【第107回】戦うポーランド!国内軍の支配地域を分断させていた難攻不落の駅-その9|トピックスファロー

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2024年8月20日
【第107回】戦うポーランド!国内軍の支配地域を分断させていた難攻不落の駅-その9

国内軍は、旧市街地区から北側にあるジョリボシュ地区も支配していました。しかし、その間にはドイツ軍が抑えていた難攻不落の駅があり、国内軍はその駅に何度も攻撃を仕掛けて、時にはその駅の下の地下道を密かに通っていたりもしました。

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ドイツ軍の難攻不落の陣地、グダンスク駅

国内軍が支配していた旧市街の北側には、ジョリボシュ地区と呼ばれるワルシャワの高級住宅街があり、そこも国内軍が支配していました。

しかし、その間にはドイツ軍が支配していたグダンスク駅があり、ワルシャワ蜂起の激戦地の一つとなります。

グダンスク駅、前方は路面電車の線路グダンスク駅、前方は路面電車の線路

前記事「【第107回】戦うポーランド!蜂起軍が駆使していた地獄の地下道-その8」で紹介した、旧市街から地下道を使って脱出した人たちの一部は、ジョリボシュ地区に向かいました。

そのとき、ドイツ軍が抑えていたグダンスク駅の下を通っていったのです。小説「また、桜の国で」にもその描写があります。

旧市街からグダンスク駅(Warszawa Gdańska railway station)まで歩いていくこともできますが、筆者は地下鉄を使いました。M1線の地下鉄の駅(Dworzen Gdanska)を降りれば目の前に、グダンスク駅の駅舎が現れます。

グダンスク駅前は高層マンショングダンスク駅前は高層マンション

2024年7月時点、ワルシャワ市内には東西に延びるM2線と南北に延びるM1線の2路線があります。グダンスク駅はこのワルシャワの全地下鉄路線で唯一、ポーランド国鉄の駅と接続している駅となります。

東西南北に十字架のように伸びている青い路線が地下鉄東西南北に十字架のように伸びている青い路線が地下鉄

戦前から計画があったワルシャワの地下鉄

ワルシャワでの地下鉄の開業は1995年。ヨーロッパの他の大都市の地下鉄と比べるとかなり遅い開業となります。

しかし、地下鉄敷設の計画自体は第一次世界大戦後、独立を果たした1918年からありました。1930年代には、後に先頭に立ってナチスドイツとも戦うスタジンスキ市長によって、建設工事が着手されていましたが、それが実現しなかったのは、第二次世界大戦の勃発が原因です。これによって、建設は中止になりました。

当時の地下鉄の計画は現在の路線と非常に似ていたそうです。

地下鉄の駅を向かうエスカレーター地下鉄の駅を向かうエスカレーター

もし、戦前に地下鉄が開通していたら、国内軍が下水の地下道を駆使していたように、ワルシャワ蜂起の時、地下鉄の駅や線路も戦いの重要な拠点になっていたのではないでしょうか。

駅の不思議な構造とグダンスク駅の戦いの碑

現在のグダンスク駅の駅舎は、ワルシャワ市内の他のターミナル駅と比べると、寂れた感じがします。駅舎にも関わらず、そこから直接ホームにはいくことができません。一度、駅を出て、駅の隣の橋へ上がれば、ホームへ降りることができます。

駅舎の中駅舎の中

現在のホームは島式ホームの2面4線構造となっています。現在はワルシャワ近郊へ行くローカル列車の発着がメインとなっていますが、第二次世界大戦後は、ワルシャワ市内の他の主要駅が破壊されてしまったため、1970年代まで長距離列車の発着駅となりました。

ドイツ軍が頑なに死守したおかげで、戦後ワルシャワ市内で唯一の鉄道駅としての機能を維持することができたとは皮肉なものです。

ホームに降りないで、線路を渡りそのまま進んでいくと、最初の交差点の手前の左側に緑の植え込みがあります。そこには、左側にうつむき姿の女性像、右側には柳が立ち、その奥に記念碑が置かれています。ワルシャワ蜂起の激戦地だったグダンスク駅の戦いのモニュメントです。

1944年8月中旬、グダンスク駅の戦いは苛烈を極めました。国内軍はジョリボシュ地区から孤立していた旧市街の部隊を救出するために向かいますが、グダンスク駅のドイツ軍の装甲車両と火砲によって、何度も蹴散らされます。国内軍は死傷者100人ほどの損害が出てもなお、グダンスク駅を奪取することはできませんでした。

左が駅舎、右がホーム左が駅舎、右がホーム

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【ワルシャワ蜂起の痕跡を巡る⑥】蜂起軍がドイツ軍から奪えなかったグダンスク駅
【ワルシャワ蜂起の痕跡を巡る⑥】蜂起軍がドイツ軍から奪えなかったグダンスク駅(@YouTube)

国内軍の北部の支配地域、ジョリボシュ地区

グダンスク駅の戦いの碑を後にそのままひたすらまっすぐに進む(アダマ・ミツキエビツァ通り)とジョリボシュ地区になります。

アダマ・ミツキエビツァ通りアダマ・ミツキエビツァ通り

グダンスク駅から20分くらい歩くとウィルソン広場に着きます。ウィルソン広場はジョリボシュ地区の中心で、地下鉄M2線のPlac Wilsona駅があります。グダンスク駅から地下鉄で一駅歩いたことになります。

ウィルソン広場とPlac Wilsona駅ウィルソン広場とPlac Wilsona駅

【第107回】戦うポーランド!1944年8月1日午後5時-その6」でも紹介しましたが、ジョリボシュ地区は、ワルシャワ蜂起の戦闘が行われた場所でもあります。Plac Wilsona駅は、ウィルソン広場からグダンスク駅方面を背にして斜め左の道(スウォヴァツキ通り)から左に行くスジン通りにあります。

スジン通りの住宅街の中にある碑スジン通りの住宅街の中にある碑

ウィルソン広場内を東西に走るズィグムント・クラシィンスキ通り。この左側に進むと、ワルシャワ蜂起時、旧市街からの地下道の出口だったマンホールがあった場所があります。
そこはポピェウシュコ神父通りとの交差点になります。

地下道を示すプレート地下道を示すプレート

クラシィンスキ通り29番の建物の前に当時のルートを示すプレートがあります。マンホール跡は確認できませんでしたが、この周辺に地下道からの出入り口があって、旧市街へ武器・弾薬を運ぶルートとして使われていたことや、旧市街から逃れてきた兵士が出てきた場所でもあったことがわかります。

プレートの前のマンホールがあったと思われる通りプレートの前のマンホールがあったと思われる通り

旧市街からジョリボシュ地区のこの場所まで、地上で歩いても最短ルートで1時間ほどはかかる距離だとは思いますが、当時、狭く暗い地下道をその何倍もの時間をかけて進んだかと思うと、その過酷さが想像に絶します。

クラシィンスキ通りクラシィンスキ通り

その地下道入り口前の通りを挟んで、丸屋根の建物は修道院です。ワルシャワ蜂起時には開戦初日から蜂起側の病院となっていました。病院だけでなく、子供が学ぶ地下学校、食料供給の場となり、1944年9月29日のドイツ軍の総攻撃まで耐えることができました。

修道院修道院

修道院の壁には、そのことを示すプレートがあって、右側の戦うポーランドのPWのシンボルが十字架となっています。

交差点の途中にある緑地には、白と赤のポーランド国旗をイメージした花が植えられた丸い花壇がありました。その奥には、四角いプレートがあり、この地で自由と祖国のためにナチスドイツと戦ったことが記されています。

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【連載】ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡(第1回~第100回)
【連載】ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡(第101回~)

著者:ヒロマル

戦争遺跡ライター
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1979年神奈川県生まれ、神奈川県逗葉高校、代々木ゼミナールで1浪、立教大学経済学部卒業。

大学在学中からヨーロッパ、アジアなどを海外放浪してハマってしまい、そのまま新卒で就職せずフリーターをしながら続ける。その後、会社員生活をしながらも休み、転職の合間を利用して海外放浪を続ける。50ヶ国以上訪問。会社の休暇を利用して年に数回、渡欧して取材。

2012年からライター業を会社員との二足のわらじで開始。
2014年からwebメディア(株)フォークラスのTOPICS FAROで2つのシリーズを連載中。

▼もんちゃんねる(You Tube)
https://www.youtube.com/channel/UCN_pzlyTlo4wF7x-NuoHYRA

▼「ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡」シリーズ
https://topicsfaro.com/series/warruins
ヨーロッパ各地を取材し、第二次世界大戦に関する場所を紹介。
軍事用語などは極力省き、中学レベルの社会の知識があれば楽しめる記事にしています。
同シリーズが2017年に書籍化。
「ヒトラー 野望の地図帳」(電波社)から全国書店の世界史コーナーで発売中。

▼「受験に勝つ!世界史の勉強法」シリーズ
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2018年から主に世界史を中心とした文系の勉強方法について執筆。
大学受験だけでなく、大学生や社会人の大人の教養としての世界史の勉強方法にも触れて、
高校生、大学生、社会人とあらゆる世代を対象としています。

世間の文系離れを阻止して、文系の学問の復権に貢献することが、2つの連載の目的です。

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