昔は本当によかった?現行制度以前の相続の仕組み
様々な社会問題が浮上してくると、「昔はよかった」と言い出す人は多くいるものです。時代が間違った方向に進展しているから昔を見習って方向修正しろ、という主張なのでしょうが必ずしも今より昔の方が良かったとは言えないのが事実です。
相続においても「昔はよかった」はある意味では正しく、ある意味では間違っているといえます。昔の相続制度とはどのようなものだったのでしょうか?
跡継ぎがすべてを相続する家督(かとく)相続
現行民法が施行される以前の相続制度は、江戸時代からの流れを汲む「家制度」に基づく家督相続というものです。
一家の大黒柱である父親が家長として家族の中で一番偉い立場を担い、家長が亡くなると長男が新しい家長として家を相続するという仕組みになっています。長男が亡くなった場合は次男、次男が亡くなっていたら三男というように繰り下がる事もあります。
また、家によっては女性を家長とする制度を取っている事があり、長女が家督相続して婿養子を取って家を維持している事があります。
家督相続は財産が分散しない
家督相続は現代の遺産相続とは違い、被相続人の配偶者や子供が複数居ても相続できるのは跡継ぎとなる長男・長女だけと遺産の配分が行われないということです。
現行の遺産相続制度は、被相続人の配偶者が二分の一、子供には二分の一というように相続者が居れば居るほど遺産が細分されていく形になっています。しかし、現金での相続ならばまだしも土地での相続となると細分されればされるほど使い道に困ってしまうものです。
特に、江戸時代までは経済が米本位制で動いていたので、相続を繰り返して手元に残る田圃が小さくなっていけば行くほど収入が少なくなり、一家どころか一族郎党が路頭に迷うことになってしまうのです。
その為、土地と米が財産の基準であった江戸時代までは家督制度は非常によくできた相続制度であったといえます。
次男以下は何ももらえない
家督制度は面倒な遺産分割も無くて便利な制度だ、と思う人も少なくないかもしれません。しかし、家督を継ぐことが決まっている長男・長女はそれでいいかもしれませんが、次男・次女以下の兄弟にはプラスに働くことはないのです。
どういうことかというと、家督交代した時点で次男以下の男の兄弟は長男が早逝でもしない限り相続するものは一切存在しないからです。女性の場合は他の家に嫁ぐという選択肢があるのでまだマシな方と言えますが、男兄弟は婿養子に貰ってくれる家を探すか家から独立するかを決めなければならないのです。
もちろん独立するにしてもお金は必要になるので、肩身の狭い思いをしながら家督を継いだ長男に支援してもらうなどして工面しなければなりません。
また、結婚して家を出るにしても婚姻自体が家長の許可を得なければならないのです。
現代にそぐわない家督相続
このような家制度に基づいた家督相続は、現行民法が施行された昭和22年(1947年)に廃止されています。
何故廃止されたかというと、跡継ぎとなる長男・長女とそれ以外の兄弟に大きな格差がつけられているからです。まず、遺産相続には一切絡めないと言いうこと、そして結婚して家を出るにしても家長の裁量で決まるので不本意な生活を強いられる可能性が高いということが言えます。
また、GHQの行った農地改革によって相続で受け継がれる土地の大部分を失った豪農も多く、従来の家制度での家督相続に合理性が失われたことも理由の一つです。
現行民法でも疑似的な家督相続を行っている家庭も少なくはないのですが、相続人全員の合意を得なければならない為、ますます時代からかい離している制度になっているのです。