天に届くかのような道
map ⇒ 天まで続く道
知床・斜里町にある18kmの直線道路
「天に続く道」は知床半島ウトロから斜里に向かう国道334号の先にある。
334号の峰浜で左折してスキー場を左手にして坂を上がりきり、右折すると、いきなり「天に続く」雄大な光景が目前に広がる。
どこまでも真っ直ぐ続くその道の先は、まるで天に届くかのよう。
周囲に原野が広がり、まるで天への滑走路を想わせる。
時間帯と時期を選べば、道の延長上に沈む夕日を鑑賞することもできる。
国道334号と244号からなる直線は18km。どこまでもどこまでもハンドルを動かさないままの状態が続く。
日本一は直線29.2km
北海道では直線ができやすい
北海道は集落や市街地ができる前に原生林を切り開いて道路を作ることが多かった。
そのため山岳地帯以外では、道路の目的地を結ぶ直線のほうが建設費も安くすむため、直線道路が多くなった。
初めに道路ありき、で出来た日本一
直線距離日本一があるのは国道12号線だ。
札幌と旭川を結ぶ幹線道路の、美唄市光珠内(こうしゅない)の鉄道を渡る橋から滝川市の国道38号線との交差点までの29.2kmになる。
明治初期、まだこの道路がなかった時は石狩川を船で往来していた。
旭川方面の開拓を進めるには道路整備が必須だった。そのため、月形の樺戸集治監の囚人約500人が動員されて開削にあたった。
その際の工事指示書には「なるべく直線路になすを主とし」とあった。それが、直線道路誕生の理由だった。
道路の後に、鉄道が敷設され、屯田兵が周囲に入植するなど、この直線道路を中心として開拓が進んでいった。
現在では、12号線の両脇には市街地が発展し、道路も4車線となっている。
交通量も多く、走行していて、いわゆる北海道の雄大さを感じる光景は少ない。
各地に多い直線路
海に飛び込むかの道
斜里清里町の北海道道857号は小高い丘から、真っ直ぐ北に伸び、その先にオホーツク海が広がる。
途中、清里町内を通るが約15kmの直線となっている。
地平線が見えるミルクロード
330°の地平線が見える中標津町開陽台展望台。地平線が丸く見え、地球が丸いということを感じさせる光景が感動的だ。
その開陽台に向かう直線道路がミルクロードと呼ばれる。人口より牛の数が多い中標津町にちなんで名付けられた。
直線部分は6km程度しかないが、周囲の広大な牧草地を眺めながら疾走する気分は爽快で、ライダーに人気の道だ。
水平線と風力発電所に沿って
道北の天塩町から稚内市に至る道道106号は、幌延町で海岸線に沿っている。
南北に延びる約15kmの直線道路があり、北に向かえば左に日本海の水平線、右にはオトンルイ風力発電所の風車が並ぶ光景が広がる。
風車は高さ74mと近くでは見上げるように高い。それが、28基も道路に沿って延々と続くのはまさに壮観な風景だ。
さらに、風車の向こう側は50種類の草花が咲く、広大なサロベツ原野が広がっている。
水平線と地平線の境目を走る直線道路には、大きく高い風車が立ち並ぶ、北海道でしかありえない雄大な風景だ。
map ⇒ サロベツ原野
アップダウンが楽しい直線
富良野と美瑛の中間の上富良野町にあるのが、「ジェットコースターの路」だ。
国道237号を美瑛から行くと、上富良野町の深山峠から少し降りた場所に入口がある。
最初ゆるやかなアップダウンが続き、急な下り坂の次に急な上り坂が現れ、またゆるやかなアップダウンが続く。まるで自分の車がジェットコースターのように、路面で跳ねる。
思わず声を張り上げる人や、目をつぶる同乗者が出てくる楽しい道なのだ。
長さは4kmほどだが、周囲はパッチワークのような田園の中を走るので風景が楽しめる。
map ⇒ ジェットコースターの路
桜並木の直線道路
新ひだか町の「静内二十間道路」は、約7kmの直線道路の両脇に桜並木が続く。
並木の幅が二十間(約36m)あることから、名付けられた。
なんといっても5月のゴールデンウイーク後半に咲き誇る3000本の桜が圧巻の光景だ。
map ⇒ 静内二十間道路
直線道路のミステリー
先になぜ山がある?
北海道にたくさんある直線道路を調べると、これまで紹介した中にはない共通点をいくつか見つけることができる。
それは、直線道路の先に山があるケースが多い、ということだ。
例えば、「蝦夷富士」とも呼ばれる羊蹄山の場合、喜茂別町の国道276号線(1.2km)、同町の旧国道276号線(1.0km)、倶知安町の町道寒別零号(1.3km)、ニセコ町の国道5号(2.8km)、倶知安町比羅夫半月湖付近の町道(800m)、真狩村の道道97号(1.4km)と6ヶ所もある。
開拓時代の測量事情が「山アテ道路」を造った
明治時代は、北海道開拓のため各地を測量して道路などのインフラ整備が急がれた。
当時は西洋の精密測量器具はなかなか入手できず、多くの原生林の中は見通しの効かない場所だった。
測量をする際に基準とする軸を定めなければならず、さらに仕事を急がされた技術者達は遠方の山頂にその軸を求めた。
こうして基準となる直線道路の遠方に山がそびえる「山アテ道路」が誕生した。
北海道で35ヶ所もある
景観遺産として高い価値
この「山アテ道路」は北海道全域で実に35ヶ所もある。
例えば、斜里町の国道334号の直線道路は24kmあり、その先に海別岳が望める。
中札内村の八千代帯広線の23.4kmの直線道路が指しているのは、コイカクシュサツナイ岳だ。
札幌市手稲区の道道44号石狩手稲線5.8kmの直線部分の先に、手稲山西峰がある。
これらの直線道路の目指す先に山並みが望める。
道路に限らない山アテ手法
山頂を測量の軸とする手法は道路に限らない。
札幌市北区の創成川水路4.8kmの南方向の直線部分の先には藻岩山を望む。
JR石北本線の西留辺蘂駅付近の2.7kmの直線延長に紅葉山がある。
秀逸な道路景観は100年前からのプレゼント
この「山アテ道路」の景観を見てみよう。
例えば、羊蹄山。北海道の富士と呼ばれる美しい山だ。
道路を走り、カーブを曲がると、その先には原野の中に真っ直ぐ続く道路の光景が眼前に飛び込んでくる。
そしてその先には秀峰の姿が。まさしく絶景だ。
真っ直ぐ続く道路の周囲の森、田園、風景が1点に投射され、その焦点に山がある。これをビスタ景観と呼び、「100年前の技術者の贈り物」と呼ばれるほど美しい。
「山アテ道路」は、北海道内に多くの道路景観を残してくれた。
最後に安全運転厳守で
延々続く直線道路はアクセルをついつい踏みがちになってしまうが、中には路肩が狭かったりする部分もある。
高速で事故を起こすと、死亡事故も引き起こしかねない。