【第96回】ヒトラーが生まれたブラウナウを再訪。改装直前?の生家の現状|トピックスファロー

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2023年9月22日
【第96回】ヒトラーが生まれたブラウナウを再訪。改装直前?の生家の現状

拙著「ヒトラー野望の地図帳」や本記事でも紹介した、ヒトラーが生まれた地・ブラウナウ。2023年9月、約7年半ぶりに再訪して動画と共に生家の現状をお伝えします。

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保存に関して論争が絶えない生家

ブラウナウにあるヒトラーの生家は保存方法を巡り度々議論されていて、海外の記事を見ていると、その様子を時々目にします。

2012年頃まで福祉施設として活用されていたヒトラーの生家は、筆者が2016年1月下旬に訪れた時は空き家となっていました。

ヒトラーの生家ということで、ネオナチの聖地となる危険性があるため、オーストリア当局も保存方法について頭を悩ませていました。

ブラウナウに暮らしたことがあり、ヒトラーの生家の前のお店で働いていた日本人の方の話では、ヒトラー誕生日の4月20日は警官が警備をして物々しい雰囲気になるそうです。

今後の行く末が気になっていた折、2023年8月、オーストリア内務省が方針を発表しました。2023年10月からヒトラーの生家を警察署としてリニューアルする工事を開始し、2025年までに完成、2026年から警察署として開設予定としたのです。

筆者はリニューアル直前と思われる2023年9月13日、ブラウナウに7年半ぶりに訪れてきました。

ブラウナウのヒトラーの生家ブラウナウのヒトラーの生家

2023年9月現在のヒトラーの生家

ブラウナウやヒトラーの生家へのアクセスは、以前訪れたときの記事「【第32回】オーストリアの旅。ヒトラーの足跡を辿ってみる 少年時代編」をご参照ください。

約7年半ぶりに訪れたブラウナウ駅。前回訪問時より駅舎が新しくなっていました。

新しくなったブラウナウ駅の駅舎新しくなったブラウナウ駅の駅舎

しかし、ブラウナウの街の中心部、生家への道順、街並みはほとんど変わってない印象を受けました。街の中心広場に着くと、平日午前中にも関わらず、市場が開催されて、多くの人で賑わい活気があります。

中心部の広場中心部の広場

そして広場から徒歩数分圏内にあるヒトラーの生家までやってきましたが、全く変化はない感じでした。

ネオナチが集まるのを防ぐためにあえて作ったといわれる、生家の前のバス停、ファシズムの過ちを伝える石も現役でした。前回訪問時、筆者がコーラを買って、ヒトラーの生家を堪能したスーパーも絶賛、営業中。生家自体も以前同様、何かの施設、住民がいるような気配も全くありません。

2023年9月13日現在、ヒトラーの生家の様子2023年9月13日現在、ヒトラーの生家の様子

筆者が訪問した翌月(2023年10月)から、警察署への改修工事が始まるとのことですが、ヒトラーは生家を官署に改修するのが希望だったとして、ヒトラーの意に沿う形となり、意義を唱える勢力もあります。また生家をリニューアルして面影が無くなると、ネオナチが逆上して何をしでかすかわかりません。

今後、ブラウナウのヒトラーの生家を巡り、現地からの報道に注目していきたいと思います。

ファシズムへの警告の碑ファシズムへの警告の碑

関連動画
ヒトラーの青春を追う旅 ブラウナウ編① ヒトラーの生家の今?! 2023年9月13日現在
ヒトラーの青春を追う旅 ブラウナウ編① ヒトラーの生家の今?! 2023年9月13日現在(@YouTube)

ヒトラーが洗礼を受けた教会

前回は訪問できませんでしたが、ヒトラーの生家の近くには、ヒトラーが生まれた2日後に洗礼を受けた聖シティファン教会があります。

広場から見える尖塔が聖シティファン教会となります。

ヒトラーの父親アロイスが、妻クララとの結婚の懇願書をこの教会の司祭を通じてローマ法王に提出しました。

聖シティファン教会 外観聖シティファン教会 外観

なぜローマ法王に結婚の許しを求めたかというと、それはアロイスとクララが血縁関係にあったからです。いわゆる近親相姦です(血縁関係は複雑なのでここでは説明は省きます)。

キリスト教では血縁関係の婚姻は禁じられており、アロイスは妻、クララの生活の困窮を理由に婚姻の許可を求めたのでした。

ヒトラー自身はキリスト教のカトリック教徒になります。ヒトラーは政権を取ってから、政治的な利害によりキリスト教団体を迫害していきますが、自身は生涯キリスト教を離脱することはありませんでした。

聖シティファン教会 内部聖シティファン教会 内部

聖シティファン教会 内部聖シティファン教会 内部

アロイスはクララとの無事、結婚を許され、1885年1月7日午前中、このヒトラーの生家で結婚式を挙げます。しかし、結婚式が終わるとすぐ職場に出勤したほど仕事人間だったのです。

アロイスは、オーストリア帝国の公的機関である税関の上級官史でした。アロイスの職場だった税関の建物も残っています。

関連動画
ヒトラーの青春を追う旅 ブラウナウ編② ヒトラーが生まれて洗礼を受けた教会
ヒトラーの青春を追う旅 ブラウナウ編② ヒトラーが生まれて洗礼を受けた教会(@YouTube)

税関職員だったヒトラーの父親の職場

アロイスの職場だった税関の建物は、街の外れを流れるイン川を超えたドイツ領のシンバッハにあります。

ブラウナウはオーストリアとドイツの国境の街で、イン川がその天然国境となっています。

天然国境のイン側、対岸がドイツ天然国境のイン側、対岸がドイツ

前回のブラウナウ訪問した時の記事では、オーストリアの税関職員だったからオーストリア側に、職場があったのだろうと書きましたが、実際にはドイツ側にあったようです。

現在のEU以外の地域だと、お互いの国境に税関がありグレーゾーン(例えば川などの天然国境)は徒歩、列車を使い移動して、2つの税関で出入国手続きをするのが一般的ですが、当時はドイツ側国境で全てを行っていたようです。

イン川を渡って、最初に橋の左側にある3階建ての建物が税関として使われていました。

ブラウナウ側から橋を渡ると左手に見えてくる税関だった建物ブラウナウ側から橋を渡ると左手に見えてくる税関だった建物

現在では土日だけオープンしている小規模な美術館となっています。向かい側の建物は警察署になります。

3階建てで現在は週末のみオープンしている美術館3階建てで現在は週末のみオープンしている美術館

家からは広場、橋を通り直接距離で歩いて10分ほどで行くことができます。アロイスは毎日、このルートで出勤していたと思われます。職場の窓からはイン川を貨物船が行き来していて、アロイスは眺めていたそうです。

かつては多くの貨物船が行き来したイン川かつては多くの貨物船が行き来したイン川

関連動画
ヒトラーの青春を追う旅 ブラウナウ編③ ヒトラーの父親アロイスが勤めていた税関事務所
ヒトラーの青春を追う旅 ブラウナウ編③ ヒトラーの父親アロイスが勤めていた税関事務所(@YouTube)

父親に職場見学をさせられたヒトラー

ヒトラーが少し大きくなり、リンツ郊外のレオンディングに住んでいた頃、ヒトラーはアロイスにリンツの税関の職場見学に連れて行かれました。

アロイスはヒトラーを官史のような固い仕事に就かせたかったようですが、ヒトラーは全く興味が持てなく、税関を嫌々見学していたそうです。

リンツの税関だった建物リンツの税関だった建物

ヒトラーは世間一般の仕事や職人といったことに興味が持てない、生活のためにお金を稼ぐことにとてつもない嫌悪感を示していました。ヒトラーは芸術家として必ず成功できると信じていました。そんなことは官史であるアロイスが許すわけもなく、親子のいさかいが絶えませんでした。

リンツの税関だった建物は広場とドナウ川の間にあります。街のまさに中心部にあるということは、鉄道、トラックなどの陸上輸送がそれほど発達していない当時、ドナウ川が海上輸送に大きな役割を担っていたと言えるのではないでしょうか。

現在でもドナウ川はヨーロッパの国際河川として、黒海からの外国からの貨物船が行き来して、途中の内陸港(オーストリアではリンツやウィーンなど)で鉄道やトラック輸送に切り替えられています。

税関だった建物から見たドナウ川税関だった建物から見たドナウ川

関連動画
ヒトラーの青春を追う リンツ編①ヒトラーの職場見学?!税関職員の父親に嫌々連れて行かれた税関
ヒトラーの青春を追う リンツ編①ヒトラーの職場見学?!税関職員の父親に嫌々連れて行かれた税関(@YouTube)

同シリーズが「ヒトラー 野望の地図帳」として書籍化

同シリーズが書籍化され、各書店の歴史の棚の世界史やドイツ史のコーナーに置かれています。web記事とは違う語り口で執筆していて、読者の方々からは、時代背景が簡潔でわかりやすい、学者とは違うテイストが新鮮、という感想をいただいております。

歴史好きはもちろん、ちょっとマニアックなヨーロッパ旅行をしたい方々の旅のお供になる本です。

ヒトラー 野望の地図帳

「ヒトラー 野望の地図帳」
著者名:サカイ ヒロマル
出版社:電波社     
価格 :1,512円(税込) 

【連載】ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡(第1回~第100回)
【連載】ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡(第101回~)

著者:ヒロマル

戦争遺跡ライター
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1979年神奈川県生まれ、神奈川県逗葉高校、代々木ゼミナールで1浪、立教大学経済学部卒業。

大学在学中からヨーロッパ、アジアなどを海外放浪してハマってしまい、そのまま新卒で就職せずフリーターをしながら続ける。その後、会社員生活をしながらも休み、転職の合間を利用して海外放浪を続ける。50ヶ国以上訪問。会社の休暇を利用して年に数回、渡欧して取材。

2012年からライター業を会社員との二足のわらじで開始。
2014年からwebメディア(株)フォークラスのTOPICS FAROで2つのシリーズを連載中。

▼もんちゃんねる(You Tube)
https://www.youtube.com/channel/UCN_pzlyTlo4wF7x-NuoHYRA

▼「ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡」シリーズ
https://topicsfaro.com/series/warruins
ヨーロッパ各地を取材し、第二次世界大戦に関する場所を紹介。
軍事用語などは極力省き、中学レベルの社会の知識があれば楽しめる記事にしています。
同シリーズが2017年に書籍化。
「ヒトラー 野望の地図帳」(電波社)から全国書店の世界史コーナーで発売中。

▼「受験に勝つ!世界史の勉強法」シリーズ
https://topicsfaro.com/series/wh
2018年から主に世界史を中心とした文系の勉強方法について執筆。
大学受験だけでなく、大学生や社会人の大人の教養としての世界史の勉強方法にも触れて、
高校生、大学生、社会人とあらゆる世代を対象としています。

世間の文系離れを阻止して、文系の学問の復権に貢献することが、2つの連載の目的です。

▼ご依頼、ご質問はこちらのメールまたはツイッターから
hiromaru_sakai@yahoo.co.jp
https://mobile.twitter.com/HIRO_warruins