優遇制度の活用は出産・育児の立派な節約術
出産手当金は法律に定められた国民の権利
まず出産のときに使える制度として健康保険の出産手当金があります。労働基準法では産前日以前の42日(多胎の場合は98日)、出産日翌日以降の産後56日を産前・産後休暇と定めていますが、この間の生活の支えとして、会社を休んで給料が支給されなかった日数分が支給されます。この期間は給料が出ない会社がほとんどなので助かりますね。ちゃんと法律に定められた制度ですから利用しない手はありません。
支給額は、標準報酬日額の3分の2です。標準報酬日額というと分かりにくいですが、毎年4~6月の月給を平均した額(標準報酬月額)を30で割って計算した金額です。要するに給料の一日分で、これには残業代や家族手当、住宅手当なども含まれます。
仮に標準報酬月額が21万円だと以下のような計算になります。
21万円÷30日×2/3×98日(産前42日と産後56日を合わせた日数)=約457000円
では、出産が予定日より遅れたときはどうなのでしょうか。この場合は、規定の98日に加え、出産予定日から遅れた出産日までの日数を加算して支給されます。
注意しなければならないのは会社から産前・産後休業中に給料がもらえる場合です。出産手当金は基本的に給料とダブルではもらえません。ただし、休業中の給料の額が標準報酬日額の3分の2に満たない場合は出産手当金との差額が支給されます。逆に給料が3分の2を超えるときは支給されないことになります。
支給申請できるのは正社員だけではなく、契約社員やパート、アルバイト、派遣社員であっても健康保険に加入していればもらう権利があります。
出産を機に退職する人もいるでしょうが、退職日までに継続して1年以上に渡って健康保険に加入している場合などは支給されますので、会社の総務部や健康保険組合、年金事務所などに相談してみるといいでしょう。
育児休業給付金は当面、給料の半分
さて、産前・産後の休業が終わり、育児休業を取得するとします。育児休業もちゃんと法律に定められた制度で、原則として子供が1歳(一定の場合は1歳6か月)まで取得することができます。この場合は、雇用保険の育児休業給付金をもらうことができます。
もらえる資格があるのは、雇用保険の加入者で、育児休業を開始する前の2年間に賃金の支払いを受けたことのある日(賃金支払基礎日数)が11日以上ある月が12か月以上ある人で、男女を問いません。
支給の仕方は、育児休業を開始した日から起算して1か月ごとの期間(支給単位期間)を区切っていき、この支給単位期間ごとに支給されます。
支給対象となる育児休業期間に前述の産後休業は含まれず、出産手当金と重複してもらうことはできません。
支給額は、休業開始時賃金日額×支給日数×40%(当分の間は50%)です
休業開始時賃金日額は、出産手当金の時と違って、育児休業開始前の6か月の賃金を180で割った金額です。
また、支給日数は、休業を止めて半端な日数になる支給単位期間を除いて30日となります。月給が21万円の人だと以下の計算です。
21万円×6か月÷180日=7000円(休業開始時賃金日額)
7000円×30日×50%=105000円(一支給単位期間の育児休業給付金)
休業中に出勤して賃金が支払われた場合、その賃金の額が休業開始時賃金日額×支給日数の30%を超える場合は支給額が減額され、80%以上の時は支給されません。
厚生年金など保険料の特例も
さて、ここまで出産・育児に関わる補助制度をみてきましたが、健康保険や介護保険、厚生年金保険の特例(保険料免除)も忘れてはいけません。1歳未満の子供を養育するための育児休業だけでなく、1歳から3歳までの子供を養育するための、育児休業に準じた制度を利用する場合も、これらの保険料が免除されます。
また、前述した産前・産後休業の期間は出産手当金が支給されるため、これまで保険料の免除はなかったのですが、法律が改正され、平成26年4月1日より免除を受けることができるようになりました。
さらに育児休業を終えてからも保険料の特例があります。
育児休業を終えて職場に復帰しても、子供の世話で勤務時間が短くなったり、残業を減らしたりして給料が下がる場合がありますね。このまま放っておくと、育児休業前に支払っていた健康保険・介護保険・厚生年金保険の保険料がそのまま課せられることになり、手取りの給料は目減りしてしまいます。
これを避けるため、職場復帰してから3か月の平均報酬額が一定の基準で下がっていれば、届出を行うことで、報酬に見合った保険料に引き下げてもらうことができます。
ただ、厚生年金は報酬が低ければ給付額も低くなる仕組みです。支払う保険料が少なくなれば将来の年金額も減るのではないかと考える人がいるかも知れませんが、心配は無用です。
これもしかるべき届出を行えば、低い保険料でありながら、年金額は休業開始前の報酬で計算してもらえる特例があります。
少子化が問題となっている日本では、出産・育児に色んな優遇制度があります。これまで紹介してきた以外にも、子供が生まれたときに支払われる出産育児一時金などがあります。
使わなければ損ですね。
基本的にお役所の補助制度や公的な保険は請求主義です。権利はあっても請求しなければ何ももらえません。
これまで述べてきた様々な制度は、大手企業なら総務担当者が理解していて当然ですが、中小・零細企業では必ずしも熟知されているとはいえません。
最低限の知識は身につけて、会社の総務や年金事務所と相談して、国民の権利を最大限に活用しましょう。