【第74回】ミュンヘンでヒトラーに抵抗した市民の痕跡を巡る その2|トピックスファロー

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2019年3月7日
【第74回】ミュンヘンでヒトラーに抵抗した市民の痕跡を巡る その2

ヒトラーに抵抗した市民として有名なショル兄妹。ミュンヘン大学の反戦組織「白バラ」の一員で学生だった彼らの痕跡が、現在のミュンヘンにも残っています。「その2」では、ミュンヘンで兄妹が残した跡を追います。

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ショル兄弟の家からミュンヘン大学までの道のり

ショル兄妹が下宿していた家

ショル兄妹は、兄のハンス・ショルに続き、妹のゾフィー・ショルもミュンヘン大学へ進学します。そして2人は実家のウルムを離れて、ミュンヘンで下宿生活を送ります。

ショル兄妹が下宿していたアパートの建物がミュンヘン大学の近くに残っています。ミュンヘン大学からだと歩いて15分くらい。地下鉄だとミュンヘン大学から一駅の距離になります。2人は歩いて大学に通っていたのでしょう。

地下鉄のGiselaStraße駅を降りて、フランツ・ヨーゼフ通り(Franz-Joseph-Straße)を歩き、左側にショル兄妹が下宿していたアパートがあります(最初の右に曲がるウィルヘルム通り(Willhelm Straße)を曲がらないで、そのままフランツ・ヨーゼフ通りを進めばすぐ左側にあります)。

フランツ・ヨーゼフ通りフランツ・ヨーゼフ通り

現在もアパートとなっている建物の裏側に、彼らは住んでいました。建物には小さな碑が飾ってあります。1942年6月から1944年3月22日に処刑されるまで、ショル兄妹が住んでいた旨が記されています。

この建物の裏側にショル兄妹は住んでいたこの建物の裏側にショル兄妹は住んでいた

白バラのショル兄妹が住んでいた旨を記す碑が飾られている白バラのショル兄妹が住んでいた旨を記す碑が飾られている

住所 : Franz-Joseph-Straße 13
最寄駅:地下鉄U6、U3線 GiselaStraße駅

ミュンヘン大学

1943年2月18日、ショル兄妹は、トランクいっぱいに詰めたビラを持って、下宿先を出て、歩いてミュンヘン大学へ向かいます。

下宿先の家から交差点にあるGiselaStraße駅まで戻り、下宿先から見て右側の大通りであるレオポルト通り(LeopoldStraße)を歩けば、ミュンヘン大学に着きます。レオポルト通りにある勝利の門をくぐると、ルートヴィヒ通り(LudwigStraße)になりミュンヘン大学の建物が左側に見えてきます。

ミュンヘン大学の正式名称は、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンで、創設は15世紀と歴史が古い名門大学です。ハンスは医学部、ショルは生物学と哲学を専攻していました。

余談ですが、ヒトラーも第一次世界大戦から復員して、ナチスに入る直前に、数か月間、聴講生として民族主義的な啓発講座を受講していました。

レオポルト通りレオポルト通り

1852年に完成した勝利の門1852年に完成した勝利の門

ミュンヘン大学の前は噴水がある広場になっています。大学の建物がある前の広場は「ショル兄妹広場」、ルートヴィヒ通りを隔てた広場は、白バラのメンバーで処刑されたクルト・フーバー教授の名前が付けられた「フーバー教授広場」があります。
ショル兄妹広場には、白バラのビラのモチーフが彫られています。

ミュンヘン大学の本館とショル兄妹広場ミュンヘン大学の本館とショル兄妹広場

彫られた白バラのビラのモチーフ彫られた白バラのビラのモチーフ

2人は11時頃、扉が閉まっている教室の前に次々とビラを置いていきます。ゾフィーが残ったビラは3階の吹き抜けからばら撒いてしまいます。その時、大学の用務員に見つかり2人は逮捕されゲシュタポ(秘密警察)に引き渡されます。

ショル兄妹が巻いたビラには、こう書かれていました。

学友諸君!我が国はスターリングラードで壊滅的な打撃を受けた。
総統よ!我々はこれにお礼を言おう。

(中略)

スターリングラードの死者たちは、「立ち上がれ!わが国民よ!のろしは上がった!」
自由と信念が沸き起こる中、ナチズムによるヨーロッパ征服に立ち向かうために、
出発する。

ゾフィーがビラをばら撒いた吹き抜けゾフィーがビラをばら撒いた吹き抜け

大学内には白バラ記念館(DenkstatteWeiße Rose)もあります。詳しくは「ナチスが誕生した街ミュンヘンを歴史と共に歩く」編をご参照ください。

白バラ記念館の展示白バラ記念館の展示

最寄駅:地下鉄U6、U3線 Universität駅

ゲシュタポの取り調べが行われた場所

ミュンヘン大学で逮捕されたショル兄妹は、ゲシュタポの本部に連行されます。

ゲシュタポの本部は、ミュンヘン大学からルートヴィヒ通りを南下し、ミュンヘン一揆の終着地点だったオデオン広場から伸びるブリエナー通り(Brienner Straße)沿いにありました。

オデオン広場は、「ミュンヘンでヒトラーの面影を追う旅4 ~ヒトラーの挫折編-その2~」をご参照ください。

現在は銀行になっているゲシュタポの本部は、ヴィッテルスバッハ宮殿の中にありました。この宮殿はヴィッテルスバッハ家の最後の君主、ルートヴィヒ3世が退位する1918年まで住んでいたところです。

ゲシュタポの本部があった場所は、現在は銀行ゲシュタポの本部があった場所は、現在は銀行

ショル兄妹は4日間、ゲシュタポの取り調べを受けることになります。

ゲシュタポの取り調べというと、映画などでよく見かける容赦ない拷問のシーンがありますが、ゾフィーには、夜中の取り調べの最中、温かいコーヒーが出されたり、独房にいる時には、果物やビスケットを差し入れしてくれたそうです。

そうするのは、取調官もショル兄妹の態度に感銘を受けたからかもしれません。彼らは取り調べ中も一切、弁解せずに自分たちの信念を貫いていたのです。取調官は若い彼らに心を動かされます。最悪、死刑を免れさせるために、誘導尋問を行います。

取調官
「こういったことをよく考えたら、こういった行動には出なかったのではないですか?」

ゾフィー
「考え方が間違っているのは、あなた達の方ですから。」

ショル兄妹は、4日間の拘留の後、ついに裁判を受けることになります。

ゾフィーゾフィー

ゾフィーの直筆ゾフィーの直筆

住所 :Brienner Straße 20
最寄り駅:地下鉄 U4、SバーンS1 Odeonsplatz駅

徒歩圏内の場所にナチス時代のゆかりの場所が密集しているミュンヘン

ブリエナー通りに面していたゲシュタポの本部の左横から、テュルケン通り(Türken Straße)が伸びています。テュルケン通りを進んでいけば、ヒトラーとエヴァがデートするときに待ち合わせした交差点や、次の「その3」で紹介する、ヒトラーを暗殺しようとした家具職人のゲオルク・エルザーが働いていた家具屋があります。テュルケン通りはナチスの党本部などがあったシェリング通りとも交差しています。

ゲシュタポの本部前のブルエナー通り。奥にはオベリスクゲシュタポの本部前のブルエナー通り。奥にはオベリスク

また、ブリエナー通りをそのまま進めば、オベリスクがありかつては褐色の家だったNS文書センターがあるナチスの官庁街になります。

シェリング通りは「ミュンヘンでヒトラーの面影を追う旅6 ~愛人エヴァ編-その1~」、ナチスの官庁街は「ミュンヘンでヒトラーの面影を追う旅8 ~開戦への道編~」をご参照ください。

ドイツの第3の都市とはいえ、日本の大都市と比べるとミュンヘンの街は、こぢんまりしています。ナチス時代のゆかりの場所を周っていると、あらゆる場所が徒歩圏内の近所だったことがわかります。ヒトラーゆかりの場所のすぐ近くに、ヒトラーを倒そうとした人が住んでいたりするのです。だからこそ、当時の生活感が感じられるのです。

ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡」シリーズの【第64回】から【第74回】までは、ミュンヘンを中心にヒトラーと彼を取り巻く人たちを紹介しています。人物だけでなく、彼らとゆかりがある場所が辿れるように、通り名のスペルやアクセス方法、行き方なども可能な限り紹介しているので、グーグル地図などと併せて参考にしながら、現地で周っていただけたらと思います。

ミュンヘンの目抜き通り、ノイハイザー通りミュンヘンの目抜き通り、ノイハイザー通り

【第74回】ミュンヘンでヒトラーに抵抗した市民の痕跡を巡る は、3ページ構成です。
「その1」から順に読んでいただくと、より楽しんでいただけると思います。


< 【第74回】ミュンヘンでヒトラーに抵抗した市民の痕跡を巡る その1
【第74回】ミュンヘンでヒトラーに抵抗した市民の痕跡を巡る その2
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【連載】ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡(第1回~第100回)

著者:ヒロマル

戦争遺跡ライター
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1979年神奈川県生まれ、神奈川県逗葉高校、代々木ゼミナールで1浪、立教大学経済学部卒業。

大学在学中からヨーロッパ、アジアなどを海外放浪してハマってしまい、そのまま新卒で就職せずフリーターをしながら続ける。その後、会社員生活をしながらも休み、転職の合間を利用して海外放浪を続ける。50ヶ国以上訪問。会社の休暇を利用して年に数回、渡欧して取材。

2012年からライター業を会社員との二足のわらじで開始。
2014年からwebメディア(株)フォークラスのTOPICS FAROで2つのシリーズを連載中。

▼もんちゃんねる(You Tube)
https://www.youtube.com/channel/UCN_pzlyTlo4wF7x-NuoHYRA

▼「ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡」シリーズ
https://topicsfaro.com/series/warruins
ヨーロッパ各地を取材し、第二次世界大戦に関する場所を紹介。
軍事用語などは極力省き、中学レベルの社会の知識があれば楽しめる記事にしています。
同シリーズが2017年に書籍化。
「ヒトラー 野望の地図帳」(電波社)から全国書店の世界史コーナーで発売中。

▼「受験に勝つ!世界史の勉強法」シリーズ
https://topicsfaro.com/series/wh
2018年から主に世界史を中心とした文系の勉強方法について執筆。
大学受験だけでなく、大学生や社会人の大人の教養としての世界史の勉強方法にも触れて、
高校生、大学生、社会人とあらゆる世代を対象としています。

世間の文系離れを阻止して、文系の学問の復権に貢献することが、2つの連載の目的です。

▼ご依頼、ご質問はこちらのメールまたはツイッターから
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