魚の目と思っていたら・・・
ある週末、買ってまもないスニーカーを履いてイベントに出かけました。新しいスニーカーはまだ硬く、会場を見てまわるうちに足が痛くなってきました。足裏の小指の付け根のところが靴に当たって痛いのです。
その日は、何とかやり過ごして帰宅したものの、翌日、履き慣れた靴に替えても痛みます。時間もなかったので、ばんそうこうを貼って仕事に出かけました。「そのうち治るだろう」思っていましたが、痛みは一向になくなりません。
それどころか、痛むほうの足をかばって歩くので、もう一方の足に負担がかかってとても疲れます。足裏を見ると、皮膚が硬く盛り上がり、白っぽくなっています。
爪切りで削ってみた
「これはタコとか魚の目だな」と考えた筆者が最初に取った行動は、硬くなっている部分を削ってみることでした。
硬い部分の下はきっともとの柔らかい皮膚なので、削り取れば痛みはなくなると思ったわけです。
手もとに適当なナイフがなく、ナイフで削るというのも少々怖かったので、足の爪切りを使って少しずつ表面を切り取りました。なかなか思うように削れずに表面はガタガタになりましたが、皮膚が薄くなって、痛みも少し和らぎました。いい感じです。
ところが、それもつかの間、痛みはそれ以上和らぐことはなく、少しするとまた皮膚が硬く盛り上がってきました。
タコが魚の目に
皮膚の特定の場所が、長時間にわたって圧迫されたり摩擦を受けたりすると、防衛反応が働いて皮膚はどんどん厚く、硬くなります。ペンを使う作家などにペンダコができるように、足の特定の部分が圧迫される靴を履き続けると足にタコができるというわけです。
このタコの部分に、さらに圧迫や摩擦が加えられると、角質がくさび形になって皮膚の深くに食い込み、痛みを伴う「魚の目」になるといわれています。
足になじんでいないスニーカーが原因なのだから、タコか魚の目に違いないと確信していた筆者は、今度は痛む足をひきずってドラッグストアに走りました。魚の目の貼り薬が市販されているのを、以前見かけたことがあったからです。
市販薬を試してみた
店にはいろいろな種類の魚の目の薬が並んでいました。昔からあった液体タイプのほか、絆創膏タイプや痛みを和らげるパッドもあります。購入したのは絆創膏タイプです。
患部に数日間貼り続けることで、薬が硬くなった皮膚を柔らかくふやけさせて、魚の目が取れるというものです。試してみると硬かった皮膚が柔らかくなり、皮膚をつまむと表面が薄くはがれました。
盛り上がりが少し薄くなった分、患部が強く靴に当たらないようになり、痛みも改善されました。ところが一箱を使い切り、二箱目を半ば使ったころ、痛みがあるポイントからは良くならないことに気づきました。
魚の目が皮膚の奥まで食い込んでいて、そこまでは薬が届いていない感じです。そのうえ、少し歩くと足裏に強い痛みを感じて、日常生活に差し支えるようになっていました。
ここに来てやっと、筆者は皮膚科の受診を決心しました。最初に痛みを感じてから3カ月後のことです。ウイルス性のイボだった
筆者の足裏をみたとたん、若い医師は「あっ、これは疣贅(ゆうぜい)、つまりウイルス性のイボですね」と診断しました。
イボにはいろいろな種類があり、足の裏にできやすいのはヒトパピローマウイルスの感染によるものだそうです。
目に見えないような小さな傷口からウイルスが侵入して、皮膚の表面が硬く盛り上がります。初期段階では痛みはないようですが、イボが大きくなると歩くたびに痛みを伴います。
自己判断するのは危険
さらにおそろしいのは、ウイルス性のイボは他の人や違う部位にうつる可能性があるということです。
特に自己判断で削ったりして出血すると、ウイルスをばらまくことになるそうです。筆者は間違った素人治療をしていたことになります。
また、イボのなかには悪性のものもあるそうなので、一向に良くならないときや患部が広がっている場合は、自己判断せずに皮膚科を受診することをおすすめします。
イボより痛い凍結療法
筆者が皮膚科で受けたのは、マイナス170〜200℃近くにもなる超低温の液体窒素で患部を冷やすという治療です。
ウイルス性イボの治療法としては、最も一般的で、液体窒素をしみこませた綿棒を患部に当てて、ウイルスに侵された皮膚の組織を壊死させるというものです。
医療機関によっては、液体窒素を患部にスプレーする方法を採用しているところもあるようです。この治療法の難点は、激しい痛みを伴うことです。患部を超低温で火傷させているのと同じことなので、治療中は声を上げたくなるほどの痛みを我慢しなければなりません。
治療後も痛みが続くこともあるらしく、筆者の場合も治療を受けてから2〜3日間は痛みに悩まされました。イボの痛みと、火傷の痛みの両方なので、正直なところ治療前のほうが「ましだった」と思うこともありました。
また、長期間にわたって繰り返し治療を受けなければなりません。医師によると、強い痛みと長期間の治療を我慢できずに、治療を途中で止めてしまう人も多いそうです。
レーザー治療は保険外
液体窒素を使う方法のほか、レーザーを用いる治療法を採用している医療機関もあります。患部を局所麻酔して、炭酸ガスレーザーを患部に当てることでイボの組織を退治します。
液体窒素療法に比べて、短期間で効果的な治療が可能ですが、レーザーによって患部やその周辺に傷ができ、治癒に2〜3週間の時間が必要とされています。また、健康保険は適用されないので、治療費は基本的に自己負担になります。
気長に直すこと
ウイルス性イボの治療には時間がかかります。特に、皮膚の角質層が厚く、ウイルスが奥深くに侵入していることが多い足裏の場合は、数ヶ月に及ぶことも少なくありません。
筆者の場合も、週に一度、液体窒素による治療を受けるとともに、角質化した皮膚を柔らかくする貼り薬も処方されました。通院の日には、薬で柔らかくなった部分を削ってもらった上で、液体窒素で患部の組織を壊死させる施術を受けました。
治療の痛みや、その後しばらく続く痛みに、受診日はいつもおっくうな気分でした。でも「放っておいても絶対に治らない」「ここまで我慢したのだから完治まで持ちこたえたい」という思いで、現在までおよそ3カ月半治療を続けてきました。
おかげでイボによる痛みはなくなりました。完治までもう少し治療を続けた方が良いそうですが、液体窒素による治療も初期に比べると短時間になり、痛みも後を引かないようになりました。
足に魚の目のようなものがある、なかなか良くならないという人は、筆者のような回り道をせず、早めに治療することをおすすめします。