保険会社が頑なに保険金を支払わなかった理由とは?
保険とは「転ばぬ先の杖」そのものです。保険の適用対象となる万が一のことが起きた場合は加入者の家族が苦しまなくて済むように、万が一のことが起こらなくても「保険を使うようなことがなくてよかった」という安心を買うことができます。
しかし、万が一のことが起きているのにも関わらず保険が適用できなかった場合、加入者とその家族はどんな思いを抱くでしょうか?間違いなく「騙された!」という思いと恨みを抱くことでしょう。
2005年に社会現象となった「保険金の不払い事件」はいかにして起こったのか、紐解いていきましょう。
保険会社の利益の仕組みとバブルが原因
保険金の不払いを解説する上で、知っておかなければならないのが「保険会社がどのようにして利益を得ているか」ということです。
保険会社は、「保険商品で集められた保険料」と「土地や株式などの資産運用で発生した運用益」、それと、かかる見込みの経費と実際にかかった経費の差を利益としています。
通常、保険料と保険金の関係は、多くのデータに基づいた絶妙なバランスで設定されており、払い渋りなどしなくても十分にやっていけるようになっています。
しかし、生命保険会社の多くはバブル期に誤った運用益を見込んでしまいました。バブル崩壊後、その差額が大きな損失となり、生命保険会社は窮地に立たされることとなったのです。
これが、生命保険会社に不払い問題を起こさせた要因のひとつと言われています。
保険会社最大の経費は人件費
保険会社は生命保険を筆頭に様々な保険商品を販売して、多額の保険料を集めています。しかし、多額の保険料を集めていても利益が出ないくらいに保険会社の経費は大きなものです。
なぜなら、保険会社は保険商品販売のために多額の人件費が必要になるからです。
保険会社は、いわゆる「セールスレディ」に代表される保険外交員を多数雇っています。腕のいい保険外交員はテレビや新聞に公告を出すのと同じくらいに売り上げ増加効果を発揮します。
腕のいい保険外交員はどこの保険会社でも喉から手が出るほど欲しい存在で、引き抜かれないように厚遇しなければなりません。そして腕が良くない外交員でも保険の販売先となる人脈を抱えていることがあるので安易に放出できません。
このように、保険会社は保険外交員を数多く抱え込まなければならないため多額の人件費が掛かってしまうのです。
本当にあった保険金不払い
保険会社にしてみれば、保険金を支払うよりも保険金を支払わない方が利益に繋がるわけなので出来れば保険料だけ頂いて保険金を支払わないようにしたいものです。
しかし、保険商品を販売する際に契約を交わしている以上、故意の契約不履行は詐欺と取られかねないので、「契約に不備があった」という体を取って不払いを行っていたのです。
どのような手口で保険金の不払いが行われていたのでしょうか?
事務的ミスによる不払い
保険に限らず「双方の合意の元で取り交わされた契約」というものは重い意味を持ちます。口約束だけの契約ならばまだしも、書面を介した契約は法的な効力が強くなります。
しかし、事務的なミスで契約が成立していなかったことにより契約金が不払いとなったケースが多数存在しています。
これには計画的に行われていたのではないかという声があるのも事実です。「故意に契約不履行した」のではなく、「過失が重なった結果契約不履行になった」という体を取った方が、正直な話、法的な処罰は厳しくないものになるのです。
請求がない限り不払い
保険加入者は、隅から隅まで約款に目を通して少しでも保険会社に不備があれば突き上げてくる人、保険会社を信頼した上で保険会社に任せる人、約款に目を通さず保険外交員の言いなりで契約してしまう人と様々な人がいます。
これを逆手にとって、加入者からの請求がない限り保険金・給付金を支払わないという手口で不払いしていたケースがあります。
「告知義務違反」があったとして不払い
故意の契約不履行である保険金不払いは、保険会社にとってはハイリスクハイリターンな手法といえます。なぜなら契約不履行の原因が保険会社自身にあるからです。出来れば契約相手である保険加入者の責任という形にして不払いを行いたい、と考えることはごく自然な流れとも言えます。
そのため、「加入時に告知義務違反があった」と強弁して保険金の不払いをするケースが続出することになったのです。
例えば、給付対象となる病気を保険契約以前に発症したものと断定する、加入者本人に自覚症状がなかったにもかかわらず「病気を告知していなかった」と断定する、といった方法で不払いを行ったケースがありました。そのほか、保険加入の際に病気があることを自己申告していたにもかかわらず、外交員が「病気だと保険に入れないから黙っていた方が良い」と加入者に告知義務違反を勧めさせたりといった方法を使って告知義務違反による契約解除と不払いを行っていたケースもあったのです。
保険会社は加入者の信用を回復しなければならない
このような保険会社による保険金不払いには、2005年から2008年にかけて保険会社の担当省庁である金融庁による行政指導が入り、業務改善命令や業務停止命令が下されるという一大スキャンダルとなりました。
担当省庁による業務改善命令が出たということは、免許制である保険会社にとって重大な意味を持ちます。業務改善命令に逆らえば免許取り消しも十分ありうることで、自社利益を優先させるか会社存続を優先させるかなど天秤に掛けるまでもありません。
これからの保険会社には、コンプライアンスを意識した経営姿勢が一層求められていくものと考えられます。そのためにも保険金不払いの撲滅は保険会社自らが進んで行わなければなりません。
保険料主体の利益システムの改善や、保険金支払いの確約など保険加入者の信用をより一層強固にするための経営が今後の保険会社に求められているのです。