東京で少しでも安い家賃の物件はねぇがぁー
筆者はとある理由から郊外には出られないので、都心部で住むことになった。今までは実家でのうのうと暮らしていたが、いきなりの都会だ。しかもそんなに貯金もない。
とりあえず仕事が安定するまでは雨風さえしのげたらいい、と楽天的にかまえて不動産関係のサイトをまわってみた。
有名な賃貸サイトには安い物件はない
テレビや雑誌などでよく見かける賃貸サイトにはそこまで目立って安い物件はない。六畳一間で6万から7万円が安いほうだ。6万円の物件なんて築30年のアパートぐらいしかない。デザイナーズマンションはリストから早々に消えた。
とにかく値段と地域のみで限定して検索していく
マイナーなサイトほど変わった物件がちょろっと載っているようだ。
うちは2万戸扱ってます!というサイトでも筆者が求めるキーワードを入れると途端に検索数が一桁になる。
とりあえず気になった物件は片っ端から連絡を入れてみるしかない。
不動産屋も口ごもる、そんな物件「いやぁ、おすすめはしないです」
ここ人住めないんですよー
まず1件目は、求めている地域に一番近い、駅チカ、セレブリティな周囲、それでいて風呂トイレ付き、1DK、これで家賃が五万円。大本命である。
さっそく不動産屋に連絡を入れてみた。
「あー、ここトイレ使えないんですよ。配管が古くなって詰まっちゃうんですね。ぶっちゃけ人住めないんで倉庫になってます」
それでもいいんで住みたいんですけどと食い下がってみる。
「いや、あと1万円出したらもっといいところ見つかりますよ。共同トイレもないんでトイレしたくなったらわざわざ近くの公園に行かないと行けないんですよーはは(営業用の笑い)」
たしかにそれは嫌だ。とうわけで終了。
ここ別の人が住んでるんですよー
はじめからそんなに上手くいくはずがない。気を取り直して2件目。
今回は目的の地域から少し離れるが、職場へはバスで一本で行ける。そう無理でもない距離ではあるし、都会に残る下町の雰囲気がいい。そんな風情にマッチした築40年以上の古びた2階建てアパート。リノベーションもいっさいされておらず、外見も内装も岩井俊二監督の「夏至物語」を彷彿させる。家賃6万円ちょうど。
不動産屋に連絡を入れてみると実はすでに予約は入っているのだが、その人もちょっと二の足を踏んでいるのでキャンセルする可能性が高いとのこと。
二の足を踏む理由を問いただしてみる。
「あー・・・、別の人が住んでいるんです、見えない人には見えないんですけれどね」
なるほど、つまり「オカルト的訳あり物件だ」
しかし筆者は零感(幽霊まったく見えない人)であり、なおかつオカルトは大好物だ。
念のため、下見にいったがこれがまた面白い。詳しくは別の記事にてご紹介するが、結局は先に予約していた人が住むことになった。この人は今でも元気でしょうか。
究極の訳あり物件・・・孤独死
次に連絡をした不動産屋は、個人向けではなく企業向け(不動産屋に不動産を紹介するための不動産屋)らしいのだが、筆者の切実なる思いを伝えるとしぶしぶ紹介してくれた。
川沿いのとある下町の一角、江戸時代からある長屋があった場所を改築した物件で、アパートなのだがメゾネットタイプ。1DK、トイレ風呂付き、家賃は7万円。家賃は安くないが、間取りを見ると通常なら10万円以上はするはずだ。
ここまできて筆者は察した。ここも訳あり物件なのだ。
「申告義務がございますので申し上げますが、実は先月に老人の孤独死がありまして・・・死後一ヶ月経過していたとか」
説明を求めていないのに、すごく詳しく話してくれた。
人は誰しもいつか死が訪れる、たまたまここのご老人はお独りで亡くなっただけなのだ。
というわけで気にしない旨を伝えるが「一人暮らしで7万円ならワンルームマンションで間に合うと思いますし、あまりおすすめしません」と断られてしまった。なら、ここに見合う住人とは、一体誰なのだろう・・・と考えながら電話を切る。
まるでネコ型ロボットの気分だよ
サイトで発掘するには限界があるのかもしれない。そう感じて友人がすすめてくれた地元の不動産屋に出向いてみた。人の良さそうな宅建一級を持つおじさんが対応してくれた。
訳あり物件でもなんでもいいんで、雨風がしのげて建物内にトイレがあれば問題ないので一番安い物件を教えてくださいと頼みこむ。
するとおじさん、「いいのがあるよ!築30年、共同トイレ、家賃4万円どう?」と爽やかに教えてくれた。店から近いから見てもらったほうが早いということで、物件を見に行くことに。
そこはアパート、というよりは普通に一軒家に見えた。どうやら一軒家を複数人の住人がシェアしているという。
シェアハウス・・・という単語だけでトレンディドラマのような妄想をしてしまう。恋愛だけでなく、人として良い出会いを思わず期待してしまうではないか。
それで家賃4万とはとてもお得だ。今までの訳あり物件がみるみるくすんでゆく。
案内されて中に入ると、築30年とは思えないほど綺麗だ。一度リノベーションしているのだという。部屋の扉は普通の木製のドアなのだが、ちゃんとした鍵もついている。バス、キッチン、トイレ、洗濯機などは共同。リビングもラウンジのようになっている。
ますます期待が膨らむ。
2階に上がり、いよいよとある扉の前に通された。3階に通じる階段の真下だ。なんとなく嫌な予感はした。「ここですよー」と開けられたその先はまごうことなき押入れ、起きて半畳寝て一畳の世界がそこにあった。しょぼい伝統が天井からぶら下がっており、薄暗く室内を照らしている。壁はもちろんベニヤ板だ。
筆者は静かにお断りを申し上げた。
まとめ
1件目、倉庫にしかならないトイレが使えない部屋
2件目、幽霊が住んでいる部屋(先約に取られる)
3件目、老人の孤独死した部屋(一人暮らしには向かないと諭される)
4件目、ネコ型ロボットがいそうな部屋
安いというのは何かしら、普通の人では日常に支障をきたすぐらいの「訳」があるということだ。そこで毎日住むことを考えるならば、ある程度の家賃を払ってでも「訳」の少ない物件を探したほうがいいだろう。
そして「訳あり」物件に住もうとするには、不動産屋を説得する力も必要だと感じた。