くたびれるのは嫌だけど、何かはじめたい
家事やデスクワーク中心の毎日。アスリートのように筋肉痛や、疲労骨折の心配はないものの年々、体の内側にもやもやとした疲れが溜まっていくのがわかります。
だからと言って、特別に不快な症状があるわけではありません。
しかし、慢性の精神疲労を解消するために、何かはじめたいと感じるときがありませんか?とはいえ、本心では本格的なお稽古事に挑戦してみたいけれども、しんどいのは勘弁してほしい。そんな、アンビバレントな心理をお持ちの方にぴったりの方法がありました!
それは「坐禅を組むこと」たった、一度だけでも、息が切れるほど苦しいものでも、特別な技術が必要なわけではないけれども、視界が明るくなり、呼吸が楽になるのがわかります。
坐禅会に参加したきっかけ
ある、デパートの催し物に「和の学校」という企画がありました。「茶道」「日本舞踊」「組み紐」「水墨画」といった、日本の伝統工芸・芸能を日替わりで体験できるものでした。全部参加しても、ひとクラスだけ申し込んでも良い自由なイベントでした。その中で筆者が興味を持ったのが「坐禅会」でした。
体を動かすのが苦手な方にこそ、おすすめです
実は「能楽」や「茶道」に興味があったのですが、筆者は、盆踊りの振り付けさえも覚えられないほどの運動音痴。おまけに、体を動かすのは大の苦手。手先は、折り紙の鶴さえ作れないほど不器用。そのくせ、京劇の華やかな立ちまわりや、バレリーナのしなやかな身のこなしにあこがれ続けてきました。
しかも、こどもの頃からの並外れた運動嫌いがわざわいして、「猫背」や「動作の鈍さ」に悩まされました。でも、関節が硬くても、体の切れが悪くても、「坐禅」ならば、大丈夫なのでは?と、何とも不純な動機です。
坐禅会に参加するまで
まず、電話で申し込みをすると、担当者から指示がありました。当日の服装と、心持ちについてです。
・「空腹」でも「満腹」でもいけない。
・睡眠不足でも、眠りすぎも良くない。
・ゆったりとした動きやすい服装で。
・腕時計やめがね、アクセサリー類はすべてはずすこと。
下の二つは、決して複雑な事柄ではありませんが、上のふたつを実行するのは簡単ではなさそうですね。
坐禅会に参加してみると
当日の参加者は8人。高齢者ばかりなのかと覚悟していましたが、むしろ逆でした。大学生風の女性。若いサラリーマンなど、年齢層は若めでした。それほど座禅は人気なの?と思ったけれど、平日の夕方に開かれたことがも大きかったのかもしれません
「坐禅」ときくと「信仰」や「修行」のイメージが強いのですが、最近では「不眠症」を改善する目的や、「うつ病」の治療にも取り入れられています。
呼吸法が整うと体が楽になる
「坐禅」の基本は「姿勢」と「呼吸」です。フラストレーションが溜まったり、日々の慌しい生活に追われると、呼吸が浅くなります。すると、肩に力が入り、前かがみになり、ささいなことでも、苛立つようになってしまうのです。周囲の人も、自分も苦しくて悪循環ですよね。
裏をかえすと、深い呼吸ができるようになれば、心が落ち着き、体軸が自然に整うため、立ち居振る舞いも、ゆったりと美しくなるのです。
具体的には、鼻で短く息を吸い、吐く息は1分ほどかけて、肺の奥の空気をすべて出し切るイメージで深呼吸を繰り返します。もちろん、60秒きっかりで息を吐ききるのは不可能ですが、吸うよりも吐く息は2倍以上長めになることを意識しましょう。
「鼻の前に羽毛を置いて動かさないように息をする」「寒い季節に、吐く白息が、揺れず一定になるように」と教わりました。はじめは、思い通りにコントロールできないものです。
そんなときは「数息観(すそくかん)」が有効です。息を吐くときに心の中で「ひとー」と数え、吸うときに「つー」と声を出さずに数えます。「ふたーつー」「みーつー」とカウントして「と(10)ー」になると、ふたたび、「ひとー」「つー」一に戻ります。
はじめは、数に気を取られるものですが、いつのまにか、雑念がふりはらわれて、大気と己が一体になっているのがわかりますよ。
坐り方
「まっすぐな姿勢」といわれると、余計に背筋や肩に力が入ります。一見、正しく見えますが、力むと、呼吸が浅くなり、所作もきごちなくなるもの。リラックスして、全身に新鮮な酸素が行き渡るように、しなやかに坐るのがポイントです。
下半身で体の重さを受け止め、上半身はゆったりと。「坐禅」では、足の組み方に特徴があります。
おもに「結跏趺坐(けっかふさ)」「半跏趺坐(はんかふさ)」の二種類が基本ですが、基本は「結跏趺坐」です。
やり方は、両手で、右足を持ち、左足の腿のつけ根にのせます。今度は同じように、両手で左足を持ち、、右足の付け根にのせます。そして、両方の足の裏が、天に向くように整えます。股関節がやわらかい方は、問題ないのですが、はじめは痛くてできない方も多いのではないでしょうか。
そんな場合は「半跏趺坐」からはじめるとスムースにいきますよ。半跏趺坐は、一方の足を反対側のつけ根にのせる方法です。それでも厳しいならば、正坐でもかまいません。
椅子にかける禅もありますが、初心者は下半身を安定させるためには、しんどくても座布団にたたずまいを正して坐るだけでも感覚をつかめるものです。
手の組み方
右手の平をそろえて左腿におき、その上に、左手の平を重ねます。そして、両方の親指の腹を合わせて円を作ります。これは「法界定印(ほうかいじょういん)」と呼ばれ禅ではもっとも一般的な手の組み方です。親指で作る円を崩さずキープするだけでも、体軸が整うのがわかりました。
美しい立ち居振る舞いの基本は楽な姿勢
正しい姿勢とは、苦しいものだと思いがちです。「前かがみになる癖がついているから、はじめはしんどくても、良い姿勢に慣れるとかえって猫背は苦しい」そんな言葉を耳にしたことがあるかもしれません。
ところが、背中に定規を入れたり、頭の上に本を乗せて生活をしても、矯正されません。なぜなら、姿勢は、背筋だけの問題ではないからなのです。
ずっと、緊張した状態が続くと、息が苦しくなり、全身にひずみが出てしまいます。上手にガス抜きをしながら、肩の力を抜きましょう。正確な姿勢は、美しくて楽なのです。
正しい姿勢はむしろ楽?
私も毎日の生活に「坐禅」を取り入れてから、「顔色が良くなった」「首が長く見える」と言われるまでになりました。深い呼吸をしながら、体軸を調整すると、肩や腰が軽くなります。そして、心が無になるのがわかります。
以前は、夏でもひざかけや、カーデガンを手放せなったほど慢性の冷え性に悩んでいましたが、朝と寝る前に五分から十分ほど坐る習慣をつけるようになり、薄着でも平気に。
ほかにも、寝つきが良くなり、目の疲れもやわらぎました。姿勢を正して「痛い」「苦しい」と感じるのは、体に負担がかかっていたからなのですね。
坐禅会に参加するには
近年は「坐禅」がブームになっています。たくさんの関連書籍が出版され、ホテルや百貨店でもときどき「坐禅会」が行われています。
本や、DVDで「禅の組み方」を調べて挑戦する方も増えていますが、坐り方、手の組み方、呼吸法は、自己流よりも詳しい方に直していただくことをおすすめします。
全国各地にある「禅寺」では、定期的に「坐禅会」や「写経教室」「精進料理教室」などを開いています。電話帳やインターネットで「大阪 坐禅」「広島 坐禅会」といったキーワードで、検索してみるとかなり多くヒットしますよ。
ゆったりと自分を見つめ直す
心をからっぽにして己を見つめる時間は、深層心理のデトックスとも言えるでしょう。「呼吸」と「姿勢」を見直すだけで、おだやかな気持ちになれるものです。