EU(ヨーロッパ連合)の起源とも関係するストラスブール
フランスの都市、ストラスブールのあるアルザス地方は、フランスの北東に位置し、東側はライン川沿いにドイツと接しています。17世紀から20世紀前半にかけて、ドイツ、フランスの国家間の抗争によって、フランス領になったりドイツ領になったりする歴史を繰り返してきました。
現代、多くのヨーロッパの国が加盟しているEU(ヨーロッパ連合)の起源とも関係するアルザス地方の中心都市、ストラスブールの戦争の歴史を紹介します。
小説「最後の授業」の舞台にもなったアルザス地方
1870年の普仏戦争で、ドイツ領となったアルザス地方ではフランス語の使用が禁止されます。ドーテの小説「最後の授業」では、アルザス地方の小さな村の学校で、フランス語の最後の授業が行われる話が描かれています。
「最後の授業」は日本の国語の教科書にも採用されていた時期もあるので、読んだことがある方も多いのではないでしょうか。
アルザス地方の紛争史 ~独仏の火種だったアルザス地方の石炭、鉄鉱石~
1648年 三十年戦争 神聖ローマ帝国(今のドイツ)の敗北でフランス領1870年 普仏戦争 フランスの敗北でドイツ領
1919年 第1次世界大戦 ドイツの敗北でフランス領
1940年 第2次世界大戦 緒戦のフランスの敗北でドイツ領
1945年 第2次世界大戦 ナチスドイツの崩壊でフランス領、現在に至る
「EU」に加盟している国は、通貨もユーロで統一され、事実上、国境の概念がなくなっているといってよいのが今のヨーロッパです。
その「EU」の起源は、第2次世界大戦後、フランスとドイツの戦争の火種であったアルザス地方で豊富に産出する石炭と鉄鉱石を、ヨーロッパ各国で共同管理することを目的に発足したECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)でした。「EU」は経済的な意図よりも、繰り返してきた戦争の反省から生まれた、政治的な意図によって誕生しました。
ストラスブールへのアクセス
ストラスブールへは、パリからフランス新幹線TGVの乗れば、約2時間20分で着きます。ストラスブールは、古くから交通の要衡として栄えました。
何度もドイツ領となった歴史からドイツの雰囲気がある街と言われています。
なので、フランスの都市なのにドイツの街と似ている部分を数多く見つけることができます。
そのような理由からも、ドイツ南部から行くのも面白いと思います。(筆者もドイツ旅行中に足を伸ばして、ドイツから鉄道を使ってストラスブールに行きました。)ちなみに、ストラスブールの駅やドイツのフランスとドイツの国境近辺の駅の表示は、フランス語とドイツ語の2表示になっていたりします。では、何度も戦争の火種となったフランスとドイツの国境を、ドイツから陸路で越えてみましょう。
ストラスブールの観光案内
ストラスブールの旧市街は、ライン河の支流イル川の中州になります。中州の外にあるフランス国鉄のストラスブール駅からトラムに乗って、3つ目の停留場「Langstross Grand Rue」で下車すると街の中心、グーデンベルグ広場に着きます。
赤色砂岩の色彩が鮮やかなカテンドラル(ノートルダム大聖堂)、プティット・フランス(小さなフランス)と呼ばれる城壁に黒い木骨組の建物が並ぶ地域は、グーデンベルグ広場から歩いてすぐの場所に位置しています。
アルザス地方をモデルにしている、ジブリ映画「ハウルの動く城」では、木骨組の建物がたくさん出てきます。モミの木のツリーの発祥の地と言われるアルザス地方は、クリスマス市が名高く、クリスマスシーズンには多くの観光客が押し寄せます。
ストラスブールは美術館や博物館も多いので、じっくり周りたい人は、1軒目が無料、2軒目以降が半額となる3日間有効のストラスブール・パス(14ユーロ)を購入すると良いでしょう。ストラスブール・パスを使うとカテンドラル(ノートルダム大聖堂)への入場とイル川の遊覧船も無料になります。ストラスブール・パスは、ノートルダム大聖堂前の観光案内所で購入することができます。
ヨーロッパ宮(欧州本会議場)
EUは、ヨーロッパを2度と戦場にしないために、フランスとドイツの協調体制をつくることから発足しました。そこで、係争地であるアルザス地方のストラスブールで、ヨーロッパの国会にあたる欧州議会が開催されることになります。
欧州議会が開かれるヨーロッパ宮(欧州本会議場)は、ストラスブール旧市街の東側に設置されました。
現代のヨーロッパ宮は、ガラス張りのモダンな建物で、加盟国の国旗とEUの旗が立てられています。
(現代の日本のニュースでもヨーロッパからの報道は、ストラスブールから発信されることも多いです。)
イル川の湖畔に建てられているので、遊覧船でも外観を見ることができます(トラムで行くこともできます)。
一般見学を受け付けてくれる日もあるので、観光案内所で問い合わせてみましょう。
「両大戦の休戦条約調印の舞台、コンピエーニュの森 ~独仏因縁の場所~」の記事でも紹介しましたが、ヨーロッパの人達は、過去の争いごとの舞台だったり、因縁のあった場所へのこだわりが大変強いのがわかります。
大学受験の時、受験科目に世界史を選択したり、大学で政治経済を専攻している学生の方々は、2度の世界大戦の要因の一つでもあり、EUの起源となったアルザス地方の中心都市、ストラスブールをぜひ訪れてみてください。
教科書や授業で習った歴史や時事問題を肌で体験することが、学生時代の海外旅行の醍醐味の一つだと思います。
【連載】ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡(第1回~第100回)
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