【第80回】半日だけのヨーロッパ大陸上陸作戦が行われたディエップ海岸-その2|トピックスファロー

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2019年6月4日
【第80回】半日だけのヨーロッパ大陸上陸作戦が行われたディエップ海岸-その2

第二次世界大戦中の連合軍によるフランス北部の沿岸での戦い。1942年、少数兵力で上陸を試みる「ディエップ上陸作戦」が行われたことはあまり知られていません。「その2」ではディエップ上陸作戦後の当時の様子と、その歴史の痕跡を追います。

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※本ページには戦死した連合軍の兵士の写真が掲載されています。ご注意ください。

当時のディエップの人たちの思いが残る、カナダ広場

連合軍側に4,000人近い犠牲を出したディエップでの戦い。撤退した連合軍側にとっては、今回の戦いは意義があったのか疑問を持つものでした。

しかし、ディエップの人達はそうは思っていなかったのです。それは海岸の近くにあるカナダ広場という公園でわかります。

海岸に置き去りにされた戦車の残骸海岸に置き去りにされた戦車の残骸

機銃掃射を浴びせられ海岸で戦死した連合軍の兵士たち機銃掃射を浴びせられ海岸で戦死した連合軍の兵士たち

ジゴーニュ通り沿いにあるカナダ広場は、ディエップの戦いに参戦した連合軍の主力だったカナダ軍に敬意を表して、カナダ国旗が至る所にデザインされています。

カナダ広場カナダ広場

カナダ国旗が描かれているカナダ国旗が描かれている

公園の入口にある碑には、次のように記されています。

「This was the first large-scale Allied military operation that looked forward to the liberation.」

ディエップの戦いは、フランス解放へ向けて前進する、最初の連合軍による大がかりな反抗だといっています。

実際には、カナダ軍は惨敗。ディエップの街が解放されるのは、それから2年以上待たなければなりませんでした。しかし、ディエップの街は、この戦いが後の連合軍による大反攻につながったと考えているのがわかります。

一般的に無謀な戦いだったという認識がなされていますが、現地では彼らの犠牲は決して無駄ではなく、ノルマンディー上陸作戦の布石となったという認識なのです。だからディエップの街ではカナダ軍は「敗軍の将」ではないのです。

海岸近くの子供たちのカーレース場海岸近くの子供たちのカーレース場。カナダの国旗が心なしか一番高い

また、ディエップの戦いの日に捕虜になったカナダ兵は、地元の人たちが上陸してきたカナダ軍を密かに歓迎して、支援していたということを戦後に聞かされます。

ノルマンディー上陸作戦、パリ解放が成功した直後の1944年9月1日、カナダ軍によってディエップの街は解放されます。その時彼らが住民の温かい歓迎を受けたのは、いうまでもありません。

カナダ広場の碑には、カナダ軍によって解放されたことが記されているカナダ広場の碑には、カナダ軍によって解放されたことが記されている

ディエップと似たような運命を辿ったオランダの街

ディエップの戦いのように、連合軍がドイツ占領下の都市を奪回しようとして失敗した作戦があります。それは、オランダのアーネムの「マーケット・ガーデン作戦」です。

イギリス軍の空挺部隊が、アーネムを制圧しようとして失敗します。これは、映画「遠すぎた橋」の舞台として有名です。アーネムも終戦直前、ディエップと同じくカナダ軍に解放されるのでした。

アーネムとマーケット・ガーデン作戦については、「【第21回】映画「遠すぎた橋」の舞台となった激戦地、オランダのアーネム」編をご参照ください。

ディエップの戦いの博物館

カナダ広場近くには、ディエップの戦いの博物館である、1942年8月19日メモリアルがあります。

場所は、カナダ広場とマルティル広場間のジゴーニュ通りを、マルティル広場から見て3本目。右に伸びるリュ・デュ・ポール・ドゥエスト通り(Rue du port-d’Ouest)を入って、すぐ左にあります。

入口にはカナダ国旗が掲げられている1942年8月19日メモリアル入口にはカナダ国旗が掲げられている1942年8月19日メモリアル

元々、19世紀に建てられた劇場だったものを、2002年にディエップの戦いの博物館として公開しています。

劇場だった部分が博物館の展示室になっていて、広くはありませんが兵士の軍服や所持品、当時の写真や新聞記事などが豊富に展示されています。

上段部分は劇場の席だったのがわかる上段部分は劇場の席だったのがわかる

一定の時間になると、部屋の中央では、当時の映像と共に生き残ったカナダ兵のインタビューを交えたドキュメンタリー映画を上映してくれます。フランス語で流れますが、英語の字幕も映ります。

劇場の舞台部分には元カナダ軍兵士の写真がたくさん飾られている劇場の舞台部分には元カナダ軍兵士の写真がたくさん飾られている

当時の写真は、降伏後のカナダ兵たちの写真が多い当時の写真は、降伏後のカナダ兵たちの写真が多い

イントロダクション

1942年8月19日メモリアル(ディエップの戦いの博物館)
正式名称 :19th August 1942 Memorial
住所   :76200DieppePlace Camille Saint Saens
入場料  :3.5ユーロ(クレジットカード可能)
開館日時 :月曜から金曜日の9:00~12:00、14:00~17:30(月曜日は午後のみ開館)
公式サイト:https://www.dieppe-operationjubilee-19aout1942.fr/english-version/

※詳しい時間は公式サイトで確認してください。

ディエップの目抜き通りディエップの目抜き通り

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【第80回】半日だけのヨーロッパ大陸上陸作戦が行われたディエップ海岸-その2

同シリーズが「ヒトラー 野望の地図帳」として書籍化

同シリーズが書籍化され、各書店の歴史の棚の世界史やドイツ史のコーナーに置かれています。web記事とは違う語り口で執筆していて、読者の方々からは、時代背景が簡潔でわかりやすい、学者とは違うテイストが新鮮、という感想をいただいております。

歴史好きはもちろん、ちょっとマニアックなヨーロッパ旅行をしたい方々の旅のお供になる本です。

ヒトラー 野望の地図帳

ヒトラー 野望の地図帳
著者名:サカイ ヒロマル
出版社:電波社     
価格 :1,400円(税抜) 

【連載】ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡(第1回~第100回)

著者:ヒロマル

戦争遺跡ライター
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1979年神奈川県生まれ、神奈川県逗葉高校、代々木ゼミナールで1浪、立教大学経済学部卒業。

大学在学中からヨーロッパ、アジアなどを海外放浪してハマってしまい、そのまま新卒で就職せずフリーターをしながら続ける。その後、会社員生活をしながらも休み、転職の合間を利用して海外放浪を続ける。50ヶ国以上訪問。会社の休暇を利用して年に数回、渡欧して取材。

2012年からライター業を会社員との二足のわらじで開始。
2014年からwebメディア(株)フォークラスのTOPICS FAROで2つのシリーズを連載中。

▼もんちゃんねる(You Tube)
https://www.youtube.com/channel/UCN_pzlyTlo4wF7x-NuoHYRA

▼「ヨーロッパで訪れたい世界大戦の戦争遺跡」シリーズ
https://topicsfaro.com/series/warruins
ヨーロッパ各地を取材し、第二次世界大戦に関する場所を紹介。
軍事用語などは極力省き、中学レベルの社会の知識があれば楽しめる記事にしています。
同シリーズが2017年に書籍化。
「ヒトラー 野望の地図帳」(電波社)から全国書店の世界史コーナーで発売中。

▼「受験に勝つ!世界史の勉強法」シリーズ
https://topicsfaro.com/series/wh
2018年から主に世界史を中心とした文系の勉強方法について執筆。
大学受験だけでなく、大学生や社会人の大人の教養としての世界史の勉強方法にも触れて、
高校生、大学生、社会人とあらゆる世代を対象としています。

世間の文系離れを阻止して、文系の学問の復権に貢献することが、2つの連載の目的です。

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