ヨーロッパの発展を担ってきたライン川輸送
ライン川はヨーロッパの中央に位置する国際河川の一つです。ドイツとフランスの国境地帯を流れていて、ヨーロッパの交通路として重要な役割を持ち、物流を支える外国の船が行き来しています。
下流地域は、ドイツ、フランスとの国境に接するスイスのバーゼルから、ヨーロッパ最大の工業地帯であるドイツのルール地方へ。そして、その先のオランダ国内で2つの川にわかれて、ヨーロッパ最大の港湾であるオランダのロッテルダムが河口となっています。
全長は約1,233km。日本最長の信濃川の約3.6倍、ヨーロッパでは、ヴォルゴ川、ドナウ川についで3番目に長い川です。ドイツ国民はライン川に愛着をこめて「父なるライン」と呼んでいます。
19世紀の普仏戦争の頃から第一次世界大戦まで、民謡「ラインの護り」は、ドイツ人に広く愛されました。ヒトラーが第一次世界大戦で従軍する際の戦場への輸送列車の中で、ライン川を見ながら兵士たちから「ラインの護り」の大合唱が自然発生したそうです。
第二次世界大戦では、ライン川はフランスとの天然国境というのもあり、戦局に大きな影響を与えました。
初期の「奇妙な戦争」と呼ばれる、独仏の膠着状態の時は、ライン川を挟んで両陣営からお互いの戦意をくじかせる、プロパガンダ放送が流されました。
末期では、西側からドイツに迫る連合軍が苦戦した自然の天然要塞がライン川でした。
ライン川については、「【第38回】ライン川に架かっていた唯一の橋、レマーゲン鉄橋」「【第87回】ライン川渡航に成功!パットン将軍が立ち小便をした場所?」もご参照ください。
失敗したマーケットガーデン作戦は、オランダ国内でライン川が2つの川にわかれた直後のネーデルライン川流域で行われました。
マーケットガーデン作戦については、「【第21回】映画「遠すぎた橋」の舞台となった激戦地、オランダのアーネム」をご参照ください。
日本では見られない欧州の輸送形態
ライン川を挟んで走行している鉄道の車窓からは、コンテナを載せた貨物船の行き交う姿が見えます。ライン川では小型の船(フィーダー船)で運行して、ロッテルダムで大型船に積み替えられます。ここでは日本の川では見られない光景が2つあります。
コンテナ船による河川輸送
まず一つ目が、コンテナ船による河川輸送です。
日本には国際河川が存在しません。海外と日本を行き交う国際海上コンテナ船は、海と接している港湾で船積み、荷卸しをされます。港湾までの国内輸送は、主にドレージと呼ばれる、トラック輸送になります。
一方ドイツでは、国際河川であるライン川で輸送して内陸港から鉄道、トラック輸送されます。ライン川の両側には鉄道が通っているので、車窓からコンテナ船が行き交う姿が見られます。
ライン川ではルール工業地域のボン、マインツの内陸港は特にコンテナ設備が充実しています。
下記の写真はマインツ港の鉄道と直結しているコンテナの船積み、荷卸しが行われるコンテナデポです。ノルド橋から撮影しました。
ライン川にはたくさんの支流があり、マインツは支流であるマイン川との合流地点です。マインツからマイン川を16km行ったところがドイツの国際玄関口、フランクフルトになります。
関連動画 |
【Bonn Güterverkehr terminal】ドイツ、ボン近郊 鉄道のコンテナデポ(@YouTube) |
鉄道輸送される海上コンテナ
二つ目が、国際海上コンテナが鉄道輸送されることです。
日本でも貨物列車で国際海上コンテナが輸送されることはありますが、まだまだ一般的ではありません。
その主な理由の一つは、日本の鉄道のトンネルの建築限界にあります。
海上コンテナの国際規格は、20F、40Fと決められています。また、40Fには背高、ハイキューブと呼ばれる、コンテナの高さが高いコンテナがあります(上記写真)。輸送効率が良いハイキューブは世界のコンテナの標準になりつつあり、世界のコンテナの半分を占めると言われています。
日本の鉄道のトンネルだと、ハイキューブコンテナが通れるのは東北本線の区間のみ。東海道線や山陽本線では、建築限界が低いのが現状です。
一方、ドイツやヨーロッパ各国で鉄道に乗っていると、日本のようなトンネルの建築限界が少ないため、国際海上コンテナを輸送する貨物列車をよく目にすることができます。
コンテナは船会社が所有しているもので、コンテナの両サイドには、船会社のネームが大きく記されています。
MAERSK(デンマーク)、MSC(スイス)、APL(アメリカ)、COSCO(中国)、ONE(日本)などなど。
関連動画 |
【Eisenhah Containerladung】ドイツ、鉄道による海上コンテナ貨物輸送(@YouTube) |
そんなヨーロッパで、鉄道輸送のハブとして有名なのが、世界最大の内陸港であるドイツのデュイスブルクです。ルール工業地域にあり、ヨーロッパの鉄道輸送のハブとなっていますが、近年、中国からの鉄道輸送の終着駅としても物流業界で注目されています。
中国の沿岸部からヨーロッパまで所要時間は10日ほどで海上輸送より20日ほど短縮できます。コスト面は海上輸送より高くなりますが、航空貨物の半分と言われています。
デュイスブルクは、世界各国のメーカーの工場があるルール工業地域の中心地に位置します。またライン川とルール川との合流地点であり、積み替えた後、陸路、水路でヨーロッパ各地への物流中継地点としても利用価値が高いのです。
関連動画 |
【Innenhafen Duisburg】 ドイツ、デュイスブルク近郊 車窓から見えるライン川の内陸港のコンテナターミナル(@YouTube) |
動画内で筆者は撮影している川を、ライン川と接続するルール川ではと勘違いしていますが、動画に映っている川はライン川です(動画1分49秒あたり)。
日独の国際物流の課題
この記事を執筆している2023年6月現在、国内の物流業界では「2024年ドライバー問題」が話題になっています。トラックのドライバー不足、超過労働時間による労働環境を改善するために、労働時間が制限されることになっています。
近年ホワイトカラーでは、働き方改革による残業時間の軽減やリモートワークの普及が進んでいますが、物流の根本を支える現場のドライバーにも働き方改革がなされていくことになります。
なので、今後、国際海上コンテナの鉄道輸送の普及は物流業界には必須となっていくでしょう。トンネル建築限界に対応できる専用貨車の開発などは、重要な課題となるはずです。
一方、国際河川による輸送にも弱点はあります。水位が低下すると輸送ができない可能性が高くなることです。
2022年夏は酷暑、雨不足のため、ライン川に輸送障害が起き、物流に大きな悪影響が出ました。
記事を執筆している現在も、中米のパナマ運河では水不足による通行制限がかかっています。ドイツも2023年も昨年同様の気候が予想され、ヨーロッパ最大の船会社マースク(MAERSK)は、顧客に対して鉄道輸送、トラックによる代替輸送を呼びかけています。
【第95回】ヨーロッパの中央に位置するドイツ物流の風景-その1
>【第95回】ヨーロッパの中央に位置するドイツ物流の風景-その2