生薬高騰!日本から安全に使える漢方が消える未来|トピックスファロー

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2013年1月16日
生薬高騰!日本から安全に使える漢方が消える未来

中国に輸入の8割以上を依存している生薬。漢方薬を作るのに欠かす事のできないこの生薬が、年々高騰し続けています。なぜ生薬が高騰し始めているのか?はたして元の価格に戻る日は来るのか?生薬高騰の原因と日本の取り組みを調べてみました。

WEBライター
  

中国産生薬の高騰が止まらない

日本漢方生薬製剤協会の発表によれば、漢方の原材料となる生薬の価格は2006年からの4年間の内に全体で約1.64倍に高騰していると言います。
特に、高級薬剤として知られる、冬虫夏草に至っては2倍。太子参という高麗人参の一種に至っては6倍以上の値上がりが確認されている。

値上がりは日本の利用者を直撃する

日本では西洋医学と共に、体質改善や滋養強壮などで広く使用されてきた漢方薬。
その原材料である生薬の80%から90%は、中国からの輸入に頼ってきました。
その為、生薬の高騰は、国内で漢方薬を利用する多くの患者にとって無視できない問題です、

価格高騰の背景

理由もなく、価格が上昇する事はあり得ません。
価格上昇の背景には、それだけの理由があります。

1・世界的な需要の増加

アメリカが誇る世界最大の医療機関『アメリカ国立衛生研究所』内において、日本円で130億円を超える予算を投資し『国立補完代替医療センター』を設立しました。
この『補完代替医療』とは、今までの西洋医学に加え、伝統医学や民間療法を取り入れ、西洋医学では限界があった治療に対し、別なアプローチを試みる医療の事です。

この補完代替医療における研究の中で、東洋で広く使われていた漢方薬の効果が次々と、科学的に証明されていきました。
それに伴い、アメリカ国内のみならず、世界中で副作用の少ない治療薬として漢方薬の需要が高まっていきました。
実際に、2012年の段階で、アメリカへの生薬の輸出量は1年で67%。ヨーロッパに対しては86%も増加しています。

2・中国の伝統医療の保険適用化

中国は2009年ごろから伝統医療の強化策として、伝統医療に対して保険を適用し始めました。
これにより、高価な西洋医療から、安価な伝統医療を受信する人が増え、同時に中国国内での漢方薬の使用量が増えています。

3・気象変化による不作

さらに、中国を襲う異常気象による不作も関係しています。
2012年、2月には中国・雲南省をおそった大干ばつ。この影響で、273の河川から水が消え、319万人の飲料水が足りないという事態になりました。
雲南省は、今年で3年間連続して干ばつに襲われる事となります。

そして雲南省と言えば、冒頭で紹介したと「冬虫夏草」の生産地。
他にも田七人参、天麻、当帰といった主要な生薬を含め、6559種類の生薬資源をもつ、世界でも最大規模の生薬生産地区。
雲南省の不作は、生薬の流通に大きなダメージを与えています。
さらに種類によっては、育成に7年もの年月を必要とする生薬。例え、来年以降の天候が回復したとしても流通に乗る生薬が生産されるまでには、長い年月が必要となるでしょう。

4・中国政府による輸出制限

さらに追い打ちをかけるように、中国政府は乱獲による砂漠化を防止するという名目で、輸出に制限をかけ始めました。
この事により、生薬の流通量はさらに少なくなっています。

5・投機ビジネスの材料

供給が追い付かない生薬が値上がりを続けると、今度は投機ビジネスが動き始めます。
流通量の少ない生薬を買占め、さらに値段を釣り上げた所で市場に流す。

また買占めを行うのは、投機家ばかりではありません。
漢方薬を加工、販売を行う企業も、値上がりを見越して生薬の確保に乗り出します。
これにより、また一段と生薬の価格は上昇していきます。

日本の漢方薬の値上がりはもう間近?

国内で保険が適応される漢方薬は、「薬価」により定められているので、利用者の負担に変動はありません。
しかし、仕入れ値が高騰している以上、どこかのタイミングで値上がりになる事は確実ですし、むしろ赤字に転落するのであれば、取り扱いを止める企業も出てくるでしょう。

危惧するべきは偽物の国内流通

仕入れ値が高騰すれば、仕入れ先をもっと安い場所へ変える企業も現れるでしょう。
しかしその新しい仕入れ先が、本物の生薬を扱っているかは分かりません。
すでに中国国内では、偽物の生薬が出回っている可能性もあります。

中でも最も気を付けなければいけないのは、個人で輸入を行っている人でしょう
国内の企業であれば、信用問題にかかわる為、徹底した品質チェックを行っている事と思いますが、中国から直接輸入している場合、このチェックがどこまで行われているか。
はたして輸入した漢方が「本当に問題のない商品なのか」を確かめるのは難しいでしょう。

価格上昇に対する日本企業の動き

2010年、中国は日本に対してレアアースの輸出規制を行いました。
しかし、それからたった2年で、日本におけるレアアースの対中依存度は一気に4分の1にまで減少しています。

生薬を扱う企業も、ただ成り行きを見守っている訳ではありません。
例えば、国内最大手の『ツムラ』は、他の生薬の効果を高めるとされ、漢方薬のおよそ70%に使用されている『甘草』の栽培技術を確立しています。
また、北海道、高知、和歌山、群馬、岩手、さらに九州でも、生薬の栽培を広げています。

さらに「ナイシトール」や「コムレケアa」などを販売する『小林製薬』も『漢方技術開発部』という生薬の調達を専門とする部署を設立、自社生産の引き上げ体勢に入っています。

ますます需要が高まる漢方薬

高齢化社会に向け、国内だけで2000億円の市場になると言われている漢方薬。
生産から収穫まで時間のかかる商品だけに、今すぐに市場が安定する事はないでしょう。
しかし、日本の医療と利用者を病気から守るためにも、製薬会社の活躍からは目が離せません

著者:海老田雄三

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芸能、アニメ、ゲーム、音楽あたりが得意分野のはずが、気が付けばなんでも書くライターになっていました。アニメ、ゲームなどのサブカル誌によく寄稿しています。