ゲリに続き、自ら命を絶とうとしたエヴァ
ゲリを失ったあとのヒトラーは、プライベートの生活を楽しむ余裕がありませんでした。1929年の世界大恐慌で打撃を受けたドイツが、再びヒトラーの力を必要としたからです。1932年、ナチスがドイツの国政選挙で第1党に躍進したその矢先、またしてもヒトラーの身に悲劇が起こります。
ゲリの自殺から1年足らずの1932年11月1日、寂しさに絶望したエヴァが自ら命を絶とうとしたのです。エヴァは、ヒトラーのそばにいられる女性になると思い込んでいましたが、多忙となったヒトラーには彼女を顧みる余裕がなかったことが発端です。
自宅で首に向かってピストルの引き金を引きますが、頸動脈から数ミリ外れたおかげで命は助かりました。
自殺未遂したエヴァの実家
エヴァが自殺未遂した実家が、まだ残っています。場所はプリンツレゲンテン広場のヒトラーの家から徒歩圏内です。
プリンツレゲンテン広場のヒトラーの家やゲリについては、「ミュンヘンでヒトラーの面影を追う旅5 ~愛する姪ゲリ編~」をご参照ください。
ヒトラーの家があるプリンツレゲンテン広場から伸びるポッサード通り(PossarStraße)をひたすら歩くと、広場になっている交差点に突き当たります。
そこからシャイナー通り(ScheinerStraße)を少し進むと右側にあるイン通り(innStraße)に入ります。イン通りに入って3番目の左角から伸びるテルプ通り(DelpStraße)にエヴァの実家がありました。
イン通りとテルプ通りの角にはセルビア共和国の大使館もあることからもわかるように、とても閑静な住宅街です。
エヴァの実家はテルプ通りの右側(DelpStraße 12)にありました。当時の建物が2015年まで残っていましたが、取り壊されて新しい家になっています。
ヒトラーの愛人の実家ということで、地元で議論の末、取り壊しが決まったようです。オーストリア、ブラウナウのヒトラーの生家も保存に関して議論がされていますが、どのような決着をみるのでしょうか。
ヒトラーの生家は、「オーストリアの旅。ヒトラーの足跡を辿ってみる 少年時代編」をご参照ください。
ヒトラーの生家やエヴァの実家も閑静な住宅街の一角にあり、そこからは2人が国の運命を共にする悲劇的な最期を迎えたとは想像がつきません。
ヒトラーの家からプリンツレゲンテン広場のヒトラーの家から徒歩15分ほどで着きます。
帰りはプリンツレゲンテン広場まで戻らず、地下鉄、U4のBöhmerwaldplatz 駅を使うと便利だと思います。
エヴァの家があるテルプ通りを進むとドナウ通り(DonauStraße)に突き当たります。ドナウ通りを右に進んでいくと大きなリヒャルト=シュトラウス通り(Richard-Strauss-Straße)に出ます。その環状線沿いにBöhmerwaldplatz 駅があります。
その後のヒトラーとエヴァ
ヒトラーはエヴァの自殺未遂に衝撃を受けますが、だからといって、エヴァと会う回数が増えたというわけではありませんでした。
1933年になるとナチスが政権を取り、ヒトラーの忙しさは拍車がかかります。活動の舞台がミュンヘンから首都のベルリンになったことも、回数を増やせない原因となりました。
それでも忙しい合間をぬって、ミュンヘンに行った時は、エヴァと会っていたことが、唯一ヒトラーにできることでした。
この頃になると、「ヒトラーの山荘」として有名なベルヒデスガーデンの山荘が完成します。エヴァは生活の大部分をそこで過ごしました。
第二次世界大戦が始まってからはヒトラーもベルヒデスガーデンで過ごすことが多くなります。ナチス幹部との会談、軍幹部との作戦会議などが行われました。また戦況が悪化して心身がどんどん疲れていく中、エヴァとのひとときはヒトラーにとって癒しだったことでしょう。
※ケールシュタインハウスは夏期だけ一般公開されています。
本シリーズの初期に執筆した、「ナチスドイツの総統、アドルフ・ヒトラーゆかりの地を巡る」編で軽く触れています。
しかし、ヒトラーの愛人となったエヴァは公式行事で表舞台に立つことはほとんどありませんでした。エヴァの存在を知っていたのはヒトラーと近い人たちだけでした。
エヴァはそのようなヒトラーとの関係にやきもちしている一方で、ヒトラーへの想いが強くなっていくのです。だからこそ、ヒトラーの静止を断り、ミュンヘンからソ連軍が迫りくるベルリンの総統地下壕に単身乗り込み、最期をヒトラーと迎えようとしたのかもしれません。
1945年4月28日深夜、ソ連軍の砲弾が迫りくる総統地下壕で側近だけに見守られた結婚式を挙げます。4月30日、ヒトラーは拳銃で、エヴァは青酸カリで命を絶ったのでした。
それは第三帝国と言われたナチスドイツが崩壊した瞬間でもありました。
ヒトラーとエヴァの最期の場所は、「1945年、独ソのベルリン最終決戦の跡地を散策」編をご参照ください。
【本記事における参考文献】
ヒトラーをめぐる女たち(TBSブリタニカ)
著:エーリヒ・シャーケ
<<【第69回】ミュンヘンでヒトラーの面影を追う旅6 ~愛人エヴァ編-その1~
【第69回】ミュンヘンでヒトラーの面影を追う旅6 ~愛人エヴァ編-その2~
同シリーズが「ヒトラー 野望の地図帳」として書籍化
同シリーズが書籍化され、各書店の歴史の棚の世界史やドイツ史のコーナーに置かれています。web記事とは違う語り口で執筆していて、読者の方々からは、時代背景が簡潔でわかりやすい、学者とは違うテイストが新鮮、という感想をいただいております。
歴史好きはもちろん、ちょっとマニアックなヨーロッパ旅行をしたい方々の旅のお供になる本です。
著者名:サカイ ヒロマル
出版社:電波社
価格 :1,400円(税抜)