都会でも野菜が出来る?工場栽培が変える農業の将来
農業を始めようと考える若者は年々増えていますが、念願の就農を果たしても離農してしまう人は未だ少なくありません。
農業離れが増えている理由の一つには、「地方には若者向けの娯楽が少なすぎる」という事が言え、夢を実現させても慣れ親しんだ都会に帰りたくなるほどの精神的負担になっているといえます。
一番いいのは、若者が都会に住みながら農業を行うということですが、毎日畑がある郊外にまで移動しなければならないし、都会では農地の確保が非常に難しく家庭菜園すら困難です。
都市部での農業を可能にする方法として注目されているのが「工場栽培」です。
人工的環境と土無しで野菜を育てる工場栽培
農業が都会で出来ないのは、土地の価格が高くてどんなに作物を作っても採算が合わないということが大きな理由と言えます。
逆に言えば土地が狭くても採算が合わせられるだけの作物を生産する事が出来れば、都会でも農業は可能ということになります。
狭い土地でも大規模な農業を可能にするのが「工場栽培」と呼ばれる方法です。
土を使わず、植物の成長に必要な養分を溶いた溶液を使う水耕栽培を利用し、光や温度・湿度を完全に人工管理した空間で育てるという方法です。
空き空間を有効活用できる
工場栽培は、環境さえ整えてしまえばどんな場所ででも運営出来るというメリットがあります。例えばテナントが入らずに空いているビルや倉庫、大型商業施設の屋根裏や地下、その気になれば一般家庭が入る平屋でも工場を作る事が出来るのです。
空きテナントの多いビルは街の中心地にも多いので、土地・物件の有効活用法として期待が集まっています。それに土地が狭くても上方向・下方向に工場を連ねれば、郊外に畑を作るのと同じだけの生産量を確保することが可能なのです。
卸し先が近くなるので輸送コストが削減できる
野菜の値段は、作物を育てた農家のコストと儲けだけでなく産地から運ばれてくる輸送コストが上乗せされているものです。
例えば、北海道で作ったジャガイモを地元に卸すのと九州の市場に卸すのとでは、九州の方が遠い分だけ輸送コストが掛かって値段が高くなってしまうのです。
しかし工場栽培を利用して都市部で野菜を生産すると、卸し先が地元の街になるので輸送コストは大幅に抑えられ安く野菜を提供する事が可能になります。
天候に左右されず安定した品質の野菜を生産できる
農家はその年ごとの収入を天候と土に左右される職業と言っていいでしょう。土が痩せていては野菜に十分な栄養が供給されない為、売り物になる作物が作れません。天候不順が続けば、生育が悪くなり売り物になる作物を作るのが困難になってしまいます。
水耕栽培と人工的環境を利用する工場栽培は、屋内で行う事が出来るので外の天気にも土の栄養状態にも左右されることなく、品質を一定に保った作物を一年中コンスタントに生産する事が可能になります。
良いこと尽くめに見える工場栽培のデメリット
このように、土地の高い都市部でも十分に農業を行える工場栽培は新しい農業の形として注目を集めていますが、弱点も多いというのもまた事実です。
まず、野菜を育てる人工環境を揃えるためのコストが非常に高いということがデメリットです。
気温・湿度を一定に保つためのエアコン設備、太陽光の代わりを果たす光源などの設備投資、それらを動かすための電気代など運営費がかなり掛かるのです。
第二には、採算が取れる野菜が限られているということです。
運営コストが高いということは、栽培する野菜は出来るだけ高値で売買されるものでなければならないということになるからです。
水耕栽培自体の技術は年々向上しており、ニンジン・ジャガイモなどの根菜類も栽培できるようになってきてはいますがコスト高の解消に繋がっているというわけではないのです。
将来は地方にすまなくても農業が出来るかも
工場栽培は、コスト面の問題さえ解決できれば多くの就農志望者の新しい受け皿として機能する可能性が非常に高いといえます。現代において「農業を志す」ということは、「都会的な生活を捨てる」事と同義で、誘惑の多い若者にとって農村に入るということは多くの楽しみを捨て去るということと言っても過言ではないのです。
しかし、工場栽培によって都市部で農業が出来るようになると話は大きく違ってきます。
若者向けの遊ぶ場所が多い都市部に住みながら念願の農業が出来るようになるので、就農を志望する若者もさらに増えてくるでしょう。
このように、工場栽培には農業の将来を救う可能性が多大に秘められているのです。