北の地の植物種が異国の味わいを生む
憧れのイングリッシュガーデンとは違う趣
バラやハマナス、クレマチチスなどの花々が競うかのように咲き誇る庭。白樺の白い樹皮が垣間見え、清流の際には水芭蕉の群落が連なる。本州の日本庭園まったく異なる北海道ガーデンの姿がここにある。
北海道と青森を隔てる青函海峡には、「ブラキストン線」と呼ばれる生物分布の境界線があり、動物、植物の生息する品種が違う。
分かりやすくいえば、近年、札幌の繁華街すすきので見つけられるまで、ゴキブリは北海道には存在しなかった。カブトムシもいなかった。 北海道には遥か昔から独自の生態系が存在し続けた。
独自の庭園様式確立へチャレンジ
例えば、京都などのお寺の庭園は、塀の手前を高く、奥を低くすることで奥行き感を出す独特の世界観で、日本庭園を演出する。 それとは対照的に、北海道ガーデンは背景の大雪山、十勝岳連峰までも借景にしてしまう広大なスケール感が楽しい。
イングリッシュガーデンの自然な植栽に学びながら、新しい日本の、北海道の庭園模様をたどる旅。
さあ、ガーデン街道を楽しもう。
北から順番で行くと最初は「大雪 森のガーデン」
ルートの出発点を旭川空港とすると、最初に訪れるのは「大雪 森のガーデン」だ。
北海道の春は豪華絢爛だ。梅も桜もチューリップも、雪解けから5月あたりでいっせいに咲き誇る。
大雪高原旭ヶ丘にある「大雪 森のガーデン」でも、5つのテーマで構成された「森の庭園」では500種もの花が咲き誇る。7つのテーマガーデンからなる「森の迎賓館」も飽きさせない。
まさに北の花園が、大雪山系の山麓に広がる。
遊歩道には、カフェやショップも設置され、ゆっくり休みながらガーデンを楽しむこともできる。
map ⇒ 大雪 森のガーデン
「北海道ガーデン」のコンセプトを提唱した「上野ファーム」
2番目となる「上野ファーム」は、イングリッシュガーデンをベースとして、北海道の気候に合う宿根草(しゅっこんそう)を多めに植栽している。
ガーデンデザイナーは、オーナーの上野砂由紀(うえの・さゆき)さんが務めている。上野さんは、園芸を学ぶためにイギリスへ渡り、帰国後、実家の農家だった庭園をイングリッシュ風としながら、独自の北海道スタイルを確立してきた。
北海道は気候風土が英国と似ているため、北海道の庭はイングリッシュガーデンと似た植栽になりがち。上野さんはその中で、北海道独特の植物と生態に注目し「北海道ガーデン」の確立を目指している。「ガーデン街道」もこのコンセプトに共鳴した庭の集まりだ。
map ⇒ 上野ファーム
テレビドラマの舞台ともなった「風のガーデン」
旭川地区から国道を南下し、3番目に「風のガーデン」がある。
人気の観光地、富良野にあって、2万坪の敷地に365品種の花が植えられている。植物の高さや色合いを考慮しながら、あくまで自然の地形をいじらずに施される“自然の中の庭”を演出する。
「風のガーデン」では、春から秋まで季節の花の彩りが楽しめる。ガーデンデザインは、「上野ファーム」の上野さんが担当している。
map ⇒ 風のガーデン
悠久の森がここにある「十勝千年の森」
富良野を抜けて国道を南下すると、北海道有数の農産地、十勝平野に向かう。その入口にあるのが、「十勝千年の森」だ。
人類の営みがあろうと、森は千年以上続き、今後も悠久の時間を刻む。
100年後の森、草原、水辺を守るために、森に限らず、生息する動物達も含めた環境を保護し、あるがままの自然を育てている。
map ⇒ 十勝千年の森
日本初のコニファーガーデン「真鍋庭園」
十勝平野に入ると、肥沃な大地に広大な畑が広がる。
その中で、どこまでも続く直線道路に思わず、「ハンドルがいらない!」と叫んでしまうドライブの先にあるのが「真鍋庭園」だ。
ここは、針葉樹・コニファーのみの珍しい庭園。 和風、洋風、風景式庭園の3つのテーマエリアからなる。針葉樹のみとはいえ、それぞれ趣の異なるコレクションは実に数千品種にもなる。
本州では見たこともない種類や、水辺には野鳥やエゾリスが普通に姿を現す光景は、まさに北海道ならでは。
map ⇒ 真鍋庭園
環境は美味しい食材も産む「十勝ヒルズ」
十勝平野の真ん中、帯広市の南の郊外の丘に食をも意識した「十勝ヒルズ」がある。
「十勝ヒルズ」は“花と食と農のテーマパーク”がコンセプトだ。 季節ごとに咲き誇る花々に加えて、野菜や、果樹を栽培し、その収穫物を園内のレストランで料理として供する。
広がる青空の下、十勝平野が広がる視界を目にしながら、焼きたてのパンに、その朝、採れたての野菜料理が楽しめる。
map ⇒ 十勝ヒルズ
北の花々が咲き誇る「紫竹ガーデン」
さらに国道や農道のまっすぐ続く街道でそろそろハンドル操作を忘れた頃に「紫竹ガーデン」が見えてくる。
オーナーの紫竹昭葉さんの「花と遊びたい」とのいう長年の思いが結晶となった。「紫竹ガーデン」は約2500種の草花が、季節ごとに次々と艶やかさを競う。
白い花を集めたホワイトガーデン、宿根草のガーデン、ハーブ、野の花など、7つのガーデンエリアがある。
map ⇒ 紫竹ガーデン
自然の山野草がお迎え「六花の春」
ガーデン街道ラストを飾るのが、十勝空港のそばにある「六花の森」。その名からも分かるように、帯広のスイーツの有名どころ、「六花亭」が運営するガーデンだ。
六花亭の包装紙に描かれた北海道の山野草は、山岳画家、坂本直行の作品である。幕末の志士、坂本龍馬の甥の孫にあたる、直行は山と自然を愛した画家だった。
直行の愛した自然の世界が展開する。黄色のエゾノリュウキンカ、白い水芭蕉などの群落が水辺に咲き誇る。
map ⇒ 六花の春
ガーデンプラスアルファの楽しみ
ガーデン街道は食材の宝庫でもある。自然にあふれる庭園を楽しむルートを楽しむかたわら、北海道の食を満喫する楽しみがある。
今や米どころとして知られるようになった北海道。「大雪 森のガーデン」の周囲の上川、東川地方は北海道米の地位を高めた「ゆめぴりか」の産地だ。
富良野、十勝に至る街道の両脇には、真っ黒で肥沃な大地が広がる。じゃがいも、タマネギ、トマト、にんじん、トウモロコシなどの野菜の大生産地である。夏場は、みずみずしいメロン、スイカも楽しめる。
それぞれのガーデンの中には、近隣のホテルとタイアップしたガーデンランチが用意されているところもあり、牧場で作られるチーズや、地元の畑から採れたブドウで作られたワインも提供されている。
ガーデン街道を北の旭川空港からたどってみたが、もちろん、南の帯広空港からスタートして北上するのもいい。
北海道ならではのガーデンを楽しみながら、グルメを味わう。
冬季を除いて、北の新しい楽しみ方だ。