資格を取るだけで給料が●万円アップ!?
私はある時期、簿記など会計系資格の試験対策テキストを作る仕事に関わっていたことがあります。その時に担当したのが「建設業経理(事務)士」のテキスト。「その資格の名前、聞いたことがある」という人はおそらくまれだと思います。
(注意:資格の表記を「建設業経理(事務)士」としていますが、これは級によって呼称が変わるためです。1級、2級の場合は「建設業経理士」、3級、4級の場合は「建設業経理事務士」となっています。)
私だって、仕事を担当するまでは「なんじゃそれ」と思っていたくらいですから。仕事をしていくうちに、「建設業特有の会計処理をするための資格なのだ」ということはわかってきました。しかし、それが一体どんな場所で役に立つのか、ということについてはいまいちわかりませんでした。
そんな私に転機?が訪れます。学生時代の友人が、いい条件の会社に転職できた、ということで、お祝いをしたのです。一緒にお酒を飲みながら、お互いの身の上話をしていました。そこで、友人がぽろっとこんなセリフを言ったのです。
「実はさ、会社から建設業経理士を取れ、と言われて・・・また勉強しなきゃいけないことが増えるわ。でも、資格手当がかなりつくから頑張ろうかと」・・・「資格手当がつく資格だったんかい!」というのが正直な感想でした。その後、友人は1級まで資格を取り(日商簿記1級を持っていたからできたのだと思います)、かなりいい金額の資格手当をいただいているようです。
このコラムを書くにあたり、そのエピソードを思い出した私は、「建設業経理士 資格手当」というキーワードで検索してみました。すると、ある建設会社(地方の会社です)の求人広告のページがヒットしましたが、「諸手当」のところにこう書いてありました。一部抜粋します。
<資格手当>
・1級建設業経理士 月2万円
・2級建設業経理士 月1万円
・3級建設業経理事務士 月8千円
・4級建設業経理事務士 月7千円
月ベースで考えれば、結構いい金額ですよね?「これは取れたら取ったほうがいいはずだわ・・・」と納得してしまいました。
建設会社、工務店には不可欠の資格なのです
さて、資格手当の話が出てきたところで、一体この資格が何のためにあるのか、そして、どう役立つのか、というところにお話を映したいと思います。
イメージしていただければ分かると思いますが、建設業というのは、一般の製造業とは違います。一般の製造業は製品を作るのに何年もかかることは少ないと思いますが、建設業では何年もかかることはザラです。
プロジェクトによっては10年や20年単位で動くものもあるでしょう。
そういった会社の経理は、一般の会社の経理とはルールが違います。「建設業会計」というルールにのっとって、経理を行うことが必要になるのです。その建設業会計のルールを熟知し、日々の処理や決算までを行うことができる資格が建設業経理(事務)士なのです。
そして、建設会社、工務店などでこの資格が諜報されるのには、もう一つ、大きな理由があります。一般に、公共工事を行うにあたっては、入札した業者に対して「経営事項審査」という審査が行われます。さまざまなチェックポイントを設けて、「この業者に公共工事をさせるのはふさわしいか」ということを審査するのです。
審査項目には、「社内に何名建設業経理士が在籍しているか」ということも加えられています。多ければ多いほど、評価も上がるので、公共工事の入札に有利になるという仕組みです。
つまり、建設業経理士が1人いるかいないかで、ずいぶんと経営に影響が及ぶということ。
「それなら資格手当つくのもわかるわ・・・」と思いました。
裏を返せば、「簿記の勉強をしたことがあるので、電卓を使って計算することには抵抗がない」かつ「工務店や建設会社に就職、転職したい」という人は持っていて絶対損にならない資格です。
建設業経理(事務)士ってこんな試験です
では、建設業経理(事務)士の試験はどんな試験なのでしょうか?実施団体である「一般財団法人 建設業振興基金」によれば、各級で求められる水準を以下のように規定しています。
<1級>
・上級レベルの建設業簿記、建設業原価計算、会計学を習得している。
・会社法その他関連法規についてよく理解している。
・建設業の財務諸表の作成、それに基づく経営分析を行うことができる。
<2級>
・実践的な建設業簿記を習得している。
・基礎的な建設業原価計算が分かる。
・決算等に関する実務を行うことができる。
<3級>
・基礎的な建設業簿記を習得している。
・建設業原価計算の初歩が分かる。
・初歩的な決算等に関する実務の知識がある。
<4級>
・初歩的な建設業簿記を理解している。
どう見ても、1級になるとかなりのレベルの知識が求められることはお分かり頂けるでしょう。
実際、どれぐらい難しいのか?
では、実際の試験はどれぐらい難しいのでしょうか?直近の合格率から分析してみましょう。
<合格率>※すべて第17回(平成27年3月8日実施)
・1級財務諸表 25.0%
・1級財務分析 32.1%
・1級原価計算 21.5%
・2級 35.1%
・3級 62.4%
・4級 76.0%
こうして見ると、3、4級はかなり取りやすいですが、2級から格段に合格率が下がってきます。2級以上を狙う人は、十分に戦略を立てて臨んだほうがいいかもしれません。なた、1級は3科目合格することが必須ですが、1科目ずつの受験も可能なので、無理のないスケジュールで取り組みましょう。
3級、4級なら講習でも取れます
「うーん、魅力的な資格なのはわかったけど、自力で取れる自信が・・・」という人もいるかもしれません。でも、安心してください。3級と4級でしたら、「特別講習」と呼ばれる講習を受講することによって、資格を取ることができます。
毎年実施されているので、建設業振興基金のホームページ(http://www.kensetsu-kikin.or.jp/index.html)をこまめにチェックしてみるといいかもしれません。
2級、1級まで取れればキャリアアップにかなり有利
3級、4級の勉強をしてみて「これだったら自分に向いていそうだな」と思えたなら、ぜひ上の級へチャレンジすることをオススメします。先にも書いた通り、会社によっては、かなり高い資格手当を付けてくれるところもあります。また、人事においてもそれなりに評価をしてくれるでしょう。
建設業界でキャリアアップを狙うなら、ぜひ1級、最低限でも2級は目指してください。独学だと大変、という人にはスクールに通うこともお勧めします。
苦労して勉強したことは、必ず自分のためになる
よく「資格ばかり持っていても、実務経験がなければ何にもならない」という話を聞きます。確かに、実務経験はお金を出して買うことができるものではありません。「経験に勝る財産はない」ということでしょう。
しかし、資格を取るために一生懸命勉強することも、ある意味「経験」ではないでしょうか。信念を持って努力したことが無駄になることはありません。「今の自分に何が足りないか」を十分に認識し、納得がいく形でキャリアアップを図りましょう。この資格がその一助になれば幸いです。