ヒトラーに嫌われた絵があるオスロ市庁舎
オスロ中央駅から王宮へ向かい、カールヨハン通りを歩いて左側に入ったところにオスロ市庁舎があります。大広間では毎年12月10日、ノーベル平和賞の授賞式が行われます。 大広間で目につくのが巨大な油絵。第二次世界大戦のナチスドイツ支配下に描かれたものが多く、占領下の苦しみが現れています。
様々な「人生」を歩んだムンクの絵
入口からみて右側の階段を上がったところに、「ムンクの間」と呼ばれる部屋があります。ここは記者会見や小規模なレセプションに使われています。
ムンクの間には、ムンクの「人生」という絵が飾られています。この絵は元々、スウェーデン人のコレクターの所有物で、ドイツのドレスデンの国立美術館に展示されていました。
当時ドイツの政権を握っていたヒトラーにこの絵は毛嫌いされ、国立美術館から撤去されます。そして、1938年、美術商によってスイスでオークションにかけられ、トーマス・オスレンというノルウェー人のムンクのコレクターに落札されました。
しかし、1940年、入札を競っていたオスロ市の「人生」をオスロ市庁舎に飾りたいという強い要望によって、トーマス・オスレンはオスロ市へ売却しました。
ナチスドイツがノルウェーに進撃してきた1940年に、ヒトラーに毛嫌いされたムンクの「人生」がムンクにゆかりがあるオスロに返還されたのも何か皮肉です。
歴代国王との対面
ムンクの間と反対側の部屋には、ノルウェーの歴代国王の油絵の肖像画があります。
正面から見て左の2枚は、現国王ハーラル五世夫妻、扉を挟んで右隣がハーラル五世の父親であるオラブ前国王、その更に右隣がオラフ前国王の父親であるホーコン七世、全部で4枚あります。
映画「ヒトラーに屈しなかった国王」ではホーコン七世を主人公にして、第二次世界大戦中、ドイツの手から逃れるためにオスロを脱出、降伏か抵抗かの選択を迫られたノルウェー王室の3日間が描かれています。当時は王子だったオラフ、まだ子供だった現国王ハーラル五世も登場します。
オスロ市庁舎は入場料が無料なので、ぜひ見学してみてください。
ノルウェーのレジスタンスが処刑されたノルウェー抵抗博物館
オスロ市庁舎の後ろにある海岸沿いを歩いた高台に、第二次世界大戦中のノルウェーを紹介する「ノルウェー抵抗博物館」があります。
ノルウェーをはじめ、第二次世界大戦中、ナチスドイツに占領されていた国の首都では、当時の記録を残す博物館に「抵抗博物館」という呼称がつけられています。
実際には当時のレジスタンスを紹介するだけでなく、第二次世界大戦に巻き込まれる過程、ドイツ軍との戦闘、当時の市民の暮らしなども展示されているため、「歴史博物館」といった印象を受けます。
「抵抗博物館」という呼称にしているのは、ナチスドイツに占領されながらも、国民全員が指を加えて黙っていたわけではないという、一つの国家としてのプライドの表れなのかもしれません。
博物館の外観は小さいですが、展示は地下もあるのでけっこう大きい博物館です。
デンマークの抵抗博物館(2018年8月現在建設中)は、「北欧戦跡の旅2:数時間でナチスドイツに降伏したデンマーク」編。
オランダの抵抗博物館は、「第2次世界大戦中、ナチスに抵抗した歴史を伝えるオランダの博物館」編で紹介しています。
ご興味があれば、併せてご覧いただけたらと思います。
入場すると展示は時系列順になっており、1940年4月9日、ドイツ軍がノルウェーに侵攻してきた日から始まります。
当初、ドイツ軍ではなくイギリス軍の爆撃があるのではないかと噂され、パニックになるオスロ市民の写真があります。
既述したように、イギリス軍もドイツ軍の侵攻を妨害するために、領海を犯してノルウェー沖に機雷を設置するなど海上封鎖をしようとしていました。
中立の立場であったノルウェー政府は、イギリスに対しても抗議を行っていたのです。中立国にとってドイツ軍も侵略者でしたが、ドイツ軍と対峙しているイギリスをはじめとする連合軍も侵略者なのには変わりません。
ヒトラーはその状況を利用して、イギリス軍の攻撃から守るための保護占領という要求をノルウェー政府に突き付けたのでした。
映画「ヒトラーに屈しなかった国王」でも以下のようなシーンがあります。
ノルウェー駐在のドイツ大使
「こんなのは彼ら(ノルウェー)からしたら、ただの侵略だ。」
ドイツ軍のノルウェー駐在武官
「それを侵略とわからないように、(ノルウェー)に伝えるのがおまえ(大使)の仕事だろ。」
ヒトラーと交渉するか?戦うか?
オスロを脱出して列車、乗用車でノルウェー北部を転々とするホーコン七世国王一行。そんな中、ノルウェー駐在のドイツ大使が逃避行中のホーコン七世と接触します。
ドイツ大使はホーコン七世に対して、ヒトラーの要求を個人的に懐柔して、可能な限りの妥協案を提案します。
ホーコン七世
「私は国民に選挙で選ばれた国王だ。この国の主権は政府や国民にある。それを無視して降伏することはできない。」
このやり取りは映画でもクライマックスのシーンになります。
その後、約2ヵ月の戦闘の上、ノルウェー本国は支配下に置かれるも、国王一家、政府は6月7日トロムソからイギリスへ亡命。祖国を離れてナチスドイツと戦う道を選びます。
【第59回】北欧戦跡の旅3:ヒトラーに屈しなかったノルウェー初代国王 は、3ページ構成です。
「その1」から順に読んでいただくと、より楽しんでいただけると思います。
<【第59回】北欧戦跡の旅3:ヒトラーに屈しなかったノルウェー初代国王-その1
【第59回】北欧戦跡の旅3:ヒトラーに屈しなかったノルウェー初代国王-その2
>【第59回】北欧戦跡の旅3:ヒトラーに屈しなかったノルウェー初代国王-その3