今も黄色のハンカチが風にたなびく
記念館の内部に黄色いメッセージが
「幸せの黄色いハンカチ」(1977年)は日本アカデミー賞に輝いた映画として有名だ。そのロケ地となった炭鉱住宅が「想い出ひろば」として現在も残っている。
map ⇒ 想い出ひろば
高倉健さん演じる島勇作は、思わぬ事故から刑務所に入ってしまい出所したばかりの役柄だった。
島勇作は、偶然出会った武田鉄也演じる欽也、桃井かおり演じる朱美と一緒に欽也の赤い車で釧路、網走、帯広などをドライブしてロードムービーが進む。
印象的なハンカチのシーンを今も再現
映画の後半で、3人は島勇作の妻、倍賞千恵子演じる光枝が住む夕張へと向かう。
刑務所を出所後、島勇作は妻に「もし1人暮らしで俺を待っていてくれるなら、鯉のぼりの竿に黄色いハンカチをぶら下げてくれ」と手紙を出していた。
はたして、家に近づく3人の目の前に現れたのは、真っ青な空に竿から何十枚もの黄色いハンカチが一斉にたなびく様子だった。
そんな名シーンが今でも、夕張市内の炭鉱住宅で再現されている。
夏季開館中は、何十枚の黄色いハンカチが風にたなびく様子を見ることができる。
「想い出ひろば」の室内は、来場者がメッセージを書いた黄色い紙で壁、天井が埋め尽くされている。映画に使われた赤い車・ファミリアも展示されている。
記念館は通常、冬季間は閉館しているが、2014年11月は高倉さんを追悼するために臨時で開館された。
道東は網走や別海、中標津でロケ
刑務所は有名観光地に
高倉さんが一大スターとして脚光を浴びるきっかけとなったのが1965年から撮られた映画「網走番外地」シリーズだ。
「脱走は不可能」と言われた網走刑務所で、実際にあった囚人脱走計画事件が映画のきっかけになった。
高倉さんの役、橘真一は牢の中での争いに巻き込まれながら、死の床にある母に一目会うために仮釈放を願って葛藤する。
最後は、橘と手錠で繋がれた囚人の脱走に巻き込まれてしまう・・・
映画とともに、網走も有名観光地になっている。
刑務所記念館として全国でも珍しい「博物館 網走監獄」も多くの観光客が訪れている。
map ⇒ 博物館 網走監獄
道東の自然がふんだんに
西部劇「シェーン」をモチーフにした「遥かなる山の呼び声」(1980年)では、ロケ地の中標津町酪農地帯の四季がふんだんに紹介されている。
地平線に広がる牧場地帯の初夏の鮮やかな緑。遥か彼方の山の頂きの雪の白さと紅葉のコントラストが美しい秋や、厳しい寒さ一色の冬の銀世界など。
ストーリーは、春に酪農牧場を訪れた男・田馬耕作(高倉さん)が夏、秋と酪農作業を手伝ううちに牧場主の未亡人・風見民子(倍賞千恵子)とその息子・武志(吉岡秀隆)と心を通い合わせていくというもの。
廃線となったJR標津線上武佐駅や、美幌駅がロケ地となった。
周囲の風景はまるで映画のシーンが繰り広げられているかのようだ。
ロケ当時、高倉さんや監督の山田洋次さんなど、スタッフが約1ヶ月宿泊した養老牛温泉の「旅館藤や」が、経営者の健康不安が理由で惜しまれつつも2014年12月で閉館した。
高倉さんは当時先代のおかみさんを「おかあさん」と慕い、毎晩旅館の家族と遅くまで話し込んでいたという。
函館、増毛、小樽など海岸の町でも
北海道の風景になじむ高倉さん
無口な料理人を演じた「居酒屋兆治」(1983年)は、函館が舞台だった。
突然目の前に現れた昔の恋人への思いを胸に秘める料理人と、取り巻く人々の心模様を描いた。
増毛町を舞台にした「駅 STATION」(1981年)は、警察官でオリンピック射撃選手の役を演じ、3人の女性との関わりを描いている。
函館にしても増毛町にしても、北海道の港町の寂しさを感じさせる町。
そんな情景の中で繰り広げられる人情を、高倉さんが好演している。
例えば、「駅 STATION」での、小樽市の銭函駅での別れのシーン。
小さな、さびれた駅のホームに、立ち尽くすだけで絵になる高倉さん。
北海道という風景、情緒は、高倉さんと共鳴して独特のイメージを醸し出しているかのようだった。
映画ロケに使われた風待食堂は、増毛町の増毛駅前に今も残っている。
今では観光案内所として利用され、店内には映画のパネルが展示されている。
map ⇒ 風待食堂
稚内公園には樺太犬の記念碑
南極観測越冬隊が昭和基地に樺太犬15頭を置き去りにせざるを得なかった「南極物語」(1983年)も道内でロケが行われていた。
稚内市の抜海(ばっかい)駅周辺で行われたが、この駅舎は日本最北の木造駅舎で1924年に開業した。駅は映画の公開後の1986年に無人化された。
駅が似合うハマり役
ベストセラーを映画化
鉄道員としての人生を描いた「鉄道員(ぽっぽや)」(1999年)は、廃線となる小さな駅の駅長が主人公だ。
生まれたばかりの娘が亡くなった日も、妻が病気で倒れた日も一日も休んだことなく駅に立ち続けた鉄道員が廃線と同時に定年を迎える。
不器用にしか生きられなかった鉄道員が、突然目の前に現れた少女によってファンタジーを体験する。
セリフの間、沈黙の表情でも伝わるメッセージ。高倉さんの演技は思いもかけないエンディングへと観客を導いていった。
ロケはJR幾寅駅
映画の中では「幌舞駅」となっていた駅は実在する南富良野町・幾寅駅だ。
また映画の中で「だるま食堂」として使われた建物は、今でもロケの町並みそのままに保存され、一般公開されている。
map ⇒ 南富良野町・幾寅駅
同じ町内にある「情報プラザ」には、鉄道員(ぽっぽや)展示コーナーがありスチール写真、出演者の色紙、ロケの衣装などが無料で見学できる。
映画のダイジェスト版も常時放映されている。
映画の撮影15周年を記念して、2014年には「幌舞駅」の記念切符が南富良野道の駅や観光協会から販売された。
デザインは2種類で、それぞれ限定5000枚。
NPO法人南富良野まちづくり観光協会では、通信販売も行っていた。
高倉さんと北海道
高倉さんには、その朴訥な人柄が伝わるエピソードが多い。
例えば、「幸福の黄色いハンカチ」で、出所した役の高倉さんが1杯のビールとラーメン、カツ丼を「いかにも美味しそうに飲食する」シーンがあまりにも素晴らしかった。
山田洋次監督が感激して高倉さんに尋ねると、高倉さんは「この撮影のために2日間何も食べませんでした」と話して、周囲を感動させたという。
北海道の大地のエネルギーと、高倉さんのオーラが共鳴して、映画のエッセンスとして観客に注ぎ込まれる。
ロケ地を尋ねると、一人の名優の残した作品を改めて感じることができる。