通史の知識がある程度入ってきたら、初学者用の本を読んでみる
まずは学者よりも予備校講師やビジネスマンの歴史書
大学受験や歴史能力検定試験で得られる知識は、無味乾燥で教科書的なものになりがちです。
歴史の面白さを感じたり、現代の世界情勢を見る力をつけたりするには、世界史の知識を体系的に結びつけることが必要。そのために、世界史の知識の土台が備わってきたら、世界史に関する様々な書籍を読んでいきましょう。
ただし、いきなり大学教授や学者が書いたような難しい専門書から入る必要はありません。知識が乏しい段階でこの類の本を読んでも、理解が追い付かず目で流しただけになってしまいます。
まずは世界史の予備校講師や社会人の歴史家が書いた本から入ってみましょう。
オススメしたい2人の著書を紹介します。
茂木誠氏の著書2冊
まずは駿台予備校講師・茂木誠氏の著書を2冊ご紹介します。
茂木誠氏の著書は、現役予備校講師という肩書があるので、高校世界史で学ぶ知識があることを前提とした内容のものが多いです。世界史で受験を経験したことがある人には相性がよいでしょう。
紹介する最初の本は、「世界史で学べ!地政学」(祥伝社)です。
この本では、地政学という観点から世界史を分析して、今日の国際紛争やヨーロッパ、アメリカ、アジアなどの地域経済圏について述べられています。ランドパワー(大陸国家)とシーパワー(海洋国家)と国の地政学的な条件を意識することによって、その国の外交政策が見えてきます。
大学受験や歴史能力検定試験では、地政学という概念を意識することはありませんから、世界史、国際情勢の斬新な見方を発見することができると思います。
次におすすめしたい本は、「経済は世界史から学べ!」(ダイヤモンド社)。
世界史を知れば、経済ニュースがもっとわかる!とうたっているように、経済の基礎知識をつけることが目的の本です。その過程として世界史を学ぶことで、現在の日本や世界経済が見えてくることを紹介しています。
経済学部に在籍している大学生も学部の授業の補講として読む価値があると思います。
出口治明氏の著書
次にご紹介したいのが、アジア立命館大学学長・出口治明氏の著書です。
現在は大学の学長ですが、長年、生命保険会社に勤めていたビジネスマンです。人生の教養は読書によって磨かれるという信念に、特に歴史関係の本を膨大に読まれています。そんな豊富な知識を生かして、出口氏も世界史に関する本を多数執筆しています。
そのひとつが、「世界史としての日本史」(小学館新刊)。
日本の近現代史の作家である、半藤一利氏との対談形式によって、日本の歴史は世界の動きの中で起こっている現象ということを認識させられます。
出口氏の歴史に関する著書や出口氏や半藤氏が薦める歴史本を紹介した1冊になりますので、今後の読書の参考にもなります。
世界史を通史である程度、勉強していると、茂木氏や出口氏などの著書も読みやすく感じると思います。歴史能力検定試験の世界史3級、2級は基礎知識の土台をつけるのに最適です。それは基礎知識がないと、初歩レベルの歴史本も難しく感じられる可能性があるということです。
歴史能力検定試験については、「【歴史能力検定試験】概要とメリット、試験会場の様子」編、「【歴史能力検定試験】世界史2級、3級に合格する勉強法」編をご参照ください。
歴史はひとつ、事実しかない
前述した出口氏は、独自の歴史観というものを持っているわけでなく、歴史はひとつ、事実しかないということを信念にされています。自国史観や自虐史観を交えずにニュートラルに歴史を語ります。
本屋に行くと、「〇〇の歴史の真実はこうだった~」、「教科書(学校)では教えてくれない~」、というような歴史本を目にすることが多くあります。しかしこういった歴史本に書かれる「歴史」は、後世の人間の解釈によって手が加えられた「真実」であることが多いです。
本来の「歴史」とは出口氏がいうように、「事実」しかないはずです。
歴史を100%客観的に俯瞰することは不可能ですが、この姿勢は歴史を学ぶ上で非情に大切なことだと思いますし、筆者も心得ていることです。
筆者が「ヨーロッパ訪れたい世界大戦の戦争遺跡シリーズ」で歴史の現場を訪れているのは、歴史の現場こそが事実を語ってくれる場所だからです。
知識の核になる本を見つける方法
ヒトラーの生涯に焦点を当てた本を何度も精読
通史を勉強した後、自分が好きな時代、地域を掘り下げて勉強する上でも、何度も読み返す核となる本を持った方が良いと思います。核となる知識を強固にすれば、関連する本を読んだ時にも理解が深まり、また批判的にも見ることができるからです。
核となる本は、200~300ページ程度の新書ではなく、数千ページある専門書が理想的ですが、最初は無理をせず新書から入ってもかまわないと思います。
筆者は「ヨーロッパ訪れたい世界大戦の戦争遺跡シリーズ)」や著書「「ヒトラー 野望の地図帳」」の取材のために、ヨーロッパ中の第二次世界大戦と関係する場所を周っています。
世界史としての第二次世界大戦で中心となる人物は、ドイツのアドルフ・ヒトラーです。
本屋の歴史の棚に行けば、ヒトラーに関する本は数多くありますが、著者が核としている本は、「アドルフ・ヒトラー」ジョン・トーランド作(集英社文庫)です。
「アドルフ・ヒトラー」は、アメリカの戦史・ノンフィクション作家であるジョン・トーランドの著書で、計4巻、1冊450ページ前後で、合計2,000ページ近くなります。
ヒトラーの生涯に焦点を当てて、ドイツを中心とした戦間期のヨーロッパ、第二次世界大戦の戦いに言及しています。外国人の作家の訳本なので、若干回りくどい表現はありますが、小説風味で読みやすいシリーズです。
この「アドルフ・ヒトラー」シリーズを何度も精読すると、ヒトラーに関する知識が強固なものになり、読んでいる最中に次の取材先のヒントも浮かんできます。
そして、次の取材先が決まったら、「アドルフ・ヒトラー」で関連する部分の精読と共に、取材先に関連する本を平均4~5冊は読みます
「受験に勝つ!世界史の勉強法シリーズ」でも、受験生向けにも1冊の問題集を徹底的にやり遂げることを強く勧めていますが、これは教養としての勉強でも論理は同じなのです。
専門書は文庫本化されていないと、1冊数千円~1万円を超えるものがあり、気軽に購入できるものではありません。それでも自分の核となりそうな本に出会えたのであれば、生涯の書として購入しても後悔しないはずです。
Wikipediaは脚注が一番役に立つ
取材先に関する本の見つけ方ですが、Wikipediaの参考文献が参考になります。Wikipediaはあくまでも参考程度にしか閲覧しないのですが、ページの一番下にある脚注の文献は書籍購入の参考になります。
インターネット通販のAmazonでは、数十年前に出版した本などは中古本だったら、ほぼ送料だけの値段で購入できたりします。ジョン・トーランドの「アドルフ・ヒトラー」も現在は絶版(日本での発売は1990年)ですが、Amazonでは1冊10円前後で手に入れることができました。
著書「ヒトラー 野望の地図帳」のご紹介
現在「【受験に勝つ】世界史の勉強法シリーズ」とは別に、「ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡シリーズ」も連載しています。
ヨーロッパを中心とした戦跡を巡る旅行記で、実際にその場に行ったからこそ感じる当時の名残と現在の日常風景を、独自の視点で描いています。本シリーズは、おかげさまで書籍化され、各書店の歴史の棚の世界史やドイツ史のコーナーに置かれています。
読者の方々からは、時代背景が簡潔でわかりやすい、学者とは違うテイストが新鮮、という感想をいただいております。歴史好きはもちろん、ちょっとマニアックなヨーロッパ旅行をしたい方々の旅のお供になる本なので、web連載とあわせて、ご興味をもっていただけたら嬉しく思います。
著者名:サカイ ヒロマル
出版社:電波社
価格 :1,400円(税抜)