梅酢とは
「うめぼし」を作ったことがなければあまり馴染みがないかもしれませんが、「梅酢」とは「梅」を塩に漬けて、数日後に上がってくる液体のことです。はじめに湧き上がってくる「白梅酢」と、後ほど赤紫蘇を加えて紅色に染まった「赤梅酢」の二種類があります。
紅白両方に、「疲労回復作用」や「整腸効果」があり、いにしえから重宝されてきました。一般的に販売されているのは、圧倒的に「白梅酢」です。その大きな理由として、家でうめぼし作りをされる方が減ったことがあげられます。
うめぼしに限らず、梅と紫蘇を合わせて使うのは日本独自の方法です。梅料理の本場中国でもたくさんのレシピが考案されていますが、紫蘇を使うものはありません。現代では、「梅酢」そのものが馴染みがうすくなりましたが、さらに赤紫蘇で色づけられた「梅酢」は世界中をさがしてもめずらしいようですね。
なぜ、「梅酢」を摂ると疲れが楽になるのか?
体調不良で何も食べられない時でも、なぜか「うめぼし」だけは口に入れられた、という経験があるのではないでしょうか?梅はシンプルな味ですが、飽きがこず、また季節を問わず食べたくなるものです。
けれども近年、梅の加工食品の王様ともいえる「うめぼし」のパワーは弱まってきました。塩分の過剰摂取を気にする方が増え、冷蔵庫で保管しなければならないほど塩の少ない「うめぼし」が一般的になったからです。
約30年前までは、塩分濃度30%をキープしていましたが、このごろは10%以下のうめぼしまでもが出回っています。これは一見ヘルシーに思えますが、塩気が減ったと喜んでいられません。
なぜならば、かつて「うめぼし」は優秀な保存食でした。しかし、塩分を減らすと傷みやすくなるため、添加物を加えなければならないからです。健康のことを考えて減塩タイプを選んでいるはずなのに、これでは本末転倒ではありませんか。
そこで「うめぼし」にかわって、日常生活に「梅酢」をとり入れる方法をおすすめします。古代からの「梅」パワーにくわえて、「酢」の効能も見直されています。では、なぜ「梅」や「酢」を摂取すると疲労がとれるのでしょうか
(1)体内に溜まった毒素の排泄をうながす
「梅酢」には、疲れのもとになる「乳酸」がたまるのをふせぐ効果が高い「クエン酸」が豊富に含まれています。「クエン酸」は、「乳酸」を「水」と「二酸化炭素」に分解させる働きが有名です。
けれども、ただ「疲労物質」を取り除くだけでなく、「乳酸」をエネルギーに変化させて代謝を促進する働きもあるのです。つまり、体内に蓄積された毒素を排泄させるのと同時に、エネルギーを得られるありがたい存在なのです。
また、体内の毒素の排泄を促すことから、「便秘」にも即効性があります。しかも強い殺菌作用に優れているので、「下痢」の時に少量飲むと回復が早いですよ。
(2)血管や血液がきれいになる
「梅」には血液をさらさらにして流れをよくする効果も期待できます。「脳卒中」や「心筋梗塞」の原因になる「動脈硬化」の予防に適しています。
(3)唾液の分泌がよくなる
しょっぱい「うめぼし」を舌にのせると一気に唾液が分泌されますが、「梅酢」も同様といえるでしょう。口内が多くの唾液でうるおっていると「風邪」をはじめとする感染症や食中毒の予防になります。また、虫歯や歯周病にもかかりにくくなるのです。
(4)二日酔いの予防にも
最終的にアルコールは、「炭酸ガス」と「水」に分解されます。しかし、アルコールの摂取量が多く、肝臓で処理が間に合わなければ血液の酸素が乏しくなり、吐き気や頭痛を引きおこします。しかし飲酒前に小さじ一杯ほどの「梅酢」を飲んでおくと、うまく中和することが可能なのです。
そして、二日酔いになると体内が酸性に傾きますが、「梅酢」を摂ることで「弱アルカリ性」を維持することが可能です。本来「酢」は「酸性」ですが、体内に入ると「アルカリ性」に変化する性質を持っているのです。
高い抗菌作用
現代ではかえって新鮮な「日の丸弁当」。一見質素に思えますが、日本人の暮らしには実に合理的であり、よく合っていました。一年のうちでも、梅雨の前後は食中毒の多い季節です。湿気が多い時に長い時間密閉する弁当類は、被害が多いのが現状。
しかし、たった1粒のうめぼしを入れておくだけで高い滅菌作用が得られて、弁当箱全体が衛生的に保たれるのです。ごはんの真ん中にうめぼしを入れると、時間をかけて少しずつ梅の効果が飛び散ります。だから一口だけでも充分に効果が得られたのです。
とはいえ、減塩タイプが主流のうめぼしではその素晴らしい殺菌作用は期待できません。というわけで、「梅酢」を効果的に使うと、湿度の高い時期も安心して弁当を持っていくことができるのです。
ちなみに、「O-157」が流行った時には、「梅酢」や「うめぼし」「梅肉エキス」が店頭から姿を消すほど売れたようです。
意外に、おいしい?
梅とは酸っぱいものと思いがちですが、もぎたての青梅を舐めると苦くて渋いのに驚きます。これは、青梅にふくまれる強い毒性が関係しているのです。しかし、この青梅を直射日光にさらしたり蒸留酒に漬け込むなど加工をほどこすことで、毒素が抜けて梅の味わいはまろやかな味わいになっていくのです。
「梅酢」とは、聞くだけでも「かなり酸っぱいもの」というイメージがあるかもしれません。たしかに強烈な酸味があります。しかし、同時に心地よい梅の風味が感じられ、慣れるとすっきりとした味わいと切れのよい後口が癖になりますよ。
まずは調味料として香りづけに使用して鼻と舌を慣らしていき、徐々に「梅酢」のもつ本来の濃厚な味をお楽しみいただく方法がおすすめです。
梅酢の活用応用編
地味な存在ながら「梅酢」が体によいものであることは理解していただけたのではないでしょうか。では、ここからは日常生活の中で具体的に「梅酢」を使いこなす方法を紹介しましょう。
「梅酢」の作り方
「梅酢」を作るには、どのようにしたらよいのでしょうか?昔ながらの方法と、簡単に「梅酢風調味料」として使える「梅酢」の作り方をまとめました。
(1)従来の作り方
(1)黄熟した梅5㎏のヘタをとります。
(2)表面の汚れを取り除くためにホワイトリカーで梅を洗い流します。同時に、漬け込む甕も熱湯消毒をした後でホワイトリカーで消毒してください。
(3)底に塩を入れた甕に梅を並べて、上に塩をのせます。このときの塩は、底の塩より若干多めにするのがポイントです。
(4)(3)の要領で、梅と塩を交互に重ねます。一番上まで来ると、塩を厚く入れて蓋をしましょう。
(5)重石をのせて様子を見ます。早ければ翌日には、うっすらと「白梅酢」が上がってきます。だいたい、5日から1週間ほどで塩が溶けて酢が上がります。塩が固まらないように、時々甕を傾けながら様子を見ます。「梅酢」が滲み出してきたらすくって瓶に移します。
(6)重石を半分の軽さにしてさらに「梅酢」が上がってくるのを待ちます。
この作業の後で土用干しをすると、うめぼしができます。塩漬けにするだけでもかなり、手間がかかるので、時間と場所を確保しなければなりません。疲労回復効果抜群の「梅酢」の出番が減った背景には、この面倒さが響いているのではないでしょうか。
(2)穀物酢に漬け込む
本来は邪道な方法ですが、穀物酢の中に梅の実を漬け込むやり方もあります。
1.8ℓの穀物酢にヘタを取った青梅1㎏を入れて、3ヶ月ほど寝かすとできあがりです。濁らない限りは何年でも保存できます。また、お好みで氷砂糖やはちみつで加糖してもよいでしょう。
梅酢を買うとしたら?
梅仕事に馴染みがない方にとっては、「梅酢」に高い効能があることがわかったとしても、うめぼし作りに挑戦するのは敷居が高いのが現実かもしれませんね。けれども、青梅を漬けなくても「梅酢」を買うことはできます。
デパートの健康食品コーナーや、大型のドラッグストアにも取り扱いがあります。また、初夏になると梅酢を使った漬物を仕込む方のために、スーパーマッケットの野菜売り場や農協にも並びますよ。
梅仕事のアラカルト
「うめぼし」の他にも「梅」を加工した保存食は、バライティーに富んでいます。甘いもの、酸っぱいもの、苦いものなど、さまざまな梅味と薬効が期待できます。その一例を取り上げました。
まず、6月上旬頃、収穫した青梅は「梅酒」と「梅肉(ばいにく)エキス」を作るのに最適です。「梅酒」はホワイトリカーに梅を浸すだけなので初心者でも失敗することなくチャレンジできますよ。
寝つきが悪いときや食欲不振のときに盃1杯飲むと、気持ちが落ち着きますから、常備しておくとよいのではないでしょうか。冷暗所に保管しておけば、軽く数十年もちます。20年以上熟成させた梅酒はコクがあり、なめらかな味になるので重宝しています。
「梅肉エキス」は、名前の通り濃縮した梅のありがたさをいただくことができます。すりおろした青梅の汁を鍋で黒くドロドロになるまで煮詰めていきます。作業自体は単純ですが、梅の汁をひたすら火にかけるのは体力勝負といえるでしょう。
作るのは汗だくになりますが、「梅肉エキス」は最高の梅パワーが得られます。食品としてだけではなく、外用すると、「ニキビ」や「歯槽膿漏」「水虫」にも効果が高いことがわかっています。
「うめぼし」は、6月中旬以降の熟した梅を使って仕込みます。塩漬けにした梅を1粒ずつ並べて乾かす様子は、初夏の風物詩でした。太陽だけでなく夜露にさらすことで、より果肉がやわらかくなり味に奥行きが増すので、梅を干す時期は昼も夜も休む時がありません。
梅酢の活用法
食用としてはもちろんのことですが、他にも日常生活の中で「梅酢」が活躍します。
(1)うがいに使用する
「梅酢」をぬるま湯で20~30倍にうすめた液体でうがいをすると、扁桃腺炎や、風邪のひきはじめにの咽喉の痛みに即効性があります。
(2)捻挫や歯痛みの湿布に
適量の「梅酢」をふくませたガーゼを患部に湿布すると、腫れや炎症からくる痛みが楽になります。
(3)布巾の滅菌に
布巾を洗う時に少量の「ホワイトリカー」と「梅酢」を垂らすと衛生的ですよ。菌が付着するのをふせぎ、乾きも早くなるので覚えておくと便利です。
調味料として
「ドレッシング」として、「千切りキャベツ」やスライスした「オニオンサラダ」にかけたり、炒め物の仕上げに少量の「梅酢」を垂らすと胸焼けがせず、さっぱりといただくことができます。
ほかにも、「とんかつ」や「から揚げ」にレモン汁のかわりに使用してもよいでしょう。変わったところでは、「寿司酢」として使うこともできます。寿司酢は自分で調合すると加減が難しいのですが、「梅酢」を用いるとごはんに混ぜ込むだけなので簡単ですよ。
また、暑い季節には「カレー」や「ハンバーグ」のかくし味としてもおすすめです。わずか、数滴入れるだけで、素材の味をひきたてながら清涼感のある味と香りが楽しめるのです。
和・洋・中華どの料理とも相性がよく、こってりとしたレシピにも、あっさりとしたメニューにも、違和感がなく馴染むのには感心させられます。夏バテで食欲がない時にも、清涼感のある梅風味ならおいしく食べられるかもしれません。
梅酢でスイーツ?
めずらしいところでは、「バニラアイスクリーム」や「シャーベット」の風味付けにも大活躍です。いつもの「アイスクリーム」がさわやかな梅の香りが漂う和洋折衷のふしぎなスイーツに早がわりしました。
酸っぱいものが苦手な方は、スイーツの香り付けとして「梅酢」を取り入れると抵抗なく受け入れられるのでおすすめです。そして「無糖ヨーグルト」にはちみつと一緒に混ぜると、さわやかな味わいに。
梅のパワーで夏バテ予防
強い抗菌作用と、デトックス効果が高い「梅酢」。体調不良の時にはもちろんのことですが、毎日の生活にもぜひ活用してください。これからのシーズンは「夏バテ」の予防にも大活躍しますよ。
梅の香りと味は、心がいやされ優しい気持ちになれるものです。何世紀にも渡って愛されてきた「梅パワー」の威力。遺伝子に刻まれた「梅力」を大切にしたいものですね。