自傷行為のメカニズムって?
自分自身を傷つけることを「自傷行為」といいます。この自傷行為、ただ単に「構って欲しい」という気持ちだけで、本人はしているわけじゃないんです。
皆さんは、この「自傷行為」という言葉を聞いて、何を思うでしょうか?「どうしてそんな痛いことをするの?」「ただ単に構って欲しいだけじゃないの?」
このようなことを考えるかと思います。
なぜ自分自身を痛めつけてしまうのか、自傷行為をしてない方には、正直いって分からない部分がたくさんありますよね。ネットでも自傷行為に関しては「構って欲しいだけ」という、マイナスな意見が多く挙がっています。
快感物質のβエンドルフィンが脳内に分泌される
実は、自傷行為にはきちんとした「メカニズム」があることが分かっています。私たち人間は、「美味しいものを食べた時」や「好きな音楽を聴いた時」などに「βエンドルフィン」という快感物質が脳内に分泌されることが分かっています。
βエンドルフィンは脳内麻薬と呼ばれ、私たちに「気持ちいい!最高!!」という快感を与えてくれます。だから美味しいものを食べてやみつきになったり、好きな音楽を何回も聴いたりするんですね。
自傷行為をするとこの脳内麻薬が分泌される
脳内麻薬で痛みを感じなくなる
さて、身近で自傷行為をしている人を見ると「痛くないの?」と疑問を抱くかと思います。
はっきり言います、自傷行為は痛くありません。「えー!?」と驚く方もいますが、痛いと感じさせない原因も、この脳内麻薬なんです。
βエンドルフィンはモルヒネよりも約5倍の鎮痛効果を持っています。
モルヒネといえばがんの痛みを緩和してくれる薬で知られていますが、そのモルヒネよりも痛みを和らげる効果が5倍もあるβエンドルフィンは、傷をつけている最中の痛みと同時に心の痛みも緩和する力を持っているのです。
この脳内麻薬の力に依存をすると、何度も何度も自傷行為を繰り返すようになります。そうすると、ちょっとの自傷では脳内麻薬が分泌されなくなり、自傷がだんだんエスカレートしてきます。
自傷行為がひどくなっていくと最悪の結果、つまり「死」を招く可能性もあります。ここまで見ると「構ってほしいから自傷行為をする」なんて、とても言えないですよね。ましてや、死までを招くのかと考えると恐ろしいものに見えてきます・・・。
一時的な記憶が抜ける解離状態になることも
また、人によっては自傷行為をしている間に「解離」と呼ばれる症状が起きていることがあります。これは、一時的な記憶がすっぽりと抜けてしまうものであり、ひどいと精神障害に分類されることもしばしばあります。
「本を読んでいたらそれが面白くてつい集中してしまい、周りの呼びかけが聞こえなかった」なんて経験、皆さんにはありませんか?これも「解離」と呼ばれます。これは、誰もが日常生活で感じる現象の1つです。
これくらいのレベルなら何も問題はありませんが、自傷行為をしている人は、自分自身を痛めつけている時間の記憶がいつも抜けている、なんてことがあります。ここまで来ると、正直、かなり危ないので、そこを気にかけてあげるようにするといいです。
自傷行為はストレス解消法の1つにすぎない
ここまで読んでいて分かった人もいるかと思います。自傷行為は本人にとって「ストレス解消」の方法にすぎないということなんです。
皆さんが、美味しいものを食べたり、好きな音楽を聴いたり、旅行をしたり、映画を鑑賞したり・・・そうやってストレスを解消しているように、自傷行為をしている本人も、ストレス解消を自傷行為で行っているというだけなんです。
しかし、残念なことに本人はこれには気づけず、明確な理由が分からないまま自傷行為をしていることがほとんどです。
「どうして自傷行為をするの?」と本人に聞きたくなってしまうかと思います。しかし、本人は「ストレス解消」として自傷行為をしているだけなので「どうしてって言われても、分からない」という場合が多く、そのような質問に答えられなかったりします。
私自身は、私たちが思いつく「食べること」や「音楽を聴く」といったストレス解消法を「プラスのストレス解消法」、自傷行為などの自分を傷めつけるストレスの解消法を「マイナスのストレス解消法」と勝手に呼んでいます。そう考えてみると、何だか自傷行為をしてしまう理由が分かるような気がしますよね。
こんなに沢山ある「自傷行為の種類」
自傷行為と聞くと、手首を切る「リストカット」が思い浮かぶかと思います。実は、自傷行為にはたくさんの種類があり、その中には自傷行為と気づかずにやってしまっている「クセ」も含まれています。
自傷行為の種類
・○○カット(例:リストカット、アームカットなど)
刃物類で自分を傷つける自傷行為です。
・壁や机などに頭を打ち付ける
・手や腕などに噛みつく
上の2つは自閉症の人によく見られます。
・根性焼き(ライターやタバコで肌を焼く)
・髪の毛を抜く(抜毛症)
・血が出るまで壁を殴り続ける
・爪を噛んだり皮膚を剥いだりする
・自ら骨を折る
・薬を過剰摂取する(オーバードース)
・自分で吐いてしまう(過食嘔吐や拒食症)
・自分で首を絞めて呼吸困難を起こす
・練炭などで行う自殺未遂
まだまだあります。とにかく、どんな方法でも「死に至らず、自分の体を痛めつけている行為」であれば、それは自傷行為になるのです。安全ピンを腕に通して止めたりするような人もいれば、漂白剤などの飲んではいけないものを飲んだり、分かりやすいものから分かりにくいものまで幅広く自傷行為の種類はあります。
また、本当に痛いものもあれば爪を噛んだり髪の毛を抜いたりするような、すごく身近に感じるクセまで、自傷行為はたくさん存在します。
自傷行為をしている本人は「死にたい」と思ってしている訳ではありません。この自傷行為が誤ったものになると、「死」という最悪な結果を招くということになるのです。
筆者が自傷行為を止められたキッカケ
上記の写真は、筆者が過去に自傷行為をした傷跡になります。丸く囲ってある部分をよく見ると、白い傷跡がいくつか見えるかと思います。全部、筆者が刃物で切り付けたものです。筆者も、かつては自傷行為をしていました。
包丁で自分の腕を傷つけたり、血が出るまで爪を噛んだり、髪の毛を抜いたり、舌から血が滲み出るくらい噛んだり・・・。挙げていたらキリがないくらい、多くの自傷行為をしてきました。
1番ひどかったのは、腕を傷つけたら血が止まらなくなり、4時間くらいずっと流れていたのをひたすら見ていたということがありました。それだけひどい傷をつけても、痛みを感じることはありませんでした。むしろ、少しだけ安心感を覚えた記憶の方が強いです。
傷をつけることでスッキリしましたし、しばらく生きていけるなあとも思ったことがありました。
また、髪の毛を抜いていたりしたのですが、そのせいでまつ毛と眉毛が全部なくなりました。時間が経てばもちろん生えてきますが、まつ毛は長さが戻らずに短いまま生えてきてしまいました。そのことにすごく落ち込んで、ガッカリした記憶があります。
ストレスとの向き合い方が分からない
筆者は、ストレスの向き合い方が分からずにいました。
趣味は一応ありました。アイドルの番組を見たりそのアイドルの音楽を聴いたり、それこそ、こうして文章を書いたりすることが好きでした。しかしある日、その趣味を信頼していた友達から全否定をされたことがありました。私なりのストレス解消の方法を奪われてしまった
そう感じるようになり、それを機に2つの趣味から遠ざかるようになりました。そこから様々なことが重なり、自傷行為をはじめるようになります。
ファッション雑誌とYouTubeに救われた
筆者が自傷行為をしていると知った母とは、しばらくの間、会話をすることがありませんでした。部屋にずっと引きこもるようになり、外の世界との接触を避けるようになったのです。
そんなある日、母が1冊の本を持って部屋に入ってきて、筆者にこんな一言を放ちました。
「傷をつけていると可愛くなれないから、これを見て可愛くなれる研究でもしたらどう?」そういって渡してきたのは、ファッション雑誌でした。
何を言っているんだと思いながらも、ファッション雑誌をペラペラめくっているうちに、意外にものめり込んで読んでいました。「自分でも努力すれば、少しは可愛くなれるのかな」「こんな洋服、着てみたいなあ」そこからファッションに少しずつ興味を持ち、化粧もするようになりました。
もう1つ、筆者から自傷行為を消してくれたものがあります。それは、動画サイトの「YouTube」です。筆者はパソコンで動画を見るようになってから、どんどん音楽の世界に引き込まれていきました。
アイドルの音楽ではなく、ロックバンドの音楽にハマるようになり、レンタルCDショップに足を運んだりして、少しずつ引きこもりが解消されるようになりました。
「自分の趣味」を見つけるようになり、気が付いたら自傷行為はなくなっていました。
「マイナスのストレス解消法」から「プラスのストレス解消法」に変えることができたのです。
「秘密だよ」を鵜呑みにしないで
自傷行為をしている人がそのことを打ち明けた時、よく言うのが「これ、秘密だよ」という言葉です。この言葉を聞いたら「危ない!」と思って下さい。自傷行為をしている人の「秘密だよ」という言葉を信じないでください。
近くでいいから外に誘ってみて
じゃあどうしたら良いのか?と考えますよね。その人と色んな場所へ外出をしてください。30分でもファミレスに入ったり、1時間カラオケに行ったり、何でもいいんです。とにかく、秘密を打ち明けられたら色んなところに出かけてください。
自傷行為をしている人は、自分の世界に閉じこもりがちです。その閉じこもった世界から、どのように引っ張り出すかが「カギ」になってきます。そのキッカケ作りをしてみるのが、自傷行為をしている人への寄り添い方の1つかもしれません。
不安なときは専門機関を頼ることも考えて
「これは酷い、自分じゃ手に負えない」と感じることもありますし、下手に扱って何かが起きたらどうしよう・・・と不安にもなるかと思います。
そんな時は、素直に専門機関を頼って下さい。
メンタルクリニックなどにかかって、きちんとした知識を持っているカウンセラーさんや精神科医さんに相談をしてください。もしかしたら、重大な精神疾患を患っている可能性もありますし、発達障害を抱えている可能性もあります。
まだ聞き分けの良い時期なら、そのままメンタルクリニックに連れていっていいと思います。しかし、本人が積極的な「治療」姿勢を見せないようであれば、電話相談なんかを利用して相談してみるのも良いかもしれませんね。