昨今、密かに話題のダークツーリズムとは?
「ダークツーリズム」(Dark Tourism)とは、災害、戦争、事件があった現場を実際に訪れ、人類の悲しみを継承して、亡くなった方を悼む旅のことです。「ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡」シリーズもダークツーリズムの1つになります。
ダークツーリズムの研究は、90年代後半、ヨーロッパで始まったと言われています。
当初は第2次世界大戦、ナチスの研究が多くを占めていましたが、9.11同時多発テロ、3.11東日本大震災をきっかけにアメリカや日本でも注目を浴びるようになりました。 アウシュビッツ強制収容所へ訪れる観光客も2001年~2011年の間で10倍になってと言われています。
これからは国内外問わず、ダークツーリズムはメジャーな旅の方法の1つになると思います。
ヨーロッパで一番、ダークツーリズムに最適なのはベルリン まず、手始めにヨーロッパのダークツーリズムにオススメしたいのは、ドイツの首都ベルリンです。ベルリンは第2次世界大戦を境にファシズム政権だったナチス時代、共産主義だった東ドイツ時代を経験しています。
今までのベルリンをテーマのいくつかの記事でも紹介しましたが、1つの史跡に複数のダークツーリズムが隠されているのです。
例えば、テンペルホーフ空港は、ナチス時代、東西分裂時代、現代(難民受け入れ施設)と3つのダークツーリズムの場所となっています。
国会議事堂は、同じナチス統治時代でも、ヒトラーが政権を取るきっかけとなった国会議事堂放火事件、また戦争終結時ソ連がドイツを降伏させた象徴として、国会議事堂に登りソ連国旗を振るソ連兵士の写真があります。
テンペルホーフ空港と国会議事堂について詳しくは、1945年、独ソのベルリン最終決戦の跡地を散策編。
ダークツーリズムの面白さは、時空を越えて楽しむことができることです。
ベルリンはナチス時代、東西時代と受け継がれてきた建物が非常に多く、複数のダークツーリズムの宝庫なのです。 ベルリン中心部では、ナチス時代のホロコースト記念碑、東西時代の検問所チェックポイント・アーリーが約1キロ圏内にあります。チェックポイント・アーリーのすぐ近くにあるナチス時代の国家秘密警察跡の博物館、テロのトボクラフィーの敷地内にはベルリンの壁跡があったりと、まさにカオスなのです。
ナチス、東西分裂時代の史跡を紹介した、「ベルリン廃墟大全」
そんなナチス、東西分裂時代の史跡で溢れているベルリンの廃墟を集めた本があります。 それは2016年12月、青土社さんより発売された「ベルリン廃墟大全」です。 日本で昨今ブームになっている、廃墟写真、廃墟見学ツアー。そのベルリン版になります。「ベルリン廃墟大全」は、ベルリンの廃墟を訪れている、アイルランド出身のベルリン在住ジャーナリストキアラン ファーヘイ氏のブログを書籍化したものの日本語版です。
私も完成間近の時、固有名詞のチェックなど、ほんのわずかですが本書の校正に携わりました。
病院、工場、放送局、兵舎、廃線跡、遊園地…
などの跡地を豊富な写真と小説タッチの文章で紹介しています。 廃墟なので、一般人では行きにくい場所だとは思いますが、読みものとしても楽しめる本です。
タイトル: ベルリン廃墟大全
著者: キアラン ファーヘイ
出版社: 青土社
ベルリンはドイツの首都からヨーロッパの首都へ?
1989年に実現された東西統一後のベルリンは、地理的にも政治的にも東西ヨーロッパの中心になりました。EUも旧東欧の国々も続々と参加して、ベルリンは東西ヨーロッパのゲートウェイとして重要な位置にあります。21世紀のヨーロッパの首都としての役割をベルリンは担っています。
私が初めてベルリンを訪れたのは単一通貨のユーロが導入される直前の2001年でした。 当時のベルリンはいたる場所が再開発のために工事中でした。東西統一後に真っ先に再開発されたソニーセンターなどがある、ポツダム広場も今より閑散としていました。東京の感覚でみると大国ドイツの首都としては少し寂しい雰囲気というのが第1印象でした。
その後、2016年までに4度ベルリンを訪れています。
その間にドイツ最大のベルリン中央駅が開業して新しい時代のベルリンを感じる一方、中心部にホロコースト記念碑、テロのトボクラフィーなど、ナチス時代のモニュメントもつくられました。ベルリンではまだ第2次世界大戦が終わっていないという印象も受けるのです。
地政学的に新たな時代のヨーロッパの中での地位を求められる一方で、21世紀になっても過去との清算にも向き合わなくてはいけない、ドイツの首都ベルリン。
また、現代のヨーロッパは移民問題、テロなど治安の面で問題を抱えています。ヨーロッパが政治的にはEU、経済的には単一通貨ユーロの流通により一体化している一方で、ヨーロッパの人々は保守主義に向かう世論になっています。
ベルリンは元々中東系からの移民が多く、ベルリンの壁アートに象徴されるように世界中からアーティストが集まるコスモポリタンな街、そんなベルリンがヨーロッパ内で今後どのような舵取りをしていくのか注目していきたいです。
2016年12月、ベルリンでテロ発生。新たなダークツーリズム?
本記事を執筆最中にベルリンで、チュニジア系移民によって起こされた数十人が死傷するテロが発生しました。
発生場所は、カイザー・ヴィルヘルム教会の前のクリスマスマーケットが行われていた広場。
カイザー・ヴィルヘルム教会は本シリーズでも何度か取り上げましたが、第2次世界大戦中の1943年、イギリス軍の爆撃によって半壊した教会です。爆撃された当時のまま、現代に残っています。今回の事件によって、この場所は不幸にも複数のダークツーリズムの場となってしまいました。
残念ではありますが、結果的に現代のベルリンの現代史を象徴したようなテロ事件となってしまいました。
複数のダークツーリズムが起ってしまう街、それがベルリン。
今後、ベルリン、ヨーロッパはどのような道に進むのか、本シリーズが興味を持つきっかけとなれば幸いです。