「幻の橋」タウシュベツ川橋梁
季節によって湖底に沈む
糠平湖の中にある全長130mのタウシュベツ川橋梁は、コンクリートアーチ橋梁群の象徴的な存在だ。
その姿は古代ローマの水道橋遺跡によく似ている。
糠平ダム建設のために、士幌線の清水谷駅―幌加駅が水没することになり路線が変更になった。こうして、1955年にタウシュベツ川橋梁は湖底に沈むことになった。
見えたり、見えなかったりと、「幻の橋」と呼ばれて人気となっている。
橋の下部に水位がある状態になると、晴れた波のない日には、湖面に橋の姿が映り、めがね橋のようになる。
周囲の森林の緑、湖面の青と、そこに映える橋の白のコントラストが美しい。
見どころは初夏
めがね橋の状態が見られるのも、この季節だ。
以降、12月までは大雨が降るとさらに水位が増し、完全に水没する日もある。
12月から3月は湖面に氷が張り、ダムの水を抜くため湖面が下がるため、橋全体が見えてくる。氷や雪原の中に見えるアーチ橋も美しい。
積雪の状況によっては、歩いて橋梁のそばまで近寄ることができる(橋の上を歩くことは禁止)。
上士幌町かみしほろ観光情報のホームページには、「タウシュベツ川橋梁の今」のコーナーがあり、リアルタイムの様子を見ることができる。
通行規制が実施されている
以前は湖岸の林道を車で走行して橋の近くまで行けた。
しかし、近年の人気で交通量が多くなり、もともと対面通行ができない狭い林道のため、今は車の通行が制限されている。
タウシュベツ川橋梁を見るには、現在4つの方法がある。
1.湖の対岸に整備された展望広場から眺める。
2.ひがし大雪自然ガイドセンター主催の「アーチ橋見学ツアー」を利用する。
3.国道からの林道約4kmを歩く。
4.東大雪森林管理署東大雪支所に事前申請し、林道の鍵を借りて車で通行する。
以上となっている。
ダム建設のため湖底に沈む
コンクリート製アーチ橋
旧国鉄士幌線はもともと木材や農作物輸送のために利用された路線だ。
帯広駅から十勝平野を北上し、終着駅の十勝三股駅まで78.3kmあり、上士幌からは急勾配が続く山岳鉄道だった。
1925年に上士幌駅まで一部開通し、1939年に全線開通。中でも十勝三股駅は標高661.8mと当時北海道で最も高い位置にあった。
深い山林の中の鉄道敷設は建設費の負担が大きくなる。費用をできるだけ節約するため、橋梁は原料の砂利などを現地調達できるコンクリートで造るアイデアが採用された。
国立公園内でもあったため、自然景観とマッチするようアーチ型が選ばれたのが、今では絶景ポイントとして残った。
当初は全線で大小60に及ぶアーチ橋があったという。
廃線後に地域が一体となって保存運動
森林資源が枯渇し、地域人口の減少から1987年には廃線となった。
1997年、いったんは国鉄精算事業団によりすべての橋の解体が計画された。
だが、アーチ型の美しい景観を愛する地元住民らが保存運動を起こし、1998年には上士幌町が34の橋を買い取り現在にいたっている。
現在はタウシュベツ川橋梁を含む、糠平湖周辺の13の橋が人気で、アーチ橋見学ツアーが実施されている。
いくつか紹介すると、
桜の名所、泉翠峡の景勝地にあり、春の眺めが素晴らしい。
森の緑、険しい崖、音更川の流れが一体となった景観を楽しめる。
糠平湖沿いの遊歩道と繋がり、上を歩くことができる三の沢橋梁などがある。
いずれも深い森や清流の環境の中で、美しいアーチが印象的だ。
崩壊するタウシュベツ川橋梁
長年の風雪に耐えてきたアーチ橋だが、水没を繰り返すタウシュベツ川橋梁で一部崩壊する部分も出てきた。
水没中の水圧や冬季の氷の圧力、特に壁面に浸透する水が凍結融解を繰り返す凍害が深刻で、表面が損傷してきている。
NPO法人ひがし大雪アーチ橋友の会などが、補修保存を訴えているが、費用面で実現が難しく、現状は何もできないまま朽ちていくのを見守るだけとなっている。
タウシュベツ川橋梁が今の姿を留められるのは時間の問題と言われ、崩壊する前に一度は見ておきたい姿だ。