【第14回】昭和天皇も訪れた第一次世界大戦の激戦地「ヴェルダン」-その2|トピックスファロー

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2022年2月4日
【第14回】昭和天皇も訪れた第一次世界大戦の激戦地「ヴェルダン」-その2

フランスのヴェルダンという地名は、「第一次世界大戦の激戦地」、「843年のヴェルダン条約が結ばれた場所」として、世界史の教科書に二度登場します。それにも関らず 日本のガイドブックには一切紹介されていません。そんなヴェルダンの街を紹介します。

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激戦地となった高地へ行ってみよう

Qssuaire Natinal de Douamont(ドゥオモン納骨堂)

ヴェルダン中心部から北東に5キロほどのところに、激戦地であったドゥオモン要塞があります。
ヴェルダン市街からは、路線バスが出ていないので、タクシーか自家用車で行くしかありません。
タクシーだと中心街から所要時間:約15分、片道:約20ユーロ

墓

ドゥオモンドゥオモン

横からのドゥオモン横からのドゥオモン

ドゥオモン要塞に近づくにつれ、広大な高地が十字架のお墓で埋め尽くされている光景が目に飛び込んできます。そして丘陵地帯の一番上まで行くと、建物の真ん中に縦に長い尖塔がそびえ建つドゥオモン納骨堂に着きます。
(冬季の公開される時間帯は、午後2時から5時までとなっています。)

売店とチケット販売所売店とチケット販売所

入口には、ドウォモン納骨堂のオリジナルマグカップやキーホルダーが売られているお土産コーナーがあります。

均等にろうそく台が置かれている均等にろうそく台が置かれている

均等にろうそく台が置かれている兵士の像

戦死者の氏名と生年月日、死亡日が記されている戦死者の氏名と生年月日、死亡日が記されている

教会教会

納骨堂の内部は、均等の間隔でろうそく台が置かれています。壁のタイルには戦死した兵士の氏名と誕生日、死亡日(死亡日のほとんどがヴェルダンの戦いがあった1916年)が掘られています。犠牲になった兵士に祈りを捧げる教会も併設されています。

クリスマスツリークリスマスツリー

その一方で、クリスマスシーズンにはクリスマスツリーも飾られます。内部全体はオレンジ色の光で照らされ、幻想的な雰囲気を醸しだしています。
鎮魂を祈る静寂な空間の中に、どこかお洒落な雰囲気も醸し出しているのです。

記念館記念館

また、納骨堂の近くにはヴェルダンの戦いの記念館があります。
冬季はクローズされていますが、見学料は無料です。
この記念館は、交戦国であるフランスとドイツが共同で建てました。

戦争直後にヴェルダンを訪れた日本人達

そんなヴェルダンにまだ生々しい戦場の跡が残る戦争直後に訪問し、後に太平洋戦争のキーマンになる日本人達がいます。

皇太子時代の昭和天皇が訪れたヴェルダン

なんと、あの昭和天皇も皇太子時代にヴェルダンを訪問しているのです。
第一次世界大戦が終結した4年後の1922年当時、日本は大正時代でした。
近い将来の日本の皇帝として、裕仁皇太子(後の昭和天皇)は、見聞を広めるために生まれて初めての外遊でヨーロッパを訪問します。
訪問先は、イギリス、フランス、オランダ、ベルギー、イタリア。
最初の訪問国、イギリスで、国王のジョージ5世からフランス、ベルギー訪問の際は、世界大戦の戦跡を視察することを薦められます。
そして、フランス、オランダ、ベルギーでの外遊の合間に何度も戦跡を訪れているのです。その時の裕仁皇太子の案内役は先程紹介したヴェルダンの英雄、ペタン将軍でした。
裕仁皇太子一行がヴェルダンの高地を訪れた時は、戦争が終わって4年が経過していました。それにも関らず、遺体収集に来た家族がいたり、突然、轟音が鳴響いて、不発弾が爆破することもありました。

無限大にある兵士の墓無限大にある兵士の墓

裕仁皇太子は、戦争の生々しさが残っているヴェルダンを訪れ、

「実に悲惨の極みである」

と何度もつぶやいていたようです。
帰国後に起った関東大震災の時、裕仁皇太子は側近と共に馬に乗り東京中の被害状況を視察します。
太平洋戦争での東京大空襲の時も、お忍びでわずかな側近と共に東京の焼け跡を視察することになります。
3月10日の東京大空襲の時の視察は、自らの意思だったと言われていますが、皇太子時代にヨーロッパの戦跡を見た経験があったからではないでしょうか(軍は天皇が東京の焼け野原の惨状を見て、戦争を止めると言い出すのではないかと、懸念して視察には反対でした)。

軍人、水野広徳の人生を変えたヴェルダン視察

戦争が終わった1年後の1919年、日本の軍人、水野広徳がヴェルダンを訪れています。
水野は海軍の軍人で、元々軍人としての視察のために、ヨーロッパに来ていました。
しかし、戦場のあまりの悲惨さを目の辺りにして、帰国後、海軍を辞職して反戦家として活動します。
この時のヴェルダンの戦跡をこう記しています。

ヴェルダンにある慰霊碑。第一次世界大戦だけでなく、第二次世界大戦も記されているヴェルダンにある慰霊碑。第一次世界大戦だけでなく、第二次世界大戦も記されている

「ヴェルダン高地の頂上に立てば・・・・
 見るも悲惨、聞くも悲哀、誠に言語の外、
 村落は壊滅状態、田園は荒廃、家畜は死滅、
 戦車や車の残骸、累々たる屍、白骨化した兵士も無数」

水野自身が従軍していた10年前の日露戦争の時よりも、第一次世界大戦は、科学の発展により兵器が飛躍的に進化し、戦死傷者も増大していました。
そして、戦場において出先の軍隊同士の戦いによって決着がついていた戦争が、銃後の街や生活も巻き込んだ戦争になっていることに気がつきます。
水野はそんな惨状をみて、これ以上の戦争になったら国が破綻してしまう、と考えるようになります。
当時、日本の国際関係では、移民問題などで、アメリカときな臭い関係になり始めていました。
また、これからの戦争は飛行機同士の戦いが主流になると言われていました。
軍人だった水野は、それらのことも当然認識していて今度の日本の戦争は、アメリカとの航空戦になると予想します。
そして、日本国民に警告するために、水野が自らアメリカとの戦争を予想したフィクション小説や、空襲される日本の都市の絵を書きます。
しかし、そんな水野も太平洋戦争直前に活動を禁じられてしまいます。

ヴェルダンの戦跡は、日本の歴史を変えた?

昭和天皇も太平洋戦争終盤になり、軍部の話に疑問をもつようになりました。
お忍びで使者に国内の状況を視察させたり、東京大空襲跡を自ら視察したことも、終戦を決意させる材料だったと言われています。
その空襲跡を見るという意志も、皇太子時代、ヴェルダンなどのヨーロッパの戦跡を視察したことが無関係ではないはずです。
また、軍人だった水野もヴェルダン訪問によって、人生が180度変わりました。
志半ばになってしまいましたが、日本が当時、進んでいた軍国主義への道に一貫して反対するようになりました。

日本の世界史の教科書には載っているのに、 日本のガイドブックに乗っていないフランスのヴェルダン。
そんなヴェルダンは、日本の頂点に君臨する人の視野を深めて、戦争終結の判断材料のけっかけにもなり、また、1人の日本の軍人の人生を変えた場所だと思うと、とても感慨深いです。
ぜひ、フランス旅行の際は、ヴェルダンにも立ち寄ってみてください。

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同シリーズが「ヒトラー 野望の地図帳」として書籍化

同シリーズが書籍化され、各書店の歴史の棚の世界史やドイツ史のコーナーに置かれています。web記事とは違う語り口で執筆していて、読者の方々からは、時代背景が簡潔でわかりやすい、学者とは違うテイストが新鮮、という感想をいただいております。

歴史好きはもちろん、ちょっとマニアックなヨーロッパ旅行をしたい方々の旅のお供になる本です。

ヒトラー 野望の地図帳

ヒトラー 野望の地図帳
著者名:サカイ ヒロマル
出版社:電波社     
価格 :1,400円(税抜) 

【連載】ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡(第1回~第100回)

著者:ヒロマル

戦争遺跡ライター
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1979年神奈川県生まれ、神奈川県逗葉高校、代々木ゼミナールで1浪、立教大学経済学部卒業。

大学在学中からヨーロッパ、アジアなどを海外放浪してハマってしまい、そのまま新卒で就職せずフリーターをしながら続ける。その後、会社員生活をしながらも休み、転職の合間を利用して海外放浪を続ける。50ヶ国以上訪問。会社の休暇を利用して年に数回、渡欧して取材。

2012年からライター業を会社員との二足のわらじで開始。
2014年からwebメディア(株)フォークラスのTOPICS FAROで2つのシリーズを連載中。

▼もんちゃんねる(You Tube)
https://www.youtube.com/channel/UCN_pzlyTlo4wF7x-NuoHYRA

▼「ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡」シリーズ
https://topicsfaro.com/series/warruins
ヨーロッパ各地を取材し、第二次世界大戦に関する場所を紹介。
軍事用語などは極力省き、中学レベルの社会の知識があれば楽しめる記事にしています。
同シリーズが2017年に書籍化。
「ヒトラー 野望の地図帳」(電波社)から全国書店の世界史コーナーで発売中。

▼「受験に勝つ!世界史の勉強法」シリーズ
https://topicsfaro.com/series/wh
2018年から主に世界史を中心とした文系の勉強方法について執筆。
大学受験だけでなく、大学生や社会人の大人の教養としての世界史の勉強方法にも触れて、
高校生、大学生、社会人とあらゆる世代を対象としています。

世間の文系離れを阻止して、文系の学問の復権に貢献することが、2つの連載の目的です。

▼ご依頼、ご質問はこちらのメールまたはツイッターから
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