
東京高等裁判所では国が敗訴
2012年4月26日に東京高裁において下された判決は、インターネットによる医薬品の通信販売を認めるというものでした。
しかし、厚生労働省はこれを不服とし最高裁へ上訴。今もって決着はついていません。
そもそもの発端はなんだったのか?
それまで通販が許されていた医薬品が突然禁止になったのは、2006年に成立し2009年に施行された「薬事法の改正省令」によるものです。
この改正省令により、医薬品は副作用の強さにより第一類から第3類に分類されました。
第一類医薬品とは、健康リスクが高く、安全上注意が必要とされた物。
ガスター10やリアップ、禁煙を補助するニコレットなどが含まれます。
第二類医薬品とは、まれに入院などの健康被害が懸念される物。
バファリン等の風邪薬や解熱鎮痛剤、水虫薬などがこの対象となりました。
第三類医薬品とは、日常生活に支障をきたさない程度の健康被害を起こす恐れのある物。
整腸剤、うがい薬が分類されます。
薬事法改正省令において、インターネット販売は「郵便等販売」に分類され、第三類医薬品以外の販売が出来なくなりました。
なぜ規制されたのか
厚生労働省が問題としたのは「安全性」。
今回の薬事法改正省令において、安全性を高めるために対面販売にこだわりました。
つまり購入者が直接店舗に出向き、店員から薬の説明を受ける事でリスクを減らせると考えたわけです。
その為、直接説明を受けられない状況での、健康被害の可能性がある薬の販売は禁止=薬のネット通販の禁止となりました。
さらにネット通販を解禁する事で、海外で氾濫している偽薬が国内に容易に流れ込むだろうことも懸念されています。
しかしネットでの薬の販売が禁止された一方で、「登録販売者」がいれば第二類と第三類の販売は可能という事になり、最近ではコンビニでも医薬品が買える状況になっています。
また一方では代理購入に規制もなく、昔ながらの置き薬は容認されています。
規制に反対の声
このネット通販規制に対し、いち早く反対の声を上げたのが売り上げの7%を医薬品が占めていた大手ケンコーコム、Yahoo!ショッピング、楽天の三社でした。
ケンコーコムの社長は「ネット販売が危ないというが、その根拠はない」「偽薬に関しては、別に取り締まる法律を作るべきであり、ネット通販とは関係がない」と述べています。
そして2008年の度重なる討論会においても議論は平行線となり、結果ケンコーコムとウェルネットが改正省令の取り消しを求め国に対して裁判を起こしました。
この裁判の争点は「改正省令」の取り扱いについてです。
裁判を理解するためには、この「省令」がどういう事かを理解する必要があります。
「法律」とは意味の違う「省令」とは
省令とは「各省の大臣が法律を施行する為に発する命令」の事です。
覚えておいて頂きたいのが、省令は法律のように国会の審議を通っておらず、大臣の権限によって発せられているという事です
そして、薬事法そのものに「ネット通販禁止」の項目はありません。
ネット通販禁止の命令を出しているのは「省令」だけなのです。
問題は省令でどこまで規制できるのか
規制反対派の意見を要約すると以下の通りになります
「住んでいる場所や身体的な障害、あるいは薬の種類によっては直接購入する事が困難な人が大勢いる。多数の国民の権利を制限するような命令を国会の承認もなしに、省令だけで行う事は法律違反になるのではないか」というものです。
第一審の行方
第一審が下されたのは2010年3月30日の東京地方裁判所の事です。
結果は国側の勝訴でした。
新薬事法では、「販売方法を具体的に決めており、その中で今までの販売方法が取れなくなったとしても、それは委任の範囲を超えていない」というものでした。
第二審の行方
そして2012年4月26日の東京高等裁判所においては、逆に規制反対派の勝訴となります。
第三審の行方
現在、国は第二審の判決を不服とし、最終的な判断は最高裁へと持ち込まれ、いまだ決着はついていません。
薬は安全に買えるようになったのか?
第三類の以外の薬が規制された後、果たして薬は安全に買えるようになったのでしょうか。
ネットでは購入できなくなった風邪薬は薬局で変わらずに購入できます。
たびたび偽物が発見され問題となる「医薬品の個人輸入」に関しても、自己責任と言われているだけで何も変わっていないようです。
そしてインターネット上での薬の販売については業界ルールを定め、その安全性を高めようとしています。
しかしどうしても通販を頼らなければいけない人がいる事を考えると、一方的な禁止処置はあまりにも乱暴に感じてしまいます。
