コロナ自粛で2ヶ月かけて16冊のヒトラーの伝記を読破
2020年は新型コロナウイルスが世界中で蔓延しています。筆者は毎年、年末年始、GW、夏と平均で年3回、取材のために渡欧していましたが、当面、日本を出国するのは難しくなりそうです。2020年は7月下旬にポーランドへ行く予定で、フライトも予約していましたが、キャンセルを余儀なくされました。
しかし、そのおかげで時間ができたので、所用以外の外出も控えて、家で本を読む時間に充てるようにしました。
読んだのは、第二次世界大戦の通史、ヒトラーに関する本。2020年5月中旬から7月下旬にかけて、3つの長編シリーズ(計16冊)を読破しました。今回はこの3シリーズを紹介したいと思います。
第二次世界大戦 ヒトラーの戦い(全10巻)児島襄 文春文庫
まずは「【番外編】独断と偏見でヒトラーを知るための書籍を紹介」編で、読破中と紹介した「第二次世界大戦 ヒトラーの戦い」シリーズです。
文庫本サイズのものは1冊400ページから500ページもあり、1つのシリーズを読破するのは容易ではありませんが、各巻の概要や読む際のアドバイスも紹介しますので、参考にしてください。
本シリーズの概要
日本人の歴史作家である児島襄によって、1970年代に「週刊ポスト」で連載。1990年代前半までに10巻もの文庫版が出版されました。上でもお伝えしたとおり、1冊約500ページもあるので、全巻合わすと5,000ページという大作になります。
後ほど紹介する2つのシリーズは、ヒトラーの生涯に焦点を当てていますが、「第二次世界大戦 ヒトラーの戦い」は第二次世界大戦のヨーロッパ戦線の話が中心となります。ナチスドイツのヒトラーの観点からだけでなく、ソ連、アメリカ、イギリスといった連合軍の観点からも描かれています。50年以上前に書かれたものとはいえ、文体も読みやすい作品です。
各巻の概要と読破アドバイス
筆者は、渡欧する際の取材などで必要な巻の一部だけは読んだことがありましたが、10巻を通しで読むのは初めてになります。全巻の読破にかかった期間はちょうど1ヶ月でした。
1週間で2~3冊、仕事がある平日は1日100ページ、土日の週末で300ページのペースで読んでいました。
全巻を通しでなくても、興味のある年代、戦いに絞って読むのでも良いと思います。例えば、ヒトラーの地下壕での最期に興味があるなら、最終巻の10巻だけを読んでも楽しめるので、各巻で扱っている時代を紹介します。
1巻
1889年~1937年
第一次世界大戦から復員後の政治家、ヒトラーの誕生から、1936年のラインラント進駐、ベルリンオリンピックまでになります。ヒトラーの生い立ちやウィーンでの青年時代は数ページしかありません。ヒトラーのこの時代に関しては、後ほど紹介する2つのシリーズの方が詳しいです。
2巻
1937年~1939年9月
ヒトラーが外交で近隣諸国を併合してドイツを戦争に向わせる過程、開戦、ポーランド降伏が描かれています。
1、2巻に関しては、ヒトラーを中心とした戦間期のヨーロッパの歴史になります。後に紹介するヒトラーの生涯に迫った2つのシリーズを読む前に、読んでおくと入りやすいかもしれません。
3巻
1939年10月~1941年5月
ポーランド降伏から副総統へスのイギリス単独飛行事件までを扱っています。北欧、フランス侵攻、ロンドン空襲など、ナチスドイツがヨーロッパを圧巻する時代です。
4巻
1941年5月~1942年6月
独ソ戦、アフリカ戦線の話が中心になります。
5巻
1942年7月~1943年7月
スターリングラードの敗北、同盟国、イタリアの戦線離脱など、ナチスドイツの雲行きが怪しくなります。
6巻
1943年7月~1944年7月
5巻に続き、イタリアの離脱の顛末、東部戦線ではソ連に押し返され、西部戦線ではノルマンディーに連合軍が上陸してきます。
7巻
1944年7月~1944年11月
ヒトラー暗殺未遂事件からパリ解放とついに西部戦線の連合軍がドイツ本土に迫ります。ヒトラーの完全勝利が消え失せたことが確実になった時期です。
8巻
1944年11月~1945年2月
ドイツ軍が西部戦線で最後の攻勢である、バルジの戦いの失敗、崩壊する東部戦線、連合軍の首脳がドイツにとどめをさすための会議のため、ソ連のヤルタに集まります。
9巻
1945年2月~4月
8巻に続き、ヤルタ会談、連合軍はどちらが先にベルリンに行くかで対立、ドイツも絶望的な抵抗を試みます。
10巻
1945年4月、ヒトラーの地下壕。自殺、降伏の最期の話が中心。
ヒトラーの地下壕での自殺は、映画になるなど有名ですが、後に紹介する2つのシリーズでも描かれています。しかし、この10巻ではあまり知られていない、ヒトラー自殺後から無条件降伏までの1週間のタイムラグの出来事が詳しく書かれています。
ヒトラー(上下巻) イアン・カーショー 白水社
「第二次世界大戦 ヒトラーの戦い」を読破した勢いで、ぜひこの上下巻(2冊)に挑戦してみてください。
本書の概要と所感
イギリスの歴史研究家、イアン・カーショーによる、「ヒトラー(上)1889-1936 傲慢」「ヒトラー(下) 1936-1945 天罰」の2冊は、2016年に邦訳されて日本で発売されました。原書は1998年に完成して、ヒトラー研究の最新版で、質、量と共にヒトラーの伝記の決定版と言われています。
上巻は500ページ、下巻は800ページ程度です。とても分厚い本ですが、参考文献のページに数百ページを割いているので、全てが本文というわけではありません。文庫本の「第二次世界大戦 ヒトラーの戦い」ベースだと5冊分くらいには相当するのではないでしょうか。
上巻は1週間、下巻は10日程で読破しました。「第二次世界大戦 ヒトラーの戦い」が戦史ならイアン・カーショー「ヒトラー」はヒトラーの人物史です。ヒトラーの生い立ち、青年時代から始まり、地下壕での自殺まで、周囲の人物の証言を中心に構成されています。第二次世界大戦が始まっても詳細な戦場での話はあまりありません。巻頭にはヒトラーの写真や側近の写真が豊富に掲載されて読みながらイメージをしやすいと思います。
「第二次世界大戦 ヒトラーの戦い」が戦史、軍事マニア向けなら、イアン・カーショーの「ヒトラー」はヒトラー個人に関して、学術的な観点から読みたい人向けになります。
ただし、その分厚さで持ち運びは決して楽とは言えず、通勤列車の中で読むことはあまりお勧めしません。
アドルフ・ヒトラー(全4巻)ジョン・トーランド 集英社文庫
最後に紹介したいのが、「アドルフ・ヒトラー」(全4巻)です。
本書の概要と所感
「アドルフ・ヒトラー」は、ヒトラーの生涯を描いた人物史で、アメリカのノンフィクション作家、ジョン・トーランドにより、1970年代に刊行され、1990年代に文庫化されました。全4巻で1巻500ページ、全巻で2,000ページほどになります。読破するのには2週間ほどかかりました。
「【番外編】独断と偏見でヒトラーを知るための書籍を紹介」編でも紹介した通り、何度かこのシリーズを読んでいて、筆者のヒトラーの知識の核となる本とも言えます。「第二次世界大戦 ヒトラーの戦い」、「ヒトラー」を読み終えた後、復習という形で改めて読み返しました。
イアン・カーショーの「ヒトラー」が学術的な内容なら、ジョン・トーランドの「アドルフ・ヒトラー」は文学的な要素が強く、小説を読んでいるような感じになります。
この作品が完成したのが1970年代ということで、生き残ったヒトラーの側近や従事者にインタビュー取材をして作られているため、リアリティがあります。ヒトラーと直接関わった関係者のほとんどが鬼籍の現在では、このような作品を作り出すことは難しいでしょう。
筆者が動画でも紹介しています。
「【第三帝国 書籍紹介③】「アドルフ・ヒトラー」ジョン・トーランド著(@YouTube より)」
「【第三帝国 書籍紹介④】第二次世界大戦 ヒトラーの戦い(@YouTube より)」
「【第三帝国 書籍紹介⑤】「ヒトラーの戦い 児嶋襄」と「アドルフ•ヒトラー ジョントーランド」を併用して再々….?読破中(@YouTube より)」
ヒトラーの生涯の全日にちの記録 阿部良男 柏書房
ヒトラーの生まれてから亡くなる日までのほぼ全日数を記録した本があります。
紹介した長編シリーズのお供に、辞書代わりに重宝できます。
著者は、民間企業に勤める傍ら、2000年頃までに国内で出版されたほぼすべてのヒトラー関連の書籍を参照して作成しています。
今後の読書する本の指針にもなります。
動画での紹介はこちら
「【第三帝国 書籍紹介①】「ヒトラー全記録 20645日の軌跡」(@YouTube より)」
コロナ自粛は知識を蓄える期間
最初にお伝えした通り、筆者は年始年末・GW・夏休みと、平均して年3回程度、取材のために渡欧します。渡欧の数ヶ月前からは、取材先の予習、渡欧、帰国後執筆(数週間~1ヶ月)というスケジュールなので、取材先のテーマに絞った本しか読むことができないのが現状でした。
しかし今は、新型コロナウイルスによって渡欧ができない状態です。そのこと自体は残念ですが、自粛期間を利用してヒトラーの生涯、第二次世界大戦の通史を改めて勉強する機会が得られた点については良かったと感じています。
本記事を執筆中の2020年夏現在、先行きは不透明ですが、もうしばらく渡欧は難しい状況は続くことでしょう。世の中が落ち着いて、海外との行き来も以前のようにできるようになったら、すぐにより質の高い取材、記事執筆に取りかかれるよう、その時の備えとして引き続き知識をつける期間を継続していくつもりです。
なお、本記事で紹介した、「第二次世界大戦 ヒトラーの戦い」と「アドルフ・ヒトラー」は、古い本なので書店で入手するのは難しいですが、アマゾンでは中古本で1冊数百円、ヤフーオークションでは全巻セットや単品を買うことができると思います。「ヒトラー」は2冊で2万円ほどするので、図書館で借りることをおすすめします。
興味が湧いた方は、ぜひお手に取っていただけたらと思います。
同シリーズが「ヒトラー 野望の地図帳」として書籍化
同シリーズが書籍化され、各書店の歴史の棚の世界史やドイツ史のコーナーに置かれています。web記事とは違う語り口で執筆していて、読者の方々からは、時代背景が簡潔でわかりやすい、学者とは違うテイストが新鮮、という感想をいただいております。
歴史好きはもちろん、ちょっとマニアックなヨーロッパ旅行をしたい方々の旅のお供になる本です。
著者名:サカイ ヒロマル
出版社:電波社
価格 :1,512円(税込)
筆者が動画でも紹介しています。
「【著書紹介】ヒトラー野望の地図帳 サカイヒロマル著(電波社) 〜ヒトラーや第二次世界大戦の痕跡を現地取材〜(@YouTube より)」