青年ヒトラーの初恋の女性、シュテファニー
そんな2人の散歩コースで、ヒトラーはある女性に恋をします。
初めての出会いは、2人が初めて歌劇場で出会ってから、約1年近く過ぎようとしていた1905年初夏の夕方。いつものようにリンツ市内を歩いていたヒトラーは、グビツェクの腕を激しく掴みます。
「母親と腕を組んで歩くブロンドのほっそりとした、同い年くらいの女性はどう思うか?」
ヒトラーはグビツェクに尋ねます。
「僕は彼女のことが好きなんだ!」
ヒトラー青年の初恋の瞬間でした。
2人は彼女のことを「シュテファニー」というコードネームを付けて呼ぶことになります。
毎日同じ時刻、市民が買い物や食事をするリンツの目抜き通りを歩く、シュテファニー親子。2人は毎日、同じ街角に立って彼女達が歩くのを見守ります。
ヒトラーは従順なグビツェクにシュテファニーの身辺調査をさせ、彼女が住んでいる場所、家族構成、まだ彼氏がいないことを聞き出します。しかし、ヒトラー本人からシュテファニーにアタックすることはありませんでした。
ヒトラーとグビツェクと一緒に、毎日、同じ街角でシュテファニーが通る時間に待ち構えていて、シュテファニーも自分のことに惹かれていると妄想していたのです。
シュテファニーが時々、若い将校たちと話していると、ヒトラーは嫉妬して激怒、「うぬぼれた間抜けども!」と彼らを呼び、軍人に対する否定に及びます。後年、オーストリア軍への兵役を拒否、指導者として第二次世界大戦を起こした時も、常に軍の将校の戦術に激怒していたヒトラー。軍人への終生の拒否反応はこの頃に芽生えたのかもしれません。
また、一方でシュテファニーがたまたまヒトラー達の方に微笑み返した時は、ヒトラーは見たこともないような上機嫌になりました。
シュテファニーがダンスが好きだという情報を手に入れると、ヒトラーは今まで俗世間的なものと拒否していたダンスの話題をたくさんしてきて、自宅で妹のパウラと一緒にダンスの練習をしていたのではないかとグビツェクは推測しています。
一方で、ヒトラーも現実的にシュテファニーと付き合える可能性がほとんどないことを認識して、シュテファニーを誘拐して、ドナウ川に身を投げることまで本気で考えるようになります。
後年、ヒトラーと関係を持った女性は自殺や自殺未遂をしています。青年時代のヒトラーも恋に悩み、自殺まで考えていたのでした。ヒトラー自身、自分が愛したものには、それ以外に世界はないような狂信的で純粋な感情を示し、その一方でそんなヒトラーに惹かれた女性も同じくらいの情熱で彼を愛したのです。
親友グビツェクもまたそんな中の1人でした。ヒトラーが美術アカデミーを受験するためにウィーンに短期滞在していた時も、グビツェクは毎日、同じ場所でシュテファニーを観察して、ウィーンのヒトラーに手紙で報告する従順さをみせていたのです。
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ヒトラーが、毎日、初恋の女性を待ち伏せしていた交差点
ヒトラーとグビツェクが、シュテファニーを毎日待ち伏せしていた場所は、グビツェクとヒトラーの家の中間地点からややグビツェクの家の近くに位置した交差点です。
そこはリンツの目抜き通りであるラント通りと、中央広場に向かうシュミートアエック通りの交差点で、現在でも存在します。筆者の宿泊したホテルもすぐそばにあり、リンツ滞在中は何度も通りました。トラムの駅、カフェ、ファーストフード、立ち食いホットドックの店が並び活気がある場所です。
おそらく、上記写真の「BIPA」の建物付近に2人はいたと思われます。
行き交うリンツ市民も、まさかあのヒトラーが、毎日初恋の人を追うために待ち構えていたなんて、知ってる人はほとんどいないでしょう。
第二次世界大戦後、歴史研究者がウィーンで暮らしていたスティファニーを訪ねた時、当時、ヒトラーの存在には気づいていなかったのことです。一度ヒトラーが支離滅裂な手紙を送ったことがあり、そのことは記憶の片隅にあったらしいですが、それがあのアドルフ・ヒトラーだと知って驚いたそうです。
関連動画 |
ヒトラーの青春を追う旅 リンツ編④ ヒトラーが毎日初恋の女性をストーカーしていた街角(@YouTube) |
「【第99回】青年時代のヒトラーと親友グビツェクの友情 リンツ編」は、3ページ構成です。
「その1」から順に読んでいただくと、より楽しんでいただけると思います。
< 【第99回】青年時代のヒトラーと親友グビツェクの友情 リンツ編-その1
【第99回】青年時代のヒトラーと親友グビツェクの友情 リンツ編-その2
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