【第84回】第二次世界大戦中のスイスを追う旅3・水面下の日米和平交渉-その2|トピックスファロー

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2020年1月23日
【第84回】第二次世界大戦中のスイスを追う旅3・水面下の日米和平交渉-その2

戦時中、中立国のスイスで密かに和平交渉を進めた日本人とアメリカ人がいます。彼らの動きと日本政府の対応、そして終戦を迎えた彼らがとった行動までをご紹介します。

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戦時中から同じ場所にある、首都ベルンの日本大使館

アメリカのOSSと初の接触を終えた藤村や笠たちは、数日後、再びベルン市内でアメリカ政府から訓令を受けているOSSの欧州総局長アレン・ダレスと接見します。

ベルン中央駅前にあるシュヴァイツァーホフは、戦時中、諜報員が暗躍していたベルン中央駅前にあるシュヴァイツァーホフは、戦時中、諜報員が暗躍していた

そして、藤村は海軍省へ、笠は内閣へ、それぞれベルンの日本大使館から、アメリカとの交渉ルートができた旨を、暗号機を使い東京に緊急暗号電報を打ちます。

しかし、東京からの返答は、「敵の謀略と思われるから、十分注意されたし」でした。

1945年4月に組閣した鈴木貫太郎内閣は、日本と日ソ中立条約を結んでいたソ連を和平交渉の仲介役にする方針を固めていたのです。その代償としてソ連に日本の領土や残存兵力を割譲する条件や、スターリンに天皇の親書を持った使者をモスクワに派遣する検討をしていました。

しかし、ソ連は日ソ中立条約の不延長を通達し、近い将来、日本に攻め込むことをすでに決めていたのでした。なので、日本政府が接触を試みてもソ連政府にのらりくらりとかわされてしまいます。

ベルンの旧市街。戦火を受けなったので当時とあまり変わらないベルンの旧市街。戦火を受けなったので当時とあまり変わらない

藤村や笠はその後もしつこく、東京へ電報を打ちますが、当時の日本は外からの意見を聞き入れる雰囲気が全くなかったのです。せいぜい外務省にこの話を伝えて検討するという回答があった程度でした。

確かに日本政府としても当然、外国に駐在している一軍人や民間人の行動のために、ソ連との交渉という重大決定事項を覆すわけにもいきませんし、敵国と直接、交渉することにも疑問や不安があったことでしょう。一方、藤村や笠の苛立ちや焦燥感、無念さも容易に想像できます。

ベルンをカーブを描いて縦断するアーレ川ベルンをカーブを描いて縦断するアーレ川

そんな藤村や笠が日本へ電報を打った日本公使館は、現在の日本大使館のすぐ近くにあります。陸軍や海軍の事務所も併設されていました。

ちなみに1945年4月以前の日本公使館は、藤村や笠がOSSと初めて接触したレストランがあるムーリーとベルン中心部の中間地点にありました。今でも各国の大使館が立ち並び、旧日本公使館と旧日本公使公邸はすぐ近くにあります。

旧日本公使館旧日本公使館

イントロダクション

旧日本公使館
住所:Thunstrass 55

旧日本公使公邸旧日本公使公邸

イントロダクション

旧日本公使公邸
住所:Kirchenfeldstrass 55

アクセス:ベルン中央駅からは、トラム LINE7(赤)、LINE8(ピンク)の「Thun-Plats」下車。ムーリーに停車するLINE6は通過するので注意。同時に訪れる場合は途中で乗り換えが必要。

Thun-Platsの停留所。旧日本公使館は目の前Thun-Platsの停留所。旧日本公使館は目の前

1945年8月9日、ソ連は日本に宣戦布告を通達。樺太や満州にソ連軍が侵攻してきます。そして8月15日、終戦を迎えることになります。本土決戦は阻止できたものの、原爆は2発落とされ、度重なる空襲で日本中の国土は焦土と化していました。

終戦直後のチューリッヒでの日本人の悲劇

和平交渉が実らなかった軍人の藤村は、終戦直後、責任をとって自決しようとスイスの山に死に場所を求めます。しかし、その自然の美しさに我に返り、日本へ帰って祖国の復興のために働こうと決意をしたそうです。

スイスのアルプスの山々スイスのアルプスの山々

一方で、終戦の日にスイスで自決を遂げた日本軍人がいました。陸軍の岡本清福(おかもと きよとみ)中将です。岡本は1943年、欧州情勢を視察するために日本から派遣されましたが、戦争激化により帰国ルートを閉ざされ、そのままドイツ、スイスの駐在武官になります。

藤村、笠らの海軍のルートとは別に、金融関係者と連携を取りながら、陸軍のルートで和平交渉をしていましたが、実ることはありませんでした。

8月15日、チューリッヒの事務所兼自宅で、頭をピストルで撃ち自決をします。

その建物がチューリッヒには残っています。

チューリッヒ中央駅からだとトラムのLINE 4で直通で行けます。最寄りの停留所は、「Feldeggstrass」です。停留所を降りたら、トラムの進行方向と逆に戻り、2つ目の交差点のマイナウ通り(Mainaustrass)を左に曲がります。そのまま直進して2つ目の交差点の角の建物になります。チューリッヒ湖と並行して走るベレリヴェ通りに面しています。

岡本が自決した建物岡本が自決した建物

隣にはクロアチア領事館があって、現在でも外国の公使館が多い地域になります。近くのチューリッヒ湖には観光地や地元の人達が散歩しているような場所です。

近くのチューリッヒ湖近くのチューリッヒ湖

イントロダクション

住所:Bellerivestrasse 7

日本が焦土となっている中、戦乱に巻き込まれていないスイスの美しい自然や街並みで、終戦工作に翻弄して、なかには自決を決意したり、遂げたりした人もいました。当時の日本人は国内外問わず、悲惨な状態で終戦を迎えましたが、一見平和な国で国の存亡をかけた戦いに身を投じていた日本人もいたのです。

チューリッヒの街並みチューリッヒの街並み

ドクター・ハックが住んでいた最高級ホテル

最後に日本の終戦工作に協力してくれた、ドイツ人のドクター・ハックが亡命中に住んでいたホテルがチューリッヒにあるので軽く紹介します。

現在でもチューリッヒの最高級ホテルであるドルダー・グランド・ホテルです。ここからハックは日本海軍にナチスや連合軍の情報を流していました。

アクセスは、トラムLINE 3の停留所「Romenhof」からケーブルカーの終点まで行き、森の中を歩いていくと、風格のあるドルダー・グランド・ホテルが見えてきます。宿泊費が破格ですが、高台にあるのでチューリッヒの街はアルプスは一望できます。

ケーブルカーの線路ケーブルカーの線路

ドルダー・グランド・ホテルドルダー・グランド・ホテル

参考文献

本記事の参考文献でもあり、第二次世界大戦中のスイスでの日米交渉について詳しく知りたい方は、以下の2冊をお勧めします。書店で入手は難しいかもしれませんが、Amazonなどで購入できます。

  • スイス発緊急暗号電 笠信太郎と男たちの終戦工作 坂田卓雄 西日本新聞社
  • 「スイス諜報網」の終戦工作 ポツダム宣言はなぜ受け入れられたか 有馬哲夫 新潮社

他には、日瑞関係のページも参考になります。
当時の日本とスイスの関係や第二次世界大戦中にヨーロッパに滞在していた日本人の追跡を研究しているサイトです。
http://www.saturn.dti.ne.jp/~ohori/sub15.htm

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同シリーズが「ヒトラー 野望の地図帳」として書籍化

同シリーズが書籍化され、各書店の歴史の棚の世界史やドイツ史のコーナーに置かれています。web記事とは違う語り口で執筆していて、読者の方々からは、時代背景が簡潔でわかりやすい、学者とは違うテイストが新鮮、という感想をいただいております。

歴史好きはもちろん、ちょっとマニアックなヨーロッパ旅行をしたい方々の旅のお供になる本です。

ヒトラー 野望の地図帳

「ヒトラー 野望の地図帳」
著者名:サカイ ヒロマル
出版社:電波社     
価格 :1,512円(税込) 

【連載】ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡(第1回~第100回)
【連載】ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡(第101回~)

著者:ヒロマル

戦争遺跡ライター
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1979年神奈川県生まれ、神奈川県逗葉高校、代々木ゼミナールで1浪、立教大学経済学部卒業。

大学在学中からヨーロッパ、アジアなどを海外放浪してハマってしまい、そのまま新卒で就職せずフリーターをしながら続ける。その後、会社員生活をしながらも休み、転職の合間を利用して海外放浪を続ける。50ヶ国以上訪問。会社の休暇を利用して年に数回、渡欧して取材。

2012年からライター業を会社員との二足のわらじで開始。
2014年からwebメディア(株)フォークラスのTOPICS FAROで2つのシリーズを連載中。

▼もんちゃんねる(You Tube)
https://www.youtube.com/channel/UCN_pzlyTlo4wF7x-NuoHYRA

▼「ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡」シリーズ
https://topicsfaro.com/series/warruins
ヨーロッパ各地を取材し、第二次世界大戦に関する場所を紹介。
軍事用語などは極力省き、中学レベルの社会の知識があれば楽しめる記事にしています。
同シリーズが2017年に書籍化。
「ヒトラー 野望の地図帳」(電波社)から全国書店の世界史コーナーで発売中。

▼「受験に勝つ!世界史の勉強法」シリーズ
https://topicsfaro.com/series/wh
2018年から主に世界史を中心とした文系の勉強方法について執筆。
大学受験だけでなく、大学生や社会人の大人の教養としての世界史の勉強方法にも触れて、
高校生、大学生、社会人とあらゆる世代を対象としています。

世間の文系離れを阻止して、文系の学問の復権に貢献することが、2つの連載の目的です。

▼ご依頼、ご質問はこちらのメールまたはツイッターから
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