【第99回】青年時代のヒトラーと親友グビツェクの友情 リンツ編-その2|トピックスファロー

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2023年9月29日
【第99回】青年時代のヒトラーと親友グビツェクの友情 リンツ編-その2

ヒトラー自身の著書「我が闘争」以外で、ヒトラーの青年時代を知ることができる本があります。それは、親友グビツェクの回想録。今回はそれを元に、ヒトラーの青年時代を追ってみました。

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青年ヒトラーの初恋の女性、シュテファニー

そんな2人の散歩コースで、ヒトラーはある女性に恋をします。

初めての出会いは、2人が初めて歌劇場で出会ってから、約1年近く過ぎようとしていた1905年初夏の夕方。いつものようにリンツ市内を歩いていたヒトラーは、グビツェクの腕を激しく掴みます。

「母親と腕を組んで歩くブロンドのほっそりとした、同い年くらいの女性はどう思うか?」

ヒトラーはグビツェクに尋ねます。

「僕は彼女のことが好きなんだ!」

ヒトラー青年の初恋の瞬間でした。

2人は彼女のことを「シュテファニー」というコードネームを付けて呼ぶことになります。

毎日同じ時刻、市民が買い物や食事をするリンツの目抜き通りを歩く、シュテファニー親子。2人は毎日、同じ街角に立って彼女達が歩くのを見守ります。

目抜き通り、ラント通り目抜き通り、ラント通り

ヒトラーは従順なグビツェクにシュテファニーの身辺調査をさせ、彼女が住んでいる場所、家族構成、まだ彼氏がいないことを聞き出します。しかし、ヒトラー本人からシュテファニーにアタックすることはありませんでした。

ヒトラーとグビツェクと一緒に、毎日、同じ街角でシュテファニーが通る時間に待ち構えていて、シュテファニーも自分のことに惹かれていると妄想していたのです。

シュテファニーが時々、若い将校たちと話していると、ヒトラーは嫉妬して激怒、「うぬぼれた間抜けども!」と彼らを呼び、軍人に対する否定に及びます。後年、オーストリア軍への兵役を拒否、指導者として第二次世界大戦を起こした時も、常に軍の将校の戦術に激怒していたヒトラー。軍人への終生の拒否反応はこの頃に芽生えたのかもしれません。

また、一方でシュテファニーがたまたまヒトラー達の方に微笑み返した時は、ヒトラーは見たこともないような上機嫌になりました。

シュテファニーがダンスが好きだという情報を手に入れると、ヒトラーは今まで俗世間的なものと拒否していたダンスの話題をたくさんしてきて、自宅で妹のパウラと一緒にダンスの練習をしていたのではないかとグビツェクは推測しています。

一方で、ヒトラーも現実的にシュテファニーと付き合える可能性がほとんどないことを認識して、シュテファニーを誘拐して、ドナウ川に身を投げることまで本気で考えるようになります。

ヒトラーが心中しようとした橋と川ヒトラーが心中しようとした橋と川

後年、ヒトラーと関係を持った女性は自殺や自殺未遂をしています。青年時代のヒトラーも恋に悩み、自殺まで考えていたのでした。ヒトラー自身、自分が愛したものには、それ以外に世界はないような狂信的で純粋な感情を示し、その一方でそんなヒトラーに惹かれた女性も同じくらいの情熱で彼を愛したのです。

親友グビツェクもまたそんな中の1人でした。ヒトラーが美術アカデミーを受験するためにウィーンに短期滞在していた時も、グビツェクは毎日、同じ場所でシュテファニーを観察して、ウィーンのヒトラーに手紙で報告する従順さをみせていたのです。

ヒトラーと女性関係についての関連記事です。ご参照ください。

【第68回】ミュンヘンでヒトラーの面影を追う旅5 ~愛する姪・ゲリ編~
【第72回】ミュンヘンでヒトラーの面影を追う旅9 ~英国女性ユニティ~
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ヒトラーが、毎日、初恋の女性を待ち伏せしていた交差点

ヒトラーとグビツェクが、シュテファニーを毎日待ち伏せしていた場所は、グビツェクとヒトラーの家の中間地点からややグビツェクの家の近くに位置した交差点です。

そこはリンツの目抜き通りであるラント通りと、中央広場に向かうシュミートアエック通りの交差点で、現在でも存在します。筆者の宿泊したホテルもすぐそばにあり、リンツ滞在中は何度も通りました。トラムの駅、カフェ、ファーストフード、立ち食いホットドックの店が並び活気がある場所です。

交差点。前がシュミートアエック通り、撮影側がラント通り交差点。前がシュミートアエック通り、撮影側がラント通り

別角度から。左がシュミートアエック通り、右がラント通り、撮影側はグビツェクの家があった方向別角度から。左がシュミートアエック通り、右がラント通り、撮影側はグビツェクの家があった方向

おそらく、上記写真の「BIPA」の建物付近に2人はいたと思われます。

行き交うリンツ市民も、まさかあのヒトラーが、毎日初恋の人を追うために待ち構えていたなんて、知ってる人はほとんどいないでしょう。

第二次世界大戦後、歴史研究者がウィーンで暮らしていたスティファニーを訪ねた時、当時、ヒトラーの存在には気づいていなかったのことです。一度ヒトラーが支離滅裂な手紙を送ったことがあり、そのことは記憶の片隅にあったらしいですが、それがあのアドルフ・ヒトラーだと知って驚いたそうです。

関連動画
ヒトラーの青春を追う旅 リンツ編④ ヒトラーが毎日初恋の女性をストーカーしていた街角
ヒトラーの青春を追う旅 リンツ編④ ヒトラーが毎日初恋の女性をストーカーしていた街角(@YouTube)

「【第99回】青年時代のヒトラーと親友グビツェクの友情 リンツ編」は、3ページ構成です。
「その1」から順に読んでいただくと、より楽しんでいただけると思います。


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【連載】ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡(第1回~第100回)

著者:ヒロマル

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1979年神奈川県生まれ、神奈川県逗葉高校、代々木ゼミナールで1浪、立教大学経済学部卒業。

大学在学中からヨーロッパ、アジアなどを海外放浪してハマってしまい、そのまま新卒で就職せずフリーターをしながら続ける。その後、会社員生活をしながらも休み、転職の合間を利用して海外放浪を続ける。50ヶ国以上訪問。会社の休暇を利用して年に数回、渡欧して取材。

2012年からライター業を会社員との二足のわらじで開始。
2014年からwebメディア(株)フォークラスのTOPICS FAROで2つのシリーズを連載中。

▼もんちゃんねる(You Tube)
https://www.youtube.com/channel/UCN_pzlyTlo4wF7x-NuoHYRA

▼「ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡」シリーズ
https://topicsfaro.com/series/warruins
ヨーロッパ各地を取材し、第二次世界大戦に関する場所を紹介。
軍事用語などは極力省き、中学レベルの社会の知識があれば楽しめる記事にしています。
同シリーズが2017年に書籍化。
「ヒトラー 野望の地図帳」(電波社)から全国書店の世界史コーナーで発売中。

▼「受験に勝つ!世界史の勉強法」シリーズ
https://topicsfaro.com/series/wh
2018年から主に世界史を中心とした文系の勉強方法について執筆。
大学受験だけでなく、大学生や社会人の大人の教養としての世界史の勉強方法にも触れて、
高校生、大学生、社会人とあらゆる世代を対象としています。

世間の文系離れを阻止して、文系の学問の復権に貢献することが、2つの連載の目的です。

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