行っている介護を手伝うことをあなたはできていますか?
仕事を持ち、家庭を持っている30代以降の子どもは、介護の手伝いは難しいかもしれません。しかし、親が1人で介護することは困難です。介護ストレスが原因でうつ病になってしまうことも多くあるからです。
食事の世話から、着替え、入浴、排泄、通院の補助など、介護はやることがいっぱいです。朝から晩まで付きっきりでなくてはならない場合もあります。肉体的な疲れだけでなく、精神的な疲れも生じます。この精神的な疲れが解消できずに溜まってしまうことで、うつ病を発症させてしまうことがよく見られるのも事実です。
私は20代の時に認知症の祖母を5年間介護しました。父は単身赴任中、その他の家族はみな仕事がありました。私は仕事を辞めての介護を余儀なくされました。
介護は私に任せっきりになり、交代を頼んでも仕事帰りの家族からは「休ませてほしい」と言われ、代わってもらうことはほとんどできませんでした。介護のほとんどを1人で行ったため、うつ病になってしまったことは今でも心苦しい記憶です。
介護ストレスとは?
介護ストレスは、自分の自由な時間が持てないことから始まります。認知症やアルツハイマー病などで介護となった場合は、妄想や幻覚がありますので、家族であることも忘れられてしまいます。また、夜中に暴れ出したり、徘徊したりすることもあります。
とにかく1人にはしておけない状態なので、目が離せません。介護人は食事も入浴もゆっくりすることなどできません。認知症などがない場合でも、介助が必要ですから介護人が自分の時間を取ることはとても難しいのです。
最初は、頭痛や肩こりといった普通の症状から始まります。そのうちに腰痛や便秘(下痢)などの身体的な症状が目立つようになります。しかし、この段階では、「体を動かしているからかな」とか、「悪いものでも食べたのかな」くらいにしか感じません。
ところが、しばらくすると疲れが取れない、熟睡できない、不安感、イライラなどの精神的な症状が現れ始めます。症状が進行すると、外出する回数が減ってきて、ふさぎがちになります。
家族の不理解は絶対に禁物
一緒に住んでいる家族でも、仕事をしていたりして介護が必要な家族について一日中見ていないことが多いはずです。
それなのに、介護人に対して「介護者をもっと優しく扱ってくれ」とか、「介護者は本当にぼけたことを言っていたのか?」なんてことを言ってはいけません。
介護がどんなに大変かは、介護を直接している介護人にしかわからないのです。家族が介護の大変さを理解してあげなければ、介護人の介護ストレスはどんどん溜まっていきます。
私の祖母は、要介護5で認知症を発症していました。「お金を盗まれた」「監禁されているから助けてほしい」などの妄想が激しい上に、夜になると徘徊があって本当に厳しいものでした。
なのに、親戚からたまにかかってくる電話には、しっかりした口調で話し、妄想の話など一切しません。挙げ句の果てには「勝手に話を作っているんじゃないの?普通に会話できるじゃない」とこちらが悪者扱いをされるような状況でした。
家族(親戚を含め)は、見てくれている人の話が信じられないのであれば、実際に様子を見に行くくらいのことをしなくてはいけないと思います。家族の介護への不理解は介護者を追い詰めます。特に電話だけでの判断はよくありません。自分の目でしっかりと状況を見ることが必要です。
介護は1人に任せない
介護は、朝から晩まで片時も目を離せないものです。介護度が低くても何が起こるかわからないからです。それなのに、誰も手を貸さないようでは介護人の介護ストレスが急速に溜まっていきます。
家族の手助けはもちろん、介護サービスの利用も視野に入れてみんなで関わりを持ち、介護人1人で介護をさせないようにすることがうつ病にさせない唯一の方法です。
家族みんなで介護する
同居している家族がいるのであれば、交代してあげることが介護人のうつ病を防ぐことに繋がります。数時間でもいいのです。自分の好きなことができる時間を持てたり、気分転換になる時間を取れたりするだけでもかなり違ってきます。
当番制にしてもいいですし、休日のうち半日を交代したり、話(愚痴など)を聞いてあげたりしましょう。介護に携わることができない場合は、電話をかけて話を聞いてあげるだけでも違います。介護人は「自分は1人じゃない」と思うことができるからです。
介護サービスの利用
介護認定を受けると、1ヶ月に利用可能な金額がケアマネジャーの方から話があります。それを利用して、介護サービスを受けるという方法もあります。デイサービスやショートステイなどのサービスを利用することは、同居家族がいなくて介護を代わってもらえない人には最適なサービスです。
しかし、その利用を嫌がる介護人もいます。それは、自分が介護者をみなくてはいけないという責任感の強い人に見られがちです。体のことや、精神的なことを考えると、一時的にもお願いをして介護人自身がリフレッシュする必要があることを教えてあげる必要があります。
まいってしまうしまうことがわかっているのに、みすみすそれを見逃すことにするのは、うつ病にさせてしまうのと同じことです。利用することは悪いことではないということを理解してもらいましょう。
話を聞いてあげることの必要性
仕事で手伝うことが難しい、また近くに住んでいないので代わることが難しい場合、電話などで介護人の話を聞いてあげることがとても重要になります。介護の話は実際に介護の大変さを知っている人にしかできない話題です。
誰にでも気軽に話せないため、ストレスは心にどんどん溜まっていきます。言葉にして心に溜め込んでいるものをはき出すこともストレス解消になります。それを溜めることがうつ病へと発展します。そうさせないためにも、話を聞いてねぎらってあげることが必要なのです。
うつ病かもと思ったら
一生懸命に何でも取り組もうとする真面目な性格の持ち主ほど、「何でも自分でやらなくては」と考えてしまいがちです。そのため、デイサービスの利用はおろか、ショートステイなどの施設を利用したがりません。
そして、家族のちょっとした不理解に「自分は頑張れていない」と考えてしまい、ネガティブな状況に追い込まれていきます。介護人がうつ病のような症状を見せたとき、家族は次のような行動を取ることが必要です。
受診を第一に
本人と一緒に受診することが大切です。メンタルヘルス科(精神科)や、心療内科など心を診てくれる病院を受診します。ところが、うつ病のような症状が発症してきている場合、ほとんどの人が病院へ行くことを嫌がります。
それでも、説得をしてでも医師に病状を診てもらうことが必要です。うつ病は投薬治療で良くなります。でも、本人が嫌がって話にならないからと放っておくと、どんどん悪化し、死にたいと考えるようになります。だから、一刻も早く医師に診てもらうことが必要なのです。
住んでいる街の保健師や介護サービスで相談を
がんばり過ぎてしまうことで、自分をどんどん追い詰めてしまい、介護ストレスを溜め込んでしまうことになります。ですから、住んでいる街の保健師や介護認定を出してくれたケアマネジャーの方に相談するのも1つの方法です。
介護から少しの時間でも解放されて、休むことができたり、自分の時間を持つことができたりすれば、うつ病にならずに上手くストレスを解消させることができるようになります。
気をつけるべき3点について
介護は、本当に大変です。20代の若い時でも本当に大変だと感じるのですから、50代以降での介護は相当きついと感じているでしょう。介護ストレスは、介護に携わったその日から徐々に溜まっていくものです。自分で発散しようにも、その時間が取れないため、悪循環になるのです。
だから、家族の助けや介護の専門家の助けが必要となります。うつ病にさせないためには、1人にしてしまわないこと、話を聞いてあげること、自分の時間が取れるようにしてあげることが大切です。ご家族に介護をしている方がいる場合は、この3点に気をつけて大事にしてあげて欲しいと思います。